近年、企業の人事戦略として「タレントマネジメント」が注目を集めています。しかし、このタレントマネジメントを成功させるためには、組織内に「心理的安全性」が確保されていることが必要不可欠です。今回は、タレントマネジメントとはなにか、心理的安全性がなぜ重要なのか、そしてどのように組織の心理的安全性を高め、パフォーマンス向上につなげていくべきか、ポイントを解説します。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、「人材の能力を最大限に引き出すために、人材を惹きつけ、採用し、育成するための人事戦略」です。従業員のパフォーマンスを最大化させることで、企業の成長や経営戦略の実現を目指します。
労働人口の減少、働き方改革の推進、価値観の多様化など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした中で、従業員一人ひとりの能力を活かし、組織全体のパフォーマンスを向上させる「タレントマネジメント」の重要性が増しています。
具体的な取り組みとしては、パーパスやミッション・ビジョン・バリューの浸透、公平な評価とフィードバック、最適な人員配置、次期リーダーの育成などがあります。しかし、これらの施策を効果的に実行するための土台として、まず「心理的安全性」が不可欠です。
タレントマネジメントの重要性についてまとめた資料がございますので、こちらもぜひご参照ください。
心理的安全性を高めるメリット
米国の学者エイミー・エドモンドソン教授によると、心理的安全性は「チームで対人関係上のリスクを取っても安全な場所であるという認識が共有されている状態」と定義されています。心理的安全性が高い組織では、なにかを発言する際に、周囲から「無知だ」などと思われる不安がなくなり、建設的な議論が促進されます。
仕事に関する話だけでなく、くだけたコミュニケーションも活性化し、メンバー間の信頼関係が構築されやすくなります。それにより従業員同士が自発的にノウハウを共有し、日常会話から仕事に関する新しい気づきが生まれ、イノベーションが促進されます。また、従業員の主体性が向上し、組織へのエンゲージメントも高まります。
心理的安全性について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
貴社のチーム、ここに問題ありませんか?
心理的安全性を高めるためには、まず自社の現状の見直しが重要です。「心理的安全性が高い」とは単に「仲が良い」だけではなく、適度な緊張感と成長機会がある環境です。以下に、心理的安全性を低下させる3つの問題と解決策を紹介します。
問題1. 意見や発言を否定する雰囲気
自分の意見や発言を否定されると、メンバーは発言を控えるようになります。まずは、マネジメント層が「メンバーの発言を否定しない」「働きぶりへの感謝を伝える」などを徹底し、全員が議論に参加できる場をつくりましょう。
問題2. 協力のための意識・体制がない
チームワークが不足していると、必要なときにチームで助け合う状況が生まれません。そこで、共通の目標を設定し、チーム全体で目標達成に向けて動きましょう。その際、進捗状況を可視化し、相互の理解と協力を促しましょう。
問題3. 不満を抱きやすく改善が見込めない制度や体制
制度への不満は、心理的安全性を著しく低下させます。たとえば、評価方法を見直して「評価が不当に下がる」という不安を軽減するほか、1on1面談の実施、メンター制度の導入など、本音を伝えられる機会を増やしましょう。
心理的安全性をチェックするにはサーベイが有効
組織の心理的安全性を客観的に測定し、改善につなげるためには、サーベイ(アンケート調査)が有効です。定期的にサーベイを実施することで、従業員の心理的安全性の度合いを測定し、組織の問題点を把握できます。
心理的安全性に関するサーベイでは、先述のエドモンドソン教授の研究をベースにした以下のような質問項目が有効です。
【サーベイの項目例】
- チーム内でミスすると批判をされる
- メンバー同士で、建設的な話し合いができる
- チームメンバーは、自分とは異なる意見を受け入れない傾向にある
- チームに対して、リスクのあるアクションを取っても安心できる
- チームメンバーにヘルプを出しづらい
- チーム内に自分を意図的に陥れるようなメンバーはいない
- 業務を進める際、自分のスキルが存分に発揮されていると感じる
これらの質問に対するポジティブな回答(項目によってはネガティブな回答)が多いチームほど、心理的安全性が高いと判断できます。この7項目をベースに、自社の状況に合わせた質問を追加してもいいでしょう。
【サーベイ結果の活用例】
- 組織全体の心理的安全性レベルの把握
- 部署・チーム間の比較分析
- 経時変化の追跡と、改善策の効果測定
- 心理的安全性と業績・離職率などの相関分析
サーベイは匿名で実施し、結果をオープンに共有することで、組織改善への意識を高められます。また、定期的(四半期や半年ごと)に実施すれば、改善の進捗を追跡できます。
サーベイは決して「やりっぱなし」にせず、結果の分析と、具体的な改善アクション(例:マネジメント層による率先垂範、ファシリテーションスキルの向上、コミュニケーションの場の創出など)をセットに考えてください。
サーベイを活用した組織活性化のモデルケース
心理的安全性に関するサーベイについて1点、モデルケースを紹介します。
ある中堅企業では、部署間の連携不足と新人の定着率低下が課題でした。心理的安全性サーベイを実施したところ、「ミスすると批判される」「異なる意見が受け入れられない」などの項目のスコアが特に低いとわかりました。この結果を受けて、同社では以下の施策を実施しました。
【実施した施策例】
- 全管理職向けに「心理的安全性とフィードバック」研修を実施
- 週次定例で「Good & New」セッションを導入(良かったことと新しい気づきを共有)
- 部署横断プロジェクトチームを結成し、定期的な交流機会をつくる
これらの施策を6ヶ月継続した後、再度サーベイを実施すると、批判的な雰囲気に関するスコアが30%改善し、部署間のコミュニケーションも活性化。結果として、アイデア提案数が増加し、新人の定着率も15%向上しました。

このように、サーベイは現状把握のツールであると同時に、改善の効果測定と継続的な組織開発のサイクルを回す原動力となります。
心理的安全性を担保することで人材がいきいきと活躍し、従業員と組織の持続的な成長を実現できます。まずは現在の心理的安全性を計測するために、サーベイを検討してみてはいかがでしょうか。
本記事をきっかけに、サーベイなどのDXを活用した組織改革に興味をお持ちになった際はお近くのりそなグループにご連絡ください。
DXでの課題解決について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。