建設2024年問題を考える

芝浦工業大学建築学部 教授 志手一哉

芝浦工業大学建築学部建築学科 教授 志手一哉
1992年国立豊田工業高等専門学校建築学科卒業後、株式会社竹中工務店入社。施工管理、生産設計、研究開発に従事後、2014年より芝浦工業大学工学部建築工学科准教授、2017年より現職。専門分野は建築生産、主な研究領域は、建築プロジェクトのマネジメント、Building Information Modeling(BIM)、ファシリティマネジメント。国土交通省建築BIM推進会議学識委員、同会議建築BIM環境整備部会部会長、建築情報学会副会長、日本建築積算協会理事・情報委員会委員長など。博士(工学)、技術経営修士(MOT)、一級建築士、1級建築施工管理技士、認定ファシリティマネジャー。主な著書に『現代の建築プロジェクト・マネジメント』(彰国社)。


「建設2024年問題」が注目を集めています。2024年4月、時間外労働に上限規制が設けられ、ただでさえ足りていない人手がさらに不足することを指しますが、これによって建設現場はどの程度逼迫するのでしょうか? 芝浦工業大学建築学部の志手一哉教授に話を聞きました。

建設2024年問題とは何か?

わが国の基幹産業といわれる建設業ですが、意外にも、この業界に携わる人たちの労務問題に光が当てられるようになったのは、ここ最近のことです。バブル経済崩壊後の失われた20年のあいだ、建設現場の労働者といえば、低賃金、無保険といった問題が常につきまとっていました。

しかし時代が進み、建設業界の労働者に多く見られた無保険問題は2010年代に入って大きく改善しました。現在話題になっているのは2024年4月に開始される、時間外労働への上限規制です。これにより、長らく問題視されていた建設業界における長時間労働が大きく改善されることとなります。一方で、今のままの工期で工事を行おうとすれば、建設現場の人手不足には拍車がかかることが想定されます。これが「建設2024年問題」です。

日本の建設業界は請負契約が主で、残業という概念が乏しかったため、ゼネコンが専門工事会社と工事契約をする際も、時間外労働に対する技能者の賃金を割り増しして支払うという考え方がなかったのですが、いよいよこれを改めるべきではないかと思います。2024年4月から上限規制がかかるのは労働時間だけで、「技能者の残業代を元請けが支払うように」という規制はないのですが、時間外労働が発生した場合には正当な割増賃金も支払うことが当たり前になれば、それは施工主がゼネコンとの工事契約において時間外労働を抑制するインセンティブになります。

アメリカやシンガポールなど、海外では時間外労働や休日労働に対する割増賃金を元請けが負担する仕組みになっています。今後、日本でも徐々に、こうした支払い形態に改善していかなければならないでしょう。

深刻な技能労働者の不足

労働時間の問題は、現場監督などの「技術者」と、鳶職や型枠工、鉄筋工といった「技能労働者」に分けて考える必要があります。現場監督など技術者の多くは建設会社の社員ですから、すでに大手を中心に土曜出勤分を平日に振り替えるなどの対応で、週休2日制の導入が浸透しています。

一方、技能労働者についてはまだまだ目立った取り組みがなされていないと考えています。そんな中で2024年春以降、残業時間に上限規制が導入されるわけですから、まずは土日の閉所などが行われ、現場の工期はさらに逼迫するでしょう。

より多くの人に働いてもらえるように、待遇を改善していくことはもちろん重要ですが、現場での作業効率化も進めていかなければなりません。たとえば、建設現場では、作業の進捗状況の共有がスムーズにいかず、作業員が、作業ができる場所を探して現場内を行き来するような場面がよく見られますが、進捗情報の共有にデジタル技術を導入することで、こうしたムダな時間を省けるようになります。

資材置場やレンタル機材の管理などにもデジタル技術を導入すれば、作業時間の短縮化に寄与します。今後、建設業界ではますますDXへのニーズが高まるはずです。

労務費は今後も上げていかなければならない

公共工事設計労務単価 全国全職種平均値の推移

すでに、建設業界の労務費は右肩上がりで上昇しています。しかし、それでも人手が足りないのですから、今後も引き続き労務費は上がっていくでしょう。

「3K(きつい、危険、汚い)」と呼ばれる建設現場での労働は、若い人たちの間で人気がありません。少子高齢化も進んでいますから、なかなか簡単には人が集まらない状況が続いています。頼みの綱の外国人技能者も、発展著しいベトナムやマレーシアなど東南アジア諸国の建設現場との取り合いになるでしょう。さらなる待遇改善は待ったなしなのです。

それと同時に、テクノロジーの導入も加速させなければなりません。たとえば、建設現場で導入するロボットの開発が進められていますが、それだけでなく、構造体、外壁、配管ユニット、部屋などを工場で作っておき、これを現場に運んで組み立てるという手法を主体とした工事のやり方も検討の余地が大きいと思います。

真夏の炎天下、もしくは真冬の寒風にさらされる建設現場での作業よりも、天候の影響を和らげることができる工場内での作業の方が、働きたいという希望者が多いと思いますし、設備投資によるコストダウンも可能ですから、メリットが大きいのではないかと考えています。

いずれにしても、これまでの働き方を大きく見直して大変革を起こしていかなければ、建設業界の深刻な人手不足は解決できません。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月27日時点の内容となります。
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