こんにちは、弁護士の松下翔と申します。
会社を設立して間もない頃は、売上や利益を確保し、事業を軌道に乗せるために注力することになりますが、事業がうまく軌道に乗り始めると、会社の組織固めや組織作り、グループ体制の拡大・構築を考えなければいけない段階がやってきます。
つまり、他社と連携してシナジー効果により更なる成長を見込むためにM&A(Mergers and Acquisitions)を検討すべきか、新規事業を始めるために他社に出資するなどして資本提携を考える必要がないか、などです。
そこで、このシリーズでは、会社が成長する過程で知っておきたいグループ体制構築のために必要な、会社間の関係性に関する基礎知識を紹介します。第1回は組織内再編、第2回はM&A、第3回は事業出資を扱う予定です。
1 グループ会社とは
会社の成長過程において、さまざまな理由から会社の事業を1つの会社で行わずに、いくつかのグループ会社に事業を分散して行っていくことがあります。この理由は、税務上のメリットがあるほか、推進している事業の経営判断を早めて業務を迅速に執行する、第三者と資本提携して事業を行っていくため、リスクの高い新規事業を本業になるべく影響を与えない形で進めていくためなど、さまざまです。
そして、グループ会社に事業を分散する理由によって、その会社に対してどの程度の影響力(支配力)を及ぼしていくのがよいかの判断が変わってきます。本稿では、グループ会社として、法律や企業会計基準で定められていて、特に重要である完全子会社、連結子会社、非連結子会社、関連会社を取り上げます。
まず、これらの会社がどのようなものであるかを説明します。
なお、グループ会社という用語は、法律上定義はなく、一般的には会社間に直接または間接的に資本関係がある企業を指します。この点に関して次の記事が会社の関係性を整理する一助になりますので、ご確認ください。
これらのグループ会社が組織内再編においてどのように利用されているのか確認していきましょう。
2 グループ体制の構築~組織内再編において
組織内再編とは、企業価値を向上させるために会社の組織内部におけるグループ体制を再構築することをいいます。そのために、事業のポートフォリオを再構築したり、事業の一部を分社化して業務執行の意思決定を迅速化したり、持株会社化によるガバナンスを強化したりします。
組織内再編は会社の業務最適化が大きな目的であるため、以下のような場合に行われることが多いといえます。
- 親会社事業を分離して子会社化する(スピンオフといわれます)場合(=会社の「事業」を別会社とする場合)
- 例えば、商品販売部門が売上・利益の拡充に、商品製造部門が製品の改良や新製品の開発に注力するための会社を設立したり、重複作業を最小限に抑えるために管理部門を包括的に行う会社を設立したりする場合(=会社の「業務」を別会社とする場合)
では、これらの場合にどういった会社間のつながりとしていけばよいのかを説明します。
1)「事業」を別会社とする場合
A.会社間のつながり
親会社の経営方針に従って事業を行っていくべきではあるものの、一つ一つの事業執行の意思決定を全て親会社に委ねると、スピード感を持って対応していくことが難しい場合があります。そのため、親会社の「事業」を分離して子会社化する場合があります。
この場合、親会社としては、きちんと子会社の経営をハンドリングできる体制にしておく必要があるため、子会社をできる限り影響力を及ぼすことができる形にしておくことになります。このような理由から、上記の場合には子会社を「完全子会社」にすることが多いといえるでしょう。
ただ、最近は、事業を分離化するにあたって、親会社からの意向が反映される状況を維持しながらも、新しい視点・戦略で当該事業を拡大させるために、代表者個人や他の会社からの出資を受け入れたりすることもあります。その場合には、当該子会社を「連結子会社」にすることもあるでしょう。
このように、会社にとって重要な事業を分社化する限りは、親会社の影響が十分に及ぶ状況で子会社化をする必要がありますので、「完全子会社」もしくは「連結子会社」という形が利用されます。
なお、一部の事業だけでなく、会社の事業を全て別々の会社にして、責任の所在を明確化し、会社内部における事業間の競争力の強化を図るという方法をとっている会社も多くみられます(いわゆる「カンパニー制」)。
B.子会社化する際の方法
子会社(完全子会社を前提とします。)化をする際の方法については、いくつか考えられますが、以下のいずれかによる場合が多いでしょう。
- 既存の会社に「会社分割(吸収分割)」または「事業譲渡」によって事業を移管する
- 新設の会社に「会社分割(新設分割)」によって事業を移管する
なお、承継される純資産額が軽微である小規模な組織再編については、簡易組織再編という会社法上の手続きを採用することで株主総会決議を省略できる場合がありますので、かかる手続きを取ることができるかを検討する必要があります。
また、税務上、適格組織再編成の要件を満たせば、課税繰延べが可能になりますので、この点についても留意する必要があります。
2)業務分野ごとに別会社とする場合
A.会社間のつながり
いくつかの事業を複合的に行うようになると、事業ごとに管理部門や販売・調達部門の担当者を設置して、生産・製造から販売部門までをワンストップで行う方法を採用する場合があります。
しかし、この方法は、同様のスキルを持つ人材を事業ごとに配置する必要が生じますので、人材不足であることが多い成長途上の会社において、限りある人材のリソースをより適切に配置するためには適切な方策とはいえない場合があります。
そこで、業務を効率的に行っていくために、業務分野に特化した会社を設立する(例:製品の開発だけを行う会社、製造された自社製品の販売・マーケティングだけを行う会社等)ことがあります。これにより、業務の効率性を高めることができると共に、業務における責任の所在を明確化することができ、親会社としては業務の包括管理を行うことができるようになるといえます。
このような組織内再編において利用される子会社の形は、かかる組織再編が親会社の業務を切り出すという側面が強いため、親会社と一体の会社としておく必要がありますので、「完全子会社」にすることがほとんどです。
なお、業務分野を切り出して別会社とする場合においては、当該業務によっては、勤務形態や給与体系等の労働条件を変更することが望ましい場合も少なからず存在します。そのため、労働条件を変更する手続きが必要になる場合もあるでしょう。具体的な方法は本稿では割愛しますが、従業員から個別の同意を得たり、就業規則を変更したりするといったいくつかの方法から検討することになります。
B.子会社化する際の方法
なお、子会社(完全子会社を前提とします)化をする際の方法については、上記「1)『事業』を別会社とする場合」と同一になります。
以上の通り、組織内再編においては、会社がもともと行っている事業・業務を別会社で行うために実施される場合がほとんどですので、会社間の関係は、親会社と完全子会社もしくは連結子会社となる場合がほぼ全てといえます。
一方、次回取り上げる予定の「M&A」や「事業出資」においては、会社の資本政策や長期的な経営計画等によって会社間の関係は、会社によって大きく変わってくるといえます。
そのため、戦略的に持分法の適用を受けない形で出資をするといった方法も出てきます。次回はこのようなことも含めて、M&Aについて説明をしていく予定です。
以上
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。
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執筆:リアークト法律事務所 弁護士 松下翔
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