職場や日常生活において、加齢臭やミドル脂臭はできるだけ避けたい、デリケートな問題ですが、自分ではなかなか気づきにくいのが厄介なところです。本記事では、加齢臭とミドル脂臭の違いや原因、具体的なセルフチェック方法、効果的な対策などについて、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授にお話を伺いました。

東海大学理学部化学科 教授 関根嘉香
1966年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部、同大学院理学研究科修了。日立化成工業株式会社に勤務。1993年東海大学大学院理学研究科にて博士(理学)号取得。2000年より東海大学に勤務し、2011年より教授。専門は環境化学、皮膚ガス学。主な受賞歴に、環境化学技術賞(日本環境化学会)、松前重義賞(学術部門)(東海大学)、室内環境学会賞・論文賞(室内環境学会)などがある。
加齢臭とミドル脂臭の基礎知識
加齢臭とミドル脂臭を、同じ意味で使っている方も多いのではないでしょうか。どちらも加齢とともに発生しやすくなる体臭ですが、発生の原因や部位、臭いの特徴には明確な違いがあります。

加齢臭は、皮脂腺から分泌される皮脂が酸化することで発生する「2-ノネナール」という物質が原因で生じます。加齢によって皮脂腺の働きが変わり、酸化しやすい皮脂が分泌されるため、臭いが強くなります。男性は35歳以降、女性は40歳以降から増加する傾向があり、特に耳の後ろや首筋、背中、胸などの皮脂腺が多い部位から発生します。臭いの特徴は、古い本や枯れ草、ロウソクのような独特の香りです。食生活の乱れやストレス、運動不足が皮脂の酸化を促進し、加齢臭を悪化させる要因になることもあります。
一方でミドル脂臭は、皮膚常在菌が汗に含まれる乳酸を分解して発生した「ジアセチル」と皮脂の様々な酸化物が混じりあって生じる臭いです。働き盛りの30代から40代の男性に多くみられます。ジアセチルは特に、後頭部や首の後ろ、頭皮などの汗をかきやすい部位で発生しやすくなります。臭いの特徴は、チーズや古い油、発酵臭に似ています。運動後やストレスによる発汗、シャンプー不足がミドル脂臭の原因となるため、頭皮のケアが重要です。
これらの臭いは、発生する原因や部位が異なるものの、どちらも生活習慣の改善や日々のケアによって軽減できる可能性があります。自分の体臭の種類を理解し、適切な対策を行うことが、ビジネスマナーのひとつとしても重要です。
自分の加齢臭・ミドル脂臭をセルフチェックする方法
自分の体臭は、日々の生活の中で慣れてしまいがちで気づきにくいものです。周囲に迷惑をかける前に、セルフチェックをしてみましょう。
まず、着用後のシャツや使用済み枕カバーをビニール袋に入れ、しっかり密封します。しばらく外の空気をしっかり嗅いで鼻をリセットした後、袋を開けて臭いを確認します。袋の中の空気に含まれる臭いが、自分の体臭を客観的に判断する手がかりになります。ほかにも、市販の「体臭チェッカー」を使うと、臭いの強さや種類を数値化して確認できます。簡単にセルフチェックができるので、ビジネスパーソンにおすすめです。
なお、加齢臭やミドル脂臭は病気ではありません。ただし、体臭が急に強くなった場合は、臭いの背後に病気が隠れている可能性もあります。気になる場合は、健康診断を受けたり医療機関を受診したりしましょう。
加齢臭・ミドル脂臭の効果的な対策とケア方法
加齢臭やミドル脂臭は、適切なケアで軽減できます。基本的に洗うことで、臭いを取り除くことができます。
加齢臭対策
- ゴシゴシ洗いはNG:皮脂を落としすぎると、皮脂腺が過剰に反応し、逆に臭いが強くなることがあります。柔らかいタオルやスポンジで優しく洗いましょう。
- 朝夕のシャワーやお風呂:分泌された皮脂が、寝ている間に酸化し臭いが発生します。朝起きてシャワーを浴びることで、臭いをリセットできます。
- 食生活の改善:肉類や脂っこい食事を控え、抗酸化作用のあるもの(ビタミンCやポリフェノールを多く含む食品)を摂取することで、皮脂の酸化を抑えられます。
- 睡眠時間を確保する:寝不足やストレスが続くと、皮脂の分泌量が増え、臭いが強くなりがちです。昼寝に頼らずしっかりと睡眠を確保し、疲れを溜め込まないよう心がけましょう。
ミドル脂臭対策
- 頭皮ケアを徹底する:シャンプーでしっかり頭皮を洗い、汗や皮脂を落としましょう。シャンプー後は、ドライヤーを使って髪と頭皮をしっかり乾かすことが大切です。
- 汗をこまめに拭く:外出先などでも、濡れタオルやウェットシートを使い、汗をこまめに拭き取ることで臭いの発生を防ぎます。
- 有酸素運動を取り入れる:ジアセチルの元は乳酸。乳酸を発生しにくくするため、急激な運動は避け、ジョギングなどの有酸素運動を取り入れましょう。
加齢臭・ミドル脂臭対策におすすめの香りは?
紹介したようなケアを行っても、臭いを完全に防ぐことは難しいかもしれません。その他のエチケット対策として、香りを活用する方法も効果的です。
加齢臭には柑橘系が効果的
加齢臭の原因である「2-ノネナール」は、柑橘系の香りでマスキングできます。香水やボディスプレーを軽く吹きかけると効果的です。お香のようなウッディ・パウダリーな香りは避けたほうが無難です。
<おすすめの香り:レモン、ライム、オレンジ>
ミドル脂臭にはフルーツ系が効果的
酸化した脂の臭いには、フルーツ系やミント系の香りが適しています。
<おすすめの香り:マンゴー、パッションフルーツ、ミント>
ただし、香りが強すぎると「香害」になりかねません。他人の加齢臭やミドル脂臭が原因で、職場を辞めざるを得ないほど体調が悪くなったという事例はほとんどありませんが、人工的な香りである香水や柔軟剤などで起こる「香害」は、頭痛や吐き気、めまいなどの健康被害を引き起こしますから、より深刻です。香りでカバーする際には、あくまで自然に香る程度を心がけましょう。
加齢臭やミドル脂臭は、生理現象です。正しいケアと香りの活用で、ビジネスシーンにおけるエチケット対策を行いましょう。気にしすぎず適切な対策を行うことで、自信を持って仕事に取り組めるはずです。「職場での臭い問題を解決! 加齢臭・ミドル脂臭を防ぐ効果的な対策とエチケット」記事では、職場の臭い問題について関根先生にお話を伺います。