新規事業が一定のスケールを獲得する確率は、通常2割未満といわれます。新規事業を成功に導くためにはどうすれば良いのでしょうか?
新規事業の成功率は高くないことが知られていますが、成功の原則にのっとって事業を構築すれば、その成功率を7割近くまで高めることが可能です。本記事では、『マッキンゼー新規事業成功の原則』(野中賢治・梅村太朗著、日経BP・日本経済新聞出版)より、新規事業を継続的に生み出す仕組みをつくる方法を紹介します。

企業の成長には新規事業が不可欠
マッキンゼーが過去30年にわたって米国の上場企業を調査した結果によれば、成長率がGDPを上回っている企業は、そうでない企業に比べると5割程度、会社が存続する確率が高いことがわかりました。しかし、伝統と歴史を持つ大企業だったとしても、長期間にわたって成長を維持し続けることはかなり難しいものです。
では、企業の成長をどのように実現すればいいのか? それにはM&Aによる売り上げの増加や、競合他社からの市場シェア獲得など、さまざまな方法がありますが、大企業の過去の成長実績を見ると約6割が「市場成長=自社の事業領域での市場の成長」からきており、「M&A」は3割程度、「シェア獲得」は1割未満にすぎません。
成長のために、次世代の柱となるような新規事業を作ることも重要です。新規事業を大企業が作る場合には、もともと保有する技術や事業の周辺から作り出されることが多く、これはすなわち、自社の持つ市場を見つめ直し、より成長する領域へ資源の再分配を行うことにほかなりません。つまり新規事業をどんどん立ち上げていくことが、「市場成長」を強化・加速させることであり、会社が成長を続けるためには新規事業がこれまで以上に必要になっているのです。
変化とトレンドが事業創出のきっかけになる
新規事業を作るときに重要なカギとなるのが、「変化」や「トレンド」です。わかりやすいのが、「ユーザーの変化」です。コロナショックによってデジタル化が加速し、リモートワークへのシフトなど行動パターンの変化が起こったことで、より効果的な施策を検討するサービスや広告事業なども展開できるようになりました。
また、「価値観・規制の変化」もあります。2020年のダボス会議以降、「サステナビリティ」が最も重要なテーマのひとつとなりましたが、結果、多くの企業で価値観の再定義が行われ、新たな事業機会を作り出しています。具体例としては、フードロスへの関心が高まった結果、量り売りの対象になりづらかった牛乳やオイルを包装せずに小売りする店舗が増加しました。そのような店舗展開をするオーナー向けに、「量り売り商材の店舗を出すためのフランチャイズサービス」を始めた企業も登場しています。
変化を活用した新規事業の成功事例
「事業モデルの変化」も、事業アイデアのきっかけとなり得ます。例えば「リカーリング型ビジネス」です。これは製品の売り切りではなく、顧客と継続的な関係を構築してから新しい価値を提供する事業を指します。プリンターを当初低めの価格で提供し、消耗品で収益を上げるビジネスモデルは、代表例のひとつです。新規事業とは、既存顧客に既存の製品・サービスを全く異なる事業モデルで提供することも含まれていますから、リカーリングという視点とテクノロジーの進化を組み合わせると、非常に面白い切り口になります。
現に最近では、テスラが自動運転のソフトウェアのアップデートに対して課金したり、ボルボ社が携帯電話のような月額定額支払いで車両保険やメンテナンスを含めたサービスを提供しています。
ほか、「テクノロジーの変化」でいえば、近年注目されている「メタバース」は、2030年までに20兆円規模の市場になるといわれています。しかし、技術インフラが未熟なことに加えてコストも膨大にかかると指摘されていますから、これらの課題解決自体が事業創造のチャンスになり得るでしょう。
新規事業の成功確率を上げる4つのアプローチ
新規事業を成功させるには、ひとつの事業に全てを賭けるのではなく、新しい事業アイデアが次々と生み出され、それらが適切な選別と育成を経るような仕組みが不可欠です。つまり、新規事業パイプラインを強化しつつ、より成長性の高い事業を選別して育てていく、という視点で新規事業を設計する必要があります。
ここで、新規事業を構築するための主要な4フェーズのアプローチを紹介しましょう。
① 創造(Ideating)フェーズ
思考を思い切り発散させて、優れた新規事業アイデアを多数生み出し、絞り込んでいきます。絞り込む際には、「次世代の柱となる事業を作る」という視点に立ち返ることが大切です。さらに簡易的な事業プランを策定します。その事業がどのように成長し、どのタイミングで、どのくらい資金とリソースが必要になるかの目安を想定していくのです。
② 構想(Planning)フェーズ
絞り込んだ事業コンセプトをもとに事業計画を策定していきます。スポンサーに事業計画や試作品を持ち込んだときに、彼らがお金を投資するかどうかを判断できるくらいの内容に持っていくことを目指します。そして、製品・サービスの骨子や、顧客が価値を感じる体験を設計するとともに、事業構築に必要なチームを組成し、迅速に開発するための体制を整備します。
③ 構築(Building)フェーズ
事業を立ち上げるフェーズで、ここで新規事業が「机上の検討」から「実態を持ったイキモノ」に大きく変質します。ローンチに向けた体制を整える「セットアップ」、製品・サービスの提供を開始する「ローンチ」、継続的に製品・サービスを改善しながら拡大準備を始める「拡大準備」の3つのステップから成ります。
④ 拡大(Scaling)フェーズ
事業価値を生み出す、重要なフェーズです。事業を拡大して本格的な事業投資を始め、半年くらいを目処に、事業を社内にとどめるか、外部化して事業拡大につなげるかの判断を行います。ときには人材獲得やブランドを目的とした買収によって、時間と労力をかけずに事業を迅速に拡大することも考えられます。
これらの4フェーズのアプローチは多くの事業会社で実践されており、導入した企業では新規事業の成功率が20%弱から70%近くへと高まっています。
新規事業とは、小さなジャンプを繰り返しながら、大きな飛躍を作っていくようなものです。その意味では、新規事業立ち上げを1回きりで終わらせるのではなく、継続的に生み出す仕組みをつくることこそ、究極的な目標なのです。
本書の要点
①新規事業は、企業の成長と持続性のカギになる
企業が存続するための近道は、成長し続けることです。新規事業の立ち上げによって、市場成長が加速され、企業は継続的な成長と存続をかなえることができます。
②事業アイデアの種は、「変化」に着目することで見えてくる
社会や経済、市場の変化やトレンドは、新規事業のアイデアを着想するきっかけとなります。変化やトレンドを把握し、それに対して「自分の会社だったら何ができるのか」という視点で考えることが大切です。
③4フェーズのアプローチで、成功確率は劇的に向上する
事業構築がうまくいかないほとんどの理由が「どのように事業を立ち上げるかわからない」というものです。この課題を解決するためには、「創造」、「構想」、「構築」、「拡大」の4つのフェーズで事業構築にアプローチすることが有効です。
課題解決の考え方及び新規事業の創出について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。