ブラック職場がNGなのは言うまでもありませんが、ホワイトすぎる職場も若手社員の離職を加速させてしまう可能性があります。では、どのような職場を目指せばよいのでしょうか? 早期離職防止コンサルティングなどを手がける株式会社カイラボ代表取締役の井上洋市朗さんにお話を伺いました。

井上洋市朗
株式会社カイラボ 代表取締役
大学卒業後、日本能率協会コンサルティングで企業の業務効率化などに従事。ストレスで体調を崩し入社2 年で退職。その後、フリーター生活や商社での営業職などを経て2011年より社会人教育のベンチャー企業マネージャーを務める。2012年株式会社カイラボを設立。現在は多くの企業の若手社員定着率向上支援を行うほか、講演、管理職・OJT 担当者向け研修、採用コンサルティングなどを行っている。
今の若手が好むのは「タイパ」
現代の若手社員が職場に求めるものに「これ」という決まったものはなく、多様化が進んでいます。一部の若手は「バリバリ働いてキャリアを築きたい」と考えますが、一方で「残業はしたくない」「ワークライフバランスを重視したい」という層もいます。
しかし、どちらのタイプにも共通するのは、「成長したい」という意欲です。ある調査では、若手社員の約9割が「成長機会を求めている」と回答しています。さらに特徴的なのは、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向です。タイパを重視する若手にとっては、「長時間努力して結果を出す」よりも、「効率的にスキルを習得し、短期間で成果を上げる」ことが理想なのです。

ホリエモンこと堀江貴文氏は「寿司屋の修行に10年かける意味はない」と主張して大論争が巻き起こりました。寿司職人を養成する学校などで効率的にスキルを身につければ短期間で寿司屋を開業できるというのです。長年の下積み修行を美徳とする方々には受け入れ難い主張かもしれませんが、若い世代はこうした考え方をする人もいます。
また、若者たちが重視するのは「失敗しないこと」です。若手社員の多くは、自分の得意分野や能力を発揮して成果が出せる環境を求めています。「初めからスキルを活かせる環境がないと、時間の無駄だ」と考える若手に対し、企業は「一人ひとりに合わせた環境の提供と、効率的な成長の仕組みづくり」の2つが求められています。
指導は「加点主義」で
若手社員の育成において重要なポイントのひとつは、「加点主義」のアプローチです。
加点主義とは、ミスを見つけて減点する減点主義ではなく、行動や成果を認め、評価することです。
ミスを過剰に指摘し失敗を許さない減点主義の職場では、若手はチャレンジすることを恐れるようになり、職場での学びや成長が停滞します。
仮に失敗しても「ここは良かった」「次はこうすればさらに良くなる」といったポジティブなフィードバックを伝えることで、若手は安心してチャレンジできます。このようなアプローチが、失敗を恐れず挑戦できる職場文化の形成にもつながります。
現代では、セクハラやパワハラを警戒するあまり、上司が部下を厳しく指導することに躊躇するケースが増えています。しかし、成長のためのフィードバックをしないことは若手にとっては「放置」です。放置された若手は成長意欲を失い離職につながる可能性があります。
上司や先輩は自分の背中を、若手に対して自信を持って見せられるか?
若手社員の育成において欠かせない、もうひとつのポイントは、「上司や先輩の背中を見せること」です。近年は「背中で語る」人材育成は古いといわれています。仕事のコツや手順を言語化し、標準化することが重要といわれますが、それだけでは人材は育ちません。人は、人の行動や姿勢から多くを学びます。
背中を見せて育てる時に重要なのは、上司や先輩自身が「憧れられる存在」であるかどうかです。「若手だった頃の自分が、今の自分の背中を見て憧れるか?」と自問自答し続ける必要があります。憧れない人からは何を言われても響きにくいものです。
若手に響く背中とは、例えば次のようなものです。
- 行動で語る:お客様との接し方や業務のやり方を通じて仕事に対する取り組み姿勢を伝える。
- ミッションと紐づいた目標設定:企業のミッションやビジョンと紐づいた目標設定を行う。
- 失敗を許容し、自らも挑戦する姿勢:ミスを恐れず新しいことに挑む姿勢を見せることで、若手の挑戦意欲を引き出す。
若手は、上司や先輩の発言や行動を見て「自分もこうなりたい」という未来像を描きます。そのため、管理職や先輩社員は自身の振る舞いに常に責任を持ち、成長のロールモデルとなる必要があります。
効率的な成長を求める若手にとって、挑戦しやすい環境と魅力的なロールモデルが揃った職場は、最高の学び場となります。成長予感のある職場は、若手を引きつけ、企業全体の持続可能性を高める鍵となるでしょう。若手の意欲を引き出し、企業とともに成長する環境を目指してみませんか。
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