会社の発展に全力を捧げて築いた資産で社会貢献活動を行いたい、と考える経営者は少なくありません。そうした際にぜひ、頭に入れておいていただきたいのが、財団法人を作って社会貢献するという方法です。EY税理士法人シニアマネージャーの阿比留亮さんにお話を伺いました。

阿比留 亮 EY税理士法人シニアマネージャー、税理士
公的機関、医療法人、公益法人等への国内税務コンプライアンスおよび税務アドバイザリーの分野において15年以上の実務経験を有する。
2005年より新日本アーンストアンドヤング税理士法人(現EY税理士法人)入所。民間企業向け・公的機関向け税務申告、民間企業向け・公的機関向け税務アドバイザリー業務、医療法人・公益法人の設立・会計・税務・組織再編等に関するアドバイザリー業務、民営化アドバイザリー業務等に従事し、現在に至る。公社、公団、公庫等の公的機関の民営化案件等の税務アドバイザリーにも従事。旧民法法人時代より、公益法人等の設立に関与し、公益法人三法施行後は新法人移行業務、新制度下の公益法人の設立にも数多く関与。
現在は主に公益法人の運営、合併、解散に係るアドバイザリー業務、国・地方公共団体、独立行政法人に対する税務アドバイザリー業務に従事。
財団法人の概要
成功した経営者が私財を投じて財団法人を設立し、社会貢献をしているという例はたくさんあります。
財産を用いて社会貢献をしたいと考える際、真っ先に頭に浮かぶのは寄付だと思います。日本赤十字社をはじめ、国内外で社会貢献活動を行っている寄付先はたくさんあります。しかし、こうした団体に寄付をした際には、資金の使い道についてある程度指定はできるものの、基本的にはお任せということになります。
したがって、自身の実現したい社会貢献活動にしっかりと財産を活用していきたいなら、自分で財団法人を設立して活動したほうが良いということになります。
財団法人とは、「財産の集まり」に法人格が与えられた組織を指します。一方、社団法人は「人の集まり」に法人格が与えられます。
2008年11月以前は、財団法人設立の際には主務官庁の許可が必要で簡単には設立できなかったのですが、同年12月以降は新しい公益法人制度が施行され、300万円以上の財産を拠出して要件を満たすことができれば、一般財団法人を設立できることとなりました。公益財団法人を作りたい場合には、いったん、一般財団法人を設立してから公益認定を受ける必要があります。
下図にあるように、さまざまな公益目的事業を行っている法人があります。

一般財団法人の設立方法
もう少し詳しく、一般財団法人の設立について見ていきましょう。登記する際には、主に3つのアクションが必要となります。(1)定款作成(2)評議員、理事、監事選任(3)300万円以上の財産拠出、です。
(1)の定款は公証役場で公証人の認証を受けます。次に(2)評議員、理事、監事の選任ですが、これは評議員3名以上、理事3名以上、そして監事1名以上、合計7名以上が必要となります。評議員は重要事項を決議したり、役員の選任・解任を決議するなど、株式会社でいえば株主のような役割です。理事は業務執行を行う取締役のようなもの。そして、監事は監査役に相当します。
(3)の財産拠出額は最低300万円。意外に少ないと感じる方も多いのではないでしょうか? 財団法人というと、ヤマト福祉財団やトヨタ財団など、大企業の設立した法人を思い浮かべがちです。しかし、実際には、巨額の資産でなくとも財団法人を設立することは可能なのです。公益認定を受ける場合でも、年間の事業費が数百万円から1,000万円程度で立派に活動しているケースはいくつもあります。
公益財団法人を設立するには目的・人選が重要
「公益財団法人設立のポイントを知っておこう」で詳しく解説しますが、税制面での優遇などが受けられる公益財団法人を目指す道もあります。公益認定を受けるにあたっては、18の公益認定基準(一般財団法人の場合は17の基準)を満たすなど、より厳しい条件を課せられます。
しかし、先に述べたように、巨額の資産でなくとも公益財団法人の認定を受けることは可能です。小さな規模であっても、有意義な目的を持ち、しっかりと社会貢献活動をしていく組織を作れるかどうかがカギとなります。
また、中小企業が公益財団法人を作る場合、評議員や理事、監事をどう集めたら良いかわからない、という声もあります。親族は3分の1までという制約があり、そのほかは外部の人材を頼ることになります。私がご相談に乗っている中小企業では、ビジネスパートナーや地域の同業者などに声を掛けるケースや、顧問弁護士、顧問税理士・会計士にお願いしているケースなどがあります。
健全な組織運営に向けて、公益法人に係る法律や財務・経理に詳しい弁護士や税理士・会計士などを選任したり、その法人で「やりたいこと」を実現できる人選を行うことも重要です。
事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。