一般社団法人日本能率協会の調査によると、昨今の製造業において、売り上げが停滞もしくは下降している企業の割合は約50%に及んでいます。売り上げが「伸長している企業」と「停滞している企業」を新規事業にフォーカスして分析し、日本の製造業が次なる成長を遂げるために、どのような取り組みを行えばいいか解説します。
目標以上の成果を得たのはわずか2%の企業
日本能率協会が全国の製造業740社に行った調査によると、「コロナ以前の3年・コロナ後の3年、どちらも売上が伸びている」と回答した企業(区分:伸長)は27%、「売上がコロナ以前の3年は停滞もしくは低下していたが、コロナ後の3年は伸びている」と回答した企業(区分:コロナ後伸長)は24%、「売上がコロナ以前の3年は伸長していたが、コロナ後の3年は停滞もしくは低下している」(区分:コロナ後停滞)と回答した企業は25%、「コロナ以前の3年・コロナ後の3年どちらも売上が停滞もしくは低下している」(区分:停滞)と回答した企業が23%でした。
では、新規事業への取り組み状況について、この4つの売り上げ伸長区分の違いを見てみましょう。
業績を伸ばすためには重要である新規事業への取り組みについて見てみると、製造業企業の約7割が新規事業開発に力を入れている一方で、事業目標の達成度は「目標以上」がわずか2%、「目標通り」が24%にとどまっていて、多くの企業が目標を達成できていないことが明らかになりました。
また過去10年間で取り組んだ新規事業の状況を尋ねたところ、「成長している事業がある」が49%、「成長している事業はない」が30%、「新規事業に取組んでいない」が20%と、全体の約半数の企業で成長している新規事業があるという結果でした。売り上げ伸長区分別でみると、「新規事業に取組んでいない」の割合はどの区分でも2割前後であるのに対して、「成長している事業がある」は「伸長」で60%、「停滞」で39%と20ポイント以上の差となりました。こうした結果から、業績が伸びている会社ほど、新規事業を成長させている傾向が強いことがわかります。
「伸長」と「停滞」の違いを生み出す要因とは
同調査にて、取り組んだ新規事業において「成長している事業がある」と回答した企業に対して、最も成長している新規事業の概要について尋ねたところ、「既存事業の多角化」の割合が42%と最も高く、次いで「既存の技術・製品に代わる新たな価値創造」(38%)、「新技術で新市場へ参入」(16%)の順となりました。売り上げ伸長区分別でみると、「伸長」「コロナ後伸長」は「新技術で新市場へ参入」の割合が全体と比較して低く、対して「コロナ後停滞」「停滞」は高いことがわかります。
一方、成長している事業がないと回答した企業に対して、事業が成長していない要因について尋ねたところ、「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」の割合が36%と最も高く、次いで「新市場を形成できない」(16%)、「営業力・プロモーション力がない」(15%)、「技術開発できない」(14%)の順となりました。この結果から停滞している企業は、新規事業の企画段階で不十分な要因があることがわかります。
また新規事業開発の取り組み状況の質問で、新規事業に力を入れていないと回答した企業に対し、力を入れていない最大の理由を尋ねたところ、「人材不足」の割合が最も高く、次いで「新規事業のコアになる製品・製造の技術がない」という結果となりました。このことから、製造業において人材育成や確保が大きな課題であることが示唆されています。
売り上げの「停滞」を抜け出すために
新規事業が成長していない要因として「収益を立てられるビジネスモデルが構築できない」が最も多く挙げられています。これは、新規事業の企画段階での市場分析やビジネスモデルの検討が不十分である可能性を示しています。新規事業を立ち上げる際に求められるのは、市場ニーズを的確に捉え、持続可能なビジネスモデルを構築するための戦略的アプローチをすることです。そのため、計画初期段階での市場調査や競合分析が不可欠なのです。
新規事業に力を入れていない理由として「人材不足」が最も多く挙げられています。この結果から、製造業において人材育成や確保が大きな課題であることが示唆されています。日本能率協会は「技術革新やDXの進展に伴い、必要とされるスキルが変化していることが考えられ、企業はリスキリングや人材育成プログラムの充実を図り、新たなスキルを持つ人材を育成する必要があるといえます」とコメントしています。
売り上げが「伸長」し続ける企業になる
同調査では新規事業開発に力を入れていると回答した企業に対して、新規事業を成長させるために取り入れている仕組みについて尋ねました。全体では「新たなことに積極的な企業文化」の割合が48%と最も高く、次いで「社長直轄組織」「投資採算性(短期的成果)だけの評価をしない」(同率36%)、「改革リーダーの配置」(35%)の順となりました。一方で、「スタートアップを後押し(社外ネットワーク活用など)」「オープンイノベーション」は2割未満と、取り入れている企業は一部にとどまることがわかります。また売り上げ伸長区分別でみると、「伸長」は、「新たなことに積極的な企業文化」の割合が6割以上と、全体と比較して10ポイント以上高い結果となりました。

この結果は、新規事業開発において、変化に柔軟に対応し、革新を続けられる企業文化の重要性を示唆しています。併せて、取り組みが内部にとどまり、外部との協業が十分には進んでいない現状も浮き彫りになりました。企業が今後の成長戦略を考える上では、外部のリソースとの連携により、新たなアイデアやビジネスモデルの探索を積極的に行う必要性があると考えられます。
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