1分で相手の心を動かし、伝える力を最大化するプレゼン術——「1分で話せ」より

会社で上司に提案したり、会議で方針を説明したりと、ビジネスにおいて「伝える力」は非常に重要です。伝わる話し方とは、どのような話し方なのでしょうか?

ほとんどの人は、「いらない話」を省けずに、相手に伝わらないという非常にもったいない状態になっています。大切なのは、ただ意見を伝えるだけではなく、相手に行動を起こさせる力です。本記事では、『1分で話せ』(伊藤羊一著、SBクリエイティブ)より、伝える内容を超短時間で要約し、相手の心を動かすプレゼン術を紹介します。

1分で話せ

「プレゼン力」とは「人に動いてもらう力」

仕事においてコミュニケーションは非常に重要ですが、聞く側は話を聞いているつもりでも、いつの間にか注意がそれてしまい、結果的に相手の話の80%は耳に入っていないといいます。これはごく当然のことで、相手の理解力が悪いわけでも自分の伝え方が悪いわけでもありません。どんなに完璧なプレゼンをしても、こちらの主張を100%理解してくれることはあり得ないのです。自分の話したことがすべて相手の頭の中に残っていることは不可能です。

この「相手は自分の話を聞いていない」というコミュニケーションの特性が、自分の話を聞いてもらうための出発点となります。

相手が自分の話を8割方聞いていない状態で、相手に動いてもらうために必要となるのが、「プレゼン力」です。これは単に「人前で話すスキル」ではなく、「自分の主張を相手に伝え、理解してもらい、相手を動かすスキル」を意味します。

プレゼン力を高めるために重要なのは、まず「1分で話せるように話を組み立てる」ことです。1分で伝えられない内容は、何時間かけても相手に伝わることはありません。逆にいえば、どんな話でも1分で伝えることは可能です。5分で話すべきときでも、1時間与えられたときでも、「1分で話せるように」話を組み立てることを心がけてください。

「根拠」だけを話す人が多い

ここで問題を出しましょう。次の2つの文章、どちらが「伝わる」と思いますか?

A:この商品はお客さんが絶賛していました。販売店も受注に前向きです。実際に数字も上がっています。

B:この商品は増産すべきではないでしょうか。

Aは「根拠」だけがあり、「結論」が欠けています。「お客さん」「販売店」「数字」といった事例やデータをいくら並べても、相手はそこから何を読み取るべきかがわからず、結果として「で?」となってしまいます。一方でBは「結論」が明確です。

話には必ず結論と根拠があります。結論を一番上に、その下に根拠を並べたものを「ピラミッドストラクチャー」と呼びます。根拠は複数あることが多いので、自然とピラミッド(三角形)のような形になることに起因します。自分の頭の中でこのピラミッドがしっかり組み立てられれば、話が長くなったり伝わらなかったりすることはなくなります。「これが結論です。理由はこうだからです」というように、最初に結論を、その次に根拠を述べれば、相手は「わかった、了解」となります。

まずは伝えようとすることの骨組み、つまり結論と根拠のセットを構築することができれば、驚くほど説得力が増す伝え方ができるでしょう。

「事実」から「結論」を導く思考法

「結論を先に」というのは、ビジネスマナーにおいて常識ですが、実際には「根拠」となる「事実」を並べ立ててしまう人が大半です。これには、「結論」を誤って捉えている人が多いという要因があります。日本を代表する経営コンサルタントの大前研一氏が以前、「考えるとは、知識と情報を加工して、結論を出すことだ」と書いていましたが、知識は自分の内にあるデータ、情報は自分の外にあるデータといえます。つまり考えるとは、自分の内外のデータを加工しながら結論を導き出すことといえるでしょう。

あらためて認識していただきたいのですが、データや事実は根拠であって、結論ではありません。さまざまな根拠から自分なりに「こう思う」を導き出すために考えてください。それがピラミッドストラクチャーの頂点の「結論」であり、相手にもっとも伝えるべきことなのです。

最初に「結論は何か?」を明確に決めずに話し始めると、迷走することになります。また、準備段階では結論を明確に持っていても、準備しているうちにあれやこれや言いたいことが出てきて、それを加えているうちによくわからないストーリーになっていることもあるでしょう。そうではなく、「自分が伝えたい結論は何か」、これをはっきりさせることが大事です。
たとえば、ピラミッドの下にある「根拠」を並べて、「だから何?」と自分に問いを立ててみるといいでしょう。出てきた答えに「本当か?」とさらに問いを重ねることで、自分なりの「結論」にたどりつくことができます。

自分の伝えたい内容をその一言に包み込む「超一言」術

もうひとつ、1分で伝えて相手に動いてもらうための「超一言」というテクニックを紹介しましょう。これは「自分の伝えたいことを一言のキーワードで表す」方法です。

かっこいいネーミングにする必要はなく、覚えやすく、その一言でプレゼン全体を表現できるキーワードがあれば十分です。この「超一言」があると、聞き手はあなたの話をびっくりするほど覚えてくれます。たとえば、次の2つの言葉、どちらが心に残るでしょうか?

A:何月何日何時と、指定した日時に確実に届けるサービスです。

B:つまり、きっちり来るから「キチリクルン」です。

繰り返しますが、人は相手の話の80%は聞いていません。しかし、印象に残るストーリーをしっかり話し、相手に覚えてもらうための仕掛けを作ることで、相手に話を覚えてもらうことは十分可能です。「超一言」はそのための手法であり、自分の伝えたい内容をその一言に「包み込む」のです。要は、「めちゃくちゃ大事な一言」です。

実は、先の問題のB「キチリクルン」は、2011年に孫正義さんへのプレゼンで実際に使った言葉です。eコマースの戦略がテーマでしたが、簡単に言えば「◯月◯日にお届けすると納期を明快にすることで受注率は上がる」という内容のプレゼンでした。

「今日中に来る、明日までに来るではなく、『◯月◯日』ときっちり来るからキチリクルン」というのは、ある意味ウケを狙ったのですが、私のプレゼンのテーマそのものでした。「キチリクルン」だけ覚えてもらえれば、「そうそう、きっちり来るんだな」ということをずっと覚えていてもらえるでしょう。結果、私のあとに15人ほどプレゼンしたのですが、全員のプレゼンが終わった後に孫さんが、「君のキチリクルン、いいねぇ〜」と声をかけてくれました。

本書の要点

プレゼンに必要なのは、「うまく話す」ではなく「相手に動いてもらう」こと

単に上手に話すことがプレゼンのゴールではありません。何かを伝えるうえでもっとも重要なのは、「相手を動かす」ことができるかどうか。人は話の8割を聞き流すため、話の要点を的確かつ印象的に伝える必要があります。

「根拠」ばかり並べても人は動かない

多くの人が事実ばかり述べ、結論を伝えられていません。そんなときには「ピラミッドストラクチャー」を意識して、たくさんの「根拠」から伝えたい「結論」を考え、整理して伝えることで、自分の話を相手の心に残すことができます。

自分の伝えたい内容をその一言に包み込む「超一言」術

自分の話を流されないためには、伝えたいメッセージを1つの覚えやすいキーワードに凝縮する「超一言」が効果的。印象に残るフレーズは話の記憶定着率を高め、相手の心を動かす確かな力となります。

課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年7月4日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。