東京プロマーケットは、上場基準や開示制度が柔軟で、特に地方の中堅企業や成長を目指す企業にとって上場しやすい市場となっています。
本記事では『今こそ「東京プロマーケット上場」 売上10億円を超えたら取り組む中小企業の新・成長戦略』(雨森良治著、日本経済新聞出版)より、東京プロマーケット上場で成長を実現したケースをご紹介しつつ、東京プロマーケットに上場するメリットや成功させるポイントを紹介します。
中小企業の未来を切り開く新市場が誕生
東証には、一般投資家も株を売買できる「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」がありますが、本書のテーマである東京プロマーケットはこれらの一般株式市場とは異なります。東京プロマーケットは2009年6月、特定投資家向けに「上場基準や開示制度に対する柔軟性をより高めた市場」を目指して誕生しました。一般投資家による買い付けが禁止されており、「企業価値を的確に見極める目」を持った資金力のあるプロ投資家だけが参加することができます。
東京プロマーケットの最大の特徴は、上場にあたって新たに株式を発行したり、既存株主が株式売出しをすることなく上場できることです。これが上場する企業にさまざまな恩恵をもたらしています。たとえば、株主構成を変えなくとも「JPXに上場した企業」として高いステータスと信用力を得られます。ほか、「人材採用がやりやすくなった」「M&Aで有望な案件を持ちかけられるようになった」という声も聞かれます。
また、東京プロマーケットは一般市場よりも上場基準が柔軟で、上場申請の形式基準がないため、約2年という短期間で上場が可能です。東証が認定した「J-Adviser」という支援機関が企業に伴走しながら上場のための準備や審査をサポートしてくれるというのも、大きな魅力でしょう。
東京プロマーケットには、2023年9月時点で80社が上場しています。一般株式市場より規模は小さいとはいえ、中小企業が東京プロマーケットに上場すれば、経営の基盤やガバナンスを整えてさらに発展するためのファーストステップとなります。実際に東証では、一般市場へ変更する基点として東京プロマーケット上場を推奨していくべきではないか、という意見が出るようになっています。
東京プロマーケットに上場する4つのメリット
ここで、東京プロマーケットに上場する4つのメリットを見てみましょう。
① 知名度・信用力が格段に上がる
上場企業の1社に名を連ねることで知名度と信用力が向上し、営業活動がスムーズに進むという声があります。
② 採用面での優位性や従業員の士気が向上する
上場企業の知名度と信用力により、企業の成長を担う人材を集めやすくなります。
③ ガバナンスと管理体制が整備され充実する
上場の過程でコーポーレートガバナンスや管理体制を整備・充実させることができます。
④ M&Aの積極化、事業承継への悩みから解放される
上場の過程で経営基盤を強化させることで、事業の成長に向けたM&Aを志向する機会が増えるとともに、事業を社内外の優秀な人材や企業に承継することが可能となります。
これらのメリットを受けて会社を成長させられれば、グロースやスタンダードなどの一般市場へ移行し、さらに大きなメリットを獲得することもできるようになるでしょう。ただし、資金調達面を考えると一般市場へ上場したほうがメリットは大きく、東京プロマーケット上場時にファイナンス(資金の調達・利用など)を実施した例は、これまででわずか3件にすぎません。しかし、大きな設備投資を必要としない会社などは、大量の株式放出をする必要がありませんから、東京プロマーケットへの上場でも十分価値があると言えるでしょう。
東京プロマーケット上場で成長を実現した2社の成功物語
ここで、東京プロマーケットに上場した企業がどのような成長を遂げたか、2社の実例を挙げましょう。
(1)
とある金属部品の加工を行う会社は、リーマンショックを機にM&A戦略を強化してきました。しかしM&Aで買収に複数の企業が乗り出した場合、大手の上場企業に負けてしまうことが多かったため、東京プロマーケット上場を志しました。上場後はM&A案件の質・量ともに充実しています。具体的には、上場前は売上高が数億円、従業員が50人以下という案件が多かったのですが、上場後は売上高10億円以上、従業員も50人以上という案件が増え、さまざまな仲介業者から話が舞い込むようになりました。
(2)
農業資材・食品などの店舗販売・卸販売業を行う会社では、「地方で経営している会社の多くは無借金経営を目指しているが、それでは変化が激しい時代を生き残ることはできない」と考え、上場を検討しはじめました。取引銀行から東京プロマーケットの説明を受けたのち、地方自治体が補助金制度を整えるなどして支援をしたことが後押しとなり、上場を果たしました。上場後は、「信用度が高い」と見なされるようになり、新しい取引先を開拓しやすくなりました。
東京プロマーケット上場が
中小企業の成長を加速させるカギとなる
東京プロマーケットに上場する企業の数は、前年を上回るペースで増加し続けています。東証の中で新規上場する企業数が最も多いのはグロース市場ですが、東京プロマーケットはそれに次ぐ多さとなっています。JPXや東証の関係者からは、「東京プロマーケット上場を足がかりとして一般市場へステップアップ上場することが主流となるのではないか」「まずは東京プロマーケットに上場することで企業活動を高い水準に引き上げ、その後さらに成長を追求しやすくなるだろう」という見方が出ています。
ただし、東京プロマーケット上場では多くの場合、キャピタルゲインは得られませんから、この点がデメリットともいえます。しかし、一般市場に上場すると機関投資家や一般株主からの重圧を少なからず受けることになります。実際に東京プロマーケットに上場した企業経営者の中には、「四半期ごとに過度な業績アップを求める株主の強いプレッシャーを感じなくて済む」「経営に集中できる」という意見もあります。こうした点を考えても、東京プロマーケットに上場する意義は計り知れず、中小企業の成長戦略上不可欠だといえるでしょう。
本書の要点
・東京プロマーケットは中小企業に最適な上場市場
東京プロマーケットは、上場基準や開示制度が柔軟で、特に地方の中堅企業や成長を目指す企業にとって最適な上場市場です。一般市場よりも低いハードルで上場できるため、企業が成長するための第一歩としての価値があります。
・上場がもたらす営業力と資金調達力の強化
東京プロマーケットに上場することで、企業の知名度や信用力が飛躍的に向上します。これにより、営業活動がスムーズに進み、採用がやりやすくなるなど、企業活動全般にポジティブな影響を与えることができます。
・東京プロマーケットが中小企業の新たな成長ステージへの道筋を開く
東京プロマーケットは、上場企業としての信頼性とガバナンスの向上を実現し、その後の一般市場へのステップアップを可能にします。キャピタルゲインを得られないという制約があるものの、上場による企業活動の効率化やM&A機会の増加、事業承継の選択肢の拡大など、成長のための多くの選択肢が生まれます。
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