1 夜アイス・夜パフェ専門店はなぜ人気なのか?
近年、夜間に営業する夜アイス・夜パフェ専門店の人気が高まっています。
お酒を飲んだ後の〆としてアイスやパフェを食べることを、俗に「夜アイス・夜パフェ」
といい、北海道札幌市・すすきのから、ここ10年くらいで全国に広がったとされています。
夜アイス・夜パフェ専門店のターゲットは、主に若者です。少し古いデータですが、厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、週3回以上酒を飲む人は、2019年時点で50代が36.8%、40代が31.6%、30代が22.3%、20代が9.6%となっており、若い人ほど飲酒の習慣がありません。
1次会の後に2次会でさらにお酒を飲むのではなく、アイスやパフェで酔いを醒ますという選択は、お酒離れが進む若者に向いている
のでしょう。また、お酒の〆以外に、普段の食事後やドライブの目的地として夜アイス・夜パフェ専門店に行く人も多いといいます。専門店ならではのメニューの独自性や、夜間営業の店舗でアイスやパフェを楽しめる非日常感が、こうした人たちの心をつかんでいるようです。
夜アイス・夜パフェ専門店は、一般的な飲食店に比べ必要なスペースが小さく、導入すべき機器も少ないなど、開業のハードルはそこまで高くありません。ただ、夜アイス・夜パフェの文化自体が比較的新しいので、開業を検討しようにも、「経営にどんな苦労があるのか」「一般的なアイスやパフェの店とどう違うのか」など、イメージがつかみにくい部分があるでしょう。
そこで、
夜パフェ発祥の店である「Parfaiteria PaL」の兄弟店「Parfaiteria beL 渋谷」の店長に取材をし、店舗の特徴や夜パフェの動向についてヒアリング
しました。次章で取材内容を紹介するので、これを読めばおおまかなイメージがお分かりいただけるかと思います。その上で、第3章以降では、夜アイス・夜パフェ専門店を開業するに当たって、競争環境、注意すべき許可・規制や、Parfaiteria PaL以外の専門店の事例を紹介します。
2 店長に聞きました! 夜パフェ専門店のリアル
飲食店コンサルティング事業などを手掛ける株式会社GAKU(北海道札幌市)では、夜パフェ発祥の店である「Parfaiteria PaL(北海道札幌市)」や日本酒などの和のテイストを取り入れた「ななかま堂(北海道札幌市)」など、北海道から沖縄で7店舗の夜パフェ専門店を展開しています。
「Parfaiteria beL 渋谷(東京都渋谷区)」の店長の佐藤大介氏に、店舗の特徴や夜パフェの動向についてヒアリングができましたので、その結果を紹介します。
1)夜パフェ専門店を開業した理由について
同社は、2015年に夜パフェ専門店の1号店として、Parfaiteria PaLをオープンしました。同社の社長が甘いものが好きで、酒を飲んだ後に甘いパフェが食べられる店があったらいいなと常々考えていたことから、開業に至ったそうです。
佐藤氏「社長は、『同じパフェでも、生クリームやコーンフレークたっぷりのパフェではなく、生のフルーツを使ったソルベやさっぱりとしたジェラート、手の込んだフレンチのコースのデザートが食べたい』というこだわりがあり、それが同社の夜パフェ専門店の原点になりました」
なお、佐藤氏によると、ちょうど1号店をオープンした2015年に、北海道で「札幌パフェ推進委員会」という夜パフェ文化を盛り上げる委員会が発足し、それも同社が夜パフェ専門店を立ち上げるに当たっての追い風になったようです。
2)東京進出の経緯について
北海道で夜パフェ専門店を経営していた同社は、2017年に東京に進出し、渋谷区に「Parfaiteria beL」をオープンしました。
佐藤氏「社長が東京でもお店をやってみたいと考えており、自ら東京の町を歩いて出店場所を決めました。東京に進出した当時は、まだ夜パフェ文化が浸透していなかったため、開店当時のお店の認知度は低かったですが、百貨店の催事でブースを出したことなどがきっかけで、次第に認知度が上がっていきました」
3)メニューについて
同社は、発祥元である北海道の食材を中心に、旬を大切にしたものを提供したり、既製品ではなくて手作りのパーツを使ったりなど、顧客に高級感のあるパフェを楽しんでもらうことに特に注力しています。季節ごとにパフェのラインナップを変更しており、映画とのタイアップ商品など、期間限定のメニューも提供しています。
佐藤氏「全てのメニューが社長のアイデアを基にしています。きれいで可愛く、メニューを見ただけでこのお店のものと分かるようになっており、テーマがはっきりしているので、Instagramでもプロモーションがしやすいのが特徴です。パフェに使うパーツは既製品ではなく、全て手作りです。手作りのパーツを使うことで、味の微調整が効き、複数のパーツを使ってパフェを作る中で、どのパーツを一緒に食べても、特定のパーツだけ味が浮かないように作ることができるのが最大のメリットです」

また、接客面でも意識していることがあるようです。
佐藤氏「パフェの商品力がどうしても強くなりがちなので、お客さまの世代や人数に合わせて接客の距離感を変えて、パフェよりも、自分自身にリピーターを付ける接客を常に心がけています」
4)客層について
主なターゲットは若者ですが、それ以外の客層にも人気があるようです。
佐藤氏「20代~30代の客層が中心ですが、中には中高年のリピーターのお客さまもいます。来店のきっかけはInstagramと口コミがメインとなっているようです。また、インバウンドでの来店客も半数くらいいて、来店のきっかけを聞くと、海外の旅行会社、雑誌、テレビなどで、渋谷に行く際のオススメスポットとしてここのお店が紹介されているのを見て来たといいます」
5)客足や売り上げについて
平日・土日の客足や売り上げについても話を聞けました。
佐藤氏「多い時で、平日は100人ほどが来店して売り上げは20~25万円。土日は270人ほどが来店して売り上げは60万円くらいです。客単価は2400円程度となっています。映画とのタイアップ商品など期間限定のメニューの中には、3000円を超えるものもありますが、原価率は20%前後に収まっています」
6)出店について
開業する際の店舗の広さや出店場所などについて、次のような話が聞けました。
佐藤氏「店舗は広すぎるとその分必要なスタッフが増えて人件費がかかるので、小さめの店舗でお客さんの回転率を高めるほうがよいかもしれません。また、認知度を上げるには路面店で目立つ方が効果的ではありますが、その分家賃もかさみますので、注意が必要です」
以上が、夜パフェ専門店に実際に取材をした内容です。おおまかなイメージはつかめましたでしょうか。以降では、さらに
- 夜アイス・夜パフェ専門店を取り巻く外部環境
- 新規開業に当たり注意が必要な許可・規制
- Parfaiteria beL以外の夜アイス・夜パフェ専門店の事例
を紹介します。
3 夜アイス・夜パフェ専門店を取り巻く外部環境
夜アイス・夜パフェ専門店を取り巻く外部環境を「ファイブフォース分析」に沿って整理します。

大手の夜アイス・夜パフェ専門店はフランチャイズにより店舗や出店地域を拡大しており、InstagramなどのSNSを使ったブランディングにすでに成功している場合も多いです。
そのため、フランチャイズ以外の手段で新規開業する場合は、品質やブランディングにこだわった独自性を打ち出して、顧客が自社のパフェやアイスを購入するための動機づけを作る必要があるでしょう。
第5章で既存店舗の特徴も紹介しますので、参考にしてください。
4 新規開業に当たり注意が必要な許可・規制
1)食品衛生責任者資格
飲食店を営業するには、原則として食品衛生責任者が必要です。食品衛生責任者資格は、計6時間程度の養成講習会を受講することで取得できます。ただし、調理師や栄養士、製菓衛生師などの資格を持っている人は、講習会を受講せずに食品衛生責任者になることが可能です。
2)飲食店営業許可
飲食店を営業するために必要な資格です。必要事項を記入した営業許可申請書と施設の図面などを所轄の保健所に提出してください。各基準を問題なく満たす場合、営業許可を受けられます。
3)アイスクリーム類製造業許可
アイスクリームを製造する場合は、アイスクリーム類製造業許可が必要となる場合があります。取得には製造室や調合室の用意、原料混合機や殺菌機などの指定の機械の設置が必要となります。
4)菓子製造業許可
パフェを製造する場合は、菓子製造業許可が必要となる場合があります。原材料の保管室を用意することなどの要件を満たせば取得可能です。
5)HACCPに沿った衛生管理
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食中毒や異物混入などの食品衛生上の危害の発生を防ぐための食品衛生管理の仕組みです。原則として全ての食品等事業者に対応が義務付けられており、衛生管理計画を作成して従業員に周知徹底を図ることや、衛生管理の実施状況の記録、保存などの対応が必要になります。
厚生労働省のウェブサイトで業種ごとの手引書が公開されており、アイスクリーム類製造事業者向けの手引書もありますので、参考にしてください。
■HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html
なお、各許可の取得条件や、許可の取得そのものが必要かどうかは、地域の保健所によっても異なるため、詳細は開業を検討する地域を管轄する保健所に確認・相談しましょう。
5 夜アイス・夜パフェ専門店の事例
1)夕食やお酒を飲んだあとに食べたくなるアイス:21時にアイス(大阪府堺市ほか)
東北から九州まで40店舗以上をフランチャイズ展開している夜アイスの専門店です。店舗によって異なりますが、主な営業時間は16時~24時となっています。
夕食やお酒を飲んだあとに食べたくなる、あっさりとしたミルクアイスをメインにしたメニューが楽しめます。
SNSでは、InstagramとTikTokを使って人気商品や季節限定商品などを紹介しています。

2)テイクアウト専門で出店拡大:月曜からアイス(香川県高松市ほか)
東北から四国まで7店舗を展開している夜アイスの専門店です。店舗によって異なりますが、主な営業時間は17時~24時となっています。
店舗はイートインスペースを設けずに、テイクアウトのみとすることでコスト削減やオペレーションの短縮化を図っています。また、商品はお酒や食事の〆としてではなく「ドライブのお供」といったコンセプトで売り出しています。
SNSでは、InstagramとLINEを使って人気商品や店舗について紹介しています。他にも、FCでの開業を検討する人向けに、YouTubeチャンネルでも情報発信をしています。
なお、同店ウェブサイトによると、FCは全国展開しており、開業予算の目安は次の通りとなっています(常時2~3名体制・家賃16万5000円を想定する場合です)。
- 加盟金:300万円
- 保証金:100万円
- 物件取得費:82万5000円(2カ月前)
- 内装費用:150万円(居抜き)
- 厨房機器:250万円(中古の機器を含む)
- 初期食財:30万円
- その他消耗品備品等:52万3000円
3)写真映えを狙ったメニューを展開:アイスは別腹(兵庫県姫路市ほか)
兵庫県姫路市を中心に、東京都の渋谷区や埼玉県の桶川など全国で10店舗を展開している夜パフェ専門店です。
通常サイズのパフェよりも小さい「こどもあいす」や、アルコール入りの「大人の深酔いパフェ」など、その時のシチュエーションで夜パフェを楽しむことができます。
また、店舗に撮影スポットを設けていたり、明るい色の果物を使うなど盛り付けを工夫していたりすることで、写真映えを狙ったメニューとなっているのも特徴です。
4)観光と併せてアイスを楽しむ:夜アイス専門店 真夜中牧場(東京都墨田区)
東京都の押上と両国横綱横丁で店舗を展開している夜アイス専門店です。営業時間は16時~24時となっています。押上本店は東京スカイツリーの近く、両国横綱横丁店は両国国技館の近くにそれぞれ店舗を構えることで、仕事終わりやドライブでの利用だけに限らず、観光客の来店も図っています。
SNSでは、Instagramでメニューを紹介する他、LINEの友達登録で割引クーポンを配布するキャンペーンも行っています。
5)メニューのネーミングでインパクトを出す:This is ICECREAM(沖縄県那覇市ほか)
沖縄県から北九州と名古屋に店舗を展開している夜パフェ専門店です。「アイスで最高な週末の夜を締めくくる」をコンセプトとしており、金曜日、土曜日、日曜日の週末限定で営業をしています。店舗によって異なりますが、主な営業時間は21時~24時となっています。
週末限定の営業で特別感を出しているのと併せて、メニュー名が「一途なチョコレート」「抹茶がめっちゃ抹茶」など、ネーミングにインパクトがあり味をイメージしやすいのが特徴です。

6)完全会員制、アルコール提供で特別感を演出:Remake easy(東京都渋谷区ほか)
渋谷、名古屋、札幌で店舗を展開する完全会員制、住所非公開のパフェバーです。
月替わりのパフェメニューと併せて、ワインやウイスキーなどのアルコール類も提供しており、非日常的空間を味わうことができます。
SNSでは、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokで店舗やメニューを紹介しており、新規会員の入会募集をXで不定期に告知しています。
7)キッチンカー出店で利用を拡大:よるのアイス(大阪府大阪市)
大阪市で店舗を構える夜アイス・夜パフェ専門店です。主な営業時間は20時~24時となっています。店舗と併せて、大阪府や兵庫県のイベント会場などでキッチンカーを使って出店しており、遠方や県外の利用客拡大を図っています。
SNSでは、Instagram、TikTokで店舗やメニューを紹介しています。
以上
提供
日本情報マート
課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。