中小企業の海外進出、成功と失敗を分けるものは?

どの国であっても、海外進出をする日本企業を待ち受けているのは、品質や価格、人材獲得など現地での競争です。「人口が増えているから」「市場が伸びているから」「日本製は人気だから」というチャンスだけ見て、急いで進出をすると、痛い目にあいかねません。中堅・中小企業の海外進出についてサポートする日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外展開支援部 中堅中小企業課長の小林寛さんにお話を伺いました。


ジェトロ小林さん写真

日本貿易振興機構(ジェトロ)
海外展開支援部 中堅中小企業課長 小林 寛(こばやし ひろし)
1998年ジェトロに入構。ベトナム・ハノイに合計5年間駐在。ハノイ事務所では日本企業の商品・サービスを売り込む、展示・商談会事業などを担当。経済産業省中小企業庁では中小企業の海外展開支援政策づくりに従事。ジェトロ調査部アジア大洋州課長、海外展開支援部主幹(新輸出大国コンソーシアム担当)などを経て、2023年より現職。

まずはしっかり分析をしよう

成功している企業の多くは、事前にしっかり準備をしています。「その国に進出する理由は何か?」「その国でどんなビジネスをしたいのか?」――当たり前に聞こえるかもしれませんが、こうした分析を綿密にしている企業ほど、やはり成功する確率が上がります。

日本の製品やサービスは「品質が良いことは知られている」ものの、今や世界のどこに行っても、ある程度のものは手に入ります。ずば抜けて使い勝手が良かったり、購入したくなるストーリーがあったり、という特徴がないと、売り上げを大きく伸ばすことは難しいかもしれません。しっかり市場調査を行い、自社の「強み」を確かめることが必要です。一方で、自社の「弱み」が克服できそうにないなら、一旦、進出を取りやめる勇気も必要です。

市場調査の次に立ちはだかるのは「人」の壁です。海外進出している日本の中小企業の方々のお話を聞いていると、人の要素で成功・失敗するケースが多いように感じます。

日本から行く駐在員はもちろんのこと、ナンバーツーとしてしっかり支えてくれ、現地スタッフを教育してくれたり、意思疎通の橋渡しをしてくれる人材は欠かせません。「日本流」を押し通した結果、「あちらの外国企業の方が給料も高いし、英語も通じる」と、競り負けてしまうケースもありました。現地の採用市場を理解したうえで、適任者を確保できるかがカギとなります。

海外進出で得られる意外な果実

海外進出で一歩を踏み出すと、現地での売り上げや利益が増えるという以外にも、企業にとって大きなメリットがあります。例えば、ある宿泊業の企業はベトナムに拠点を作ったことで、日本国内の人手不足も改善しました。自社グループ内で人材の融通ができるようになり、優秀なベトナム人が日本で働いてくれるようになったのです。

そのほか、マレーシアや香港などで自社製品がよく売れていることで、日本の従業員が喜び、モチベーションがアップしたという事例もありました。自分たちが作っている製品が国境を越え、海外でも人気になっていると聞くのは、やはり嬉しいものなのです。また、海外拠点ありとホームページに掲載したことで、若い人材の採用にもプラスになった事例もあります。

通商白書の分析でも、海外展開をする企業の成長性は、行っていない企業と比べると高いことが示されています(下図参照)。

海外展開開始による効果

中小企業ならではのメリットとは?

中小企業ならではの機動力を発揮できるケースもあります。海外でビジネスをする際、大手企業では担当者レベルに大きな権限を与えていないことがよくあります。その結果、「日本にいったん持ち帰って検討します」などと言ってしまい、現地企業からそっぽを向かれてしまうのです。その点、中小企業は社長がしっかりコミットさえしていれば、即断即決も可能です。これが、現地企業からすると「信頼できる」ということになり、ビジネスが良い方向に展開していくのです。

ですから、「うちは中小だから」と遠慮することなく、海外に積極的に挑戦していただきたいと考えています。様々な経営リソースなどで制約があると感じることもあると思いますが、だからこそジェトロなど公的機関のサービスを使い倒してください。最初の一歩で、ハードルが高いということでしたら、取引銀行に相談をして、紹介してもらうという手もあります。

海外展開の計画立案から、その実行・実現まで、専門家が伴走支援するサービスもあります。
ぜひ検討していただければと思います。

参考:ジェトロの海外進出支援サイト

新輸出大国コンソーシアム事業

海外市場への進出について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年4月25日時点の内容となります。
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