バイオ業界必見、「賃貸ラボ」の魅力

スタートアップにとって、限られた資金で十分なラボを用意することは簡単ではありません。そこで選択肢として考えたいのが「賃貸ラボ」。施設面のみならず、さまざまな機能を有しています。日本政策投資銀行 産業調査部の藤田麻衣さんにお話を伺いました。


日本政策投資銀行 藤田さん写真

(株)日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役 藤田 麻衣
2009年(株)日本政策投資銀行入行。
エネルギー、製造業の融資業務担当を経て、関西支店、地域調査部、産業調査部にて10年以上リサーチ業務に従事、2022年4月から現職。
調査テーマは、バッテリー、センサー、スポーツ、地域振興、設備投資などを経験し、現在は不動産業界および特許分析コンサルティングを担当している。

エコシステムづくりに熱心な賃貸ラボも

注目集まる『賃貸ラボ』、増えている背景を解説」記事では、先行する米国ライフサイエンス分野のエコシステム構築についてお話ししました。日本での取り組みはまだ発展途上ですが、エコシステムづくりに積極的な賃貸ラボも登場しています。

たとえば、2020年に賃貸ラボ事業に参入した三井不動産は現在、関東に4カ所、関西に1カ所の賃貸ラボを運用しています。賃貸ラボを開業する4年前、2016年には、日本橋を拠点とするライフサイエンス分野のインキュベーション組織「LINK-J」を設立。年間800件を超えるイベントを実施して、テナント企業のオープンイノベーションを支援しているほか、ベンチャーキャピタルへのLP出資を通じて、資金面での支援にも乗り出しています。

武田薬品工業やアステラス製薬などの事業者も賃貸ラボに取り組んでおり、オープンイノベーションを目的としています。化学業界は、他の産業と比べてもオープンイノベーションに積極的な業界です。(下図参照)

化学業界はオープンイノベーションに関心が高い

これらの例からもわかるように、賃貸ラボはハード(施設)面での機能だけでなく、ソフト面での支援も魅力となっています。

賃料や機能で選ぼう

今後、民間の賃貸ラボの中から大きな成果を出す企業が現れると、その事例が注目を集め、さまざまなプレーヤーの集積が生まれ、エコシステムが構築されるという好循環が生まれる可能性があります。エコシステムの中心に近いアセットは価値が高まるため、不動産デベロッパーはコミュニティ構築やベンチャー投資事業による資⾦供給などエコシステムづくりに注力しています。

一方、古くからある賃貸ラボは全国に100施設ほどありますが、その7割は自治体や大学、中小機構など公的機関が運営しています。公的機関の運営する賃貸ラボの魅力は賃料の安さ。自治体などから賃料補助がある場合が多く、民間運営の賃貸ラボと比べると安い賃料で入居できる可能性があります。

公的機関の運営でもオープンイノベーションやインキュベーションのサポートがある物件もありますが、賃料を高く払っても成功に近いコミュニティでチャレンジしたいという野心的なプレーヤーを集めるエコシステムの求心力は民間施設の方が強いでしょう。今後は、そうした観点で民間と公的機関の賃貸ラボの住み分けが進んでいくとみられます。

民間の賃貸ラボにおいて入居時の負担を減らす観点では、実験環境や機器が用意されているシェアオフィスタイプの賃貸ラボも魅力的です。2022年に開設した大阪府摂津市のターンキーラボ健都(民間企業である京都リサーチパークが運営)は入居当日から実験可能で、入居時の工事負担もない点が特徴です。さまざまなテナントと空間をシェアして研究をするため、よりオープンイノベーションが生まれやすい環境と言えます。

そのほか、比較的都心に近い賃貸ラボが増えているので、研究でコラボレーションをしたい大学や病院になるべく近いところや、優秀な研究者を採用するために通勤利便性の高いところなど立地で選ぶケースも増えています。

賃貸ラボならではの注意点

日本ではまだ賃貸ラボが少ないため、仲介業者が存在しません。適切な物件をどのように探すかという問題がありますが、例えば京都リサーチパークでは自社ホームページで全国の賃貸ラボの設備や広さなどの情報をまとめたリストを公開していますのでそれを参考にしながら、直接各ラボに連絡することも可能です。
そのほか、すでに入居している企業から話を聞いて選ぶこともできるでしょう。

不動産デベロッパーにとって賃貸ラボの開発・運営は簡単ではありません。テナント誘致や安全管理などに専門性が必要な高度なオペレーショナルアセットであることに加え、オープンイノベーションやインキュベーションの機能も求められます。それでも国内では、スタートアップが増加し、オープンイノベーションの機運が高まったことで、エコシステム構築のために集積する「場」としての賃貸ラボの供給が始まりました。今後は不動産業界からの投資を追い風に、日本のライフサイエンス分野エコシステムがどこでどのように形成されるのか、期待が高まります。

不動産の有効活用及び新規事業の創出について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年5月30日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。