【ESG対談】「IHI」瀬尾様 ×「りそな銀行」岩舘~今こそ注目すべき、企業と社会の相互発展をもたらすESG経営の本質~

左:IHI瀬尾様 右:りそな銀行岩舘

社会的責任を果たしつつ、経済的利益を追求する――。世界的に拡大傾向にあったESG経営ですが、アメリカの政権交代など、取り巻く環境には変化も生じています。
しかし、企業と社会の相互発展にとってESGやDE&Iへの取り組みは不可欠。
そこで今回、ESG経営に積極的に取り組まれている株式会社IHI様と、弊社の執行役による対談を実施。「ESGと企業の競争力」というテーマを軸に、これからのESG経営のあるべき姿や人財確保の問題への提言、さらにIHI様の取り組みなどについてお伺いしました。

ESG経営は企業の「競争力」を高め、持続的成長をもたらす推進力

岩舘
トランプ大統領の再選に伴い、アメリカでは国家としてESG(環境・社会・ガバナンス)への向き合い方が大きく変わりつつあるように感じています。例えば、金融業界では、昨年12月以降、米の大手金融機関が相次いで「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」からの脱退を決めました。日本の金融機関でも今年の3月に入り同様の動きを見せています。国際的な脱炭素金融戦略の枠組みへの対応に変化が生じ始めているのではないかと感じています。
こうした時局において、IHI様ではESGに対する姿勢についてどのように考え、どのように取り組まれているのでしょうか。

瀬尾
私たちは2021年に、社会的な課題と向き合い、自然環境に配慮してステークホルダーからの信頼を獲得するための「IHIグループのESG経営」を策定しました。
とはいえ、特別に新しいことを決めたわけではありません。これまでも生産効率が向上するだけでなく、消費電力の低減や低燃費といった省エネ性能が向上する製品を開発してきました。さらに新規のプラント開発においては、常に周辺環境やそのエリアに住む人々の暮らしに向き合いながら行っています。
こうした姿勢そのものが、すでにESGの取り組みに非常に近いものになります。つまり、ESGといった言葉が生まれる前から、我々はそれらの概念に基づいた取り組みを続けてきているわけです。
ですから、今、トランプ大統領が何を規制しようが、ESGやDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)に批判的な政策を打ち出そうが大きな問題ではありません。
そもそも我々の収益の源泉は、こうした「他社よりも生産性が高く、省エネ性能に優れた製品・サービスを提供する」こと。それこそが我々の軸足となる「競争力」なのです。我々としては、外部環境に変化があったとしても、これまでの軸足を変えることなく事業に取り組んでいくことが大切だと考えています。

IHI瀬尾様

岩舘
少し前にアメリカ大手銀行のサステナビリティ統括責任者の方とお話をしたのですが、米銀も基本的にはIHI様と同じスタンスで、外部環境に変化があったとしても長期的にはESGへの取り組みもしっかり続けていくとのことでした。

瀬尾
ただ、ひとつ言えるのは「収益につながらないESGは問題」だということです。
結局、トランプ大統領が言っているのは「儲けろ」「利益が出ないものは淘汰される」ということで、それはESGに限った話ではありません。

岩舘
企業がサステナブルな活動で持続的に成長するためには、そこに収益がついてくる必要があるということですね。

瀬尾
おっしゃるとおりです。企業として収益を上げるのは当然のこと。そのためには競争力が必要であり、その競争力はESGへの取り組みによってもたらされるという話だと思うのです。
ESGやSDGsへの取り組みは、ややもすると「事業活動とは無関係の社会奉仕活動」というCSR的な捉え方をされがちな面があります。
しかしESGとCSRはまったく別の概念です。ESGとは、ただ環境にいい活動、社会のための活動をすることではなく、企業にとって不可欠な競争力を高め、企業の持続的成長をもたらすドライバー(推進力)となる取り組みであるべきなのです。

岩舘
弊社でもESGやSDGsに取り組むお客さまを後押しすべく、融資などのファイナンスによって積極的なサポートを行っています。弊社のお客さまの多くを占める中堅・中小企業のお客さまを中心とした意識・行動のトランジションに資するファイナンス(リテール・トランジション・ファイナンス)に取り組んでいます。この意識・行動のトランジションに向けては、対話を通じたお客さまのお取り組みの現在地を把握することが欠かせません。
銀行の軸足となる「融資」を通じた取り組みであるという点で、先に瀬尾常務がおっしゃった〝軸足を変えることなく〟という姿勢にも通じるのではと感じています。

りそな銀行岩舘

日本ではスタートアップ以上に中堅・中小企業にチャンスあり

岩舘
とはいえ、ESGへの取り組みに悩んでいる企業が多いのも事実です。とくに中堅・中小企業のなかには「サステナビリティやESGは大企業が考える話」と捉えている経営者の方も少なくありません。
中堅・中小企業にとって〝肌触り〟のあるESG経営を実践するための重要なポイントはどこにあるとお考えですか。

瀬尾
中堅・中小企業の方々においても「自社の競争力とは何なのか」をあらためて考えてみることが第一歩だと思います。
企業には事業の起点となった〝強み(競争力)〟がきっとあるはずです。さらに、長く事業を続けていくなかで、「他にもこういうことができるようになった」といった新しい競争力が生まれ育っていることもあるはずです。
そうした「今の自分たちの競争力」を見極め、それを活かせる相手と組んで企業運営をしていくことが重要だと思います。そうするためには「これまでのお付き合い」というだけでなく、新たなパートナーシップの構築を考える必要も出てくると思います。その際には大企業を含めた多くのコネクションを持つ金融機関さんの存在に期待される役割が大きくなるのではないでしょうか。

岩舘
SDGsにもパートナーシップという目標がありますが、企業活動においても「提携を結ぶ」という選択肢は当然存在しています。中堅・中小企業にとっても、自社の競争力を活かせる提携先の見極めや再考は、決して新しい革新的な取り組みというわけではないのですね。

瀬尾
アメリカではイノベーションを巻き起こすのは大企業ではなくスタートアップという傾向があります。一方、日本の場合は、いまだに大企業がイノベーティブな取り組みを担わざるを得ないのが実情でしょう。
しかし、いくら企業規模が大きくても大企業単独では、イノベーションへの取り組みは成り立ちません。そう考えれば、企業の大多数が中堅・中小企業である日本においてはスタートアップ以上に中堅・中小企業にチャンスがあると言えるのではないでしょうか。
逆に言えば、大企業側もさまざまな強みを持った中堅・中小企業の人たちとの、人財の交流を含めたコネクションづくりをもっと積極的に行うべきだと思います。

岩舘
中堅・中小企業のお客さまが多い弊社としては、瀬尾常務のおっしゃる「中堅・中小企業にとってのチャンス」という点は非常に興味深いですね。
日本の企業の99%は中堅・中小企業と言われています。つまり、中堅・中小企業の成長があってこそ、日本という国も成長できるということ。だからこそ大企業と我々金融機関が一緒になってサポートしていくことが非常に重要だと思います。

DE&Iへの取り組みこそが、企業の競争力の源泉

岩舘
ここまで企業におけるESGへの取り組みとは「競争力を高めること」というお話をいただきました。では、企業としての競争力の源泉はズバリ何だとお考えですか。

瀬尾
社会課題を解決し、新しい技術にイノベーティブに挑戦していく。そうした競争力がどこに帰結するかというと、やはり「人」だと考えます。その意味では、ESGの「S」にあたるDE&Iが競争力の源泉になると考えています。
例えば我々が国外で発電設備の建設やプラント開発を行うにしても、日本で、日本人だけが考えたところで、いいものをつくれるはずがありません。
国やエリアにはそれぞれに、政府や地方公共団体があり、地元の大企業があり、そこに暮らす人たちがいる。その国ごとに多様なステークホルダーがいるわけです。こうした複雑で多様な事情や状況を受け入れ、理解できなければ優れたソリューションを生み出すことはできません。
だからこそ、我々は「DE&Iへの意識と取り組み」こそが競争力の源泉であり、企業としての収益の土台でもあると確信しています。これからはAIも進んでいきますが、「人」とのコンビネーションが問われる時代によりなっていくと思います。

岩舘
弊社に限らずすべての企業は顧客起点を重視した経営を行っています。企業がDE&Iを追求することによって、顧客起点の意識の追求も進んでいくと考えれば、瀬尾常務がおっしゃられた「DE&I=競争力の源泉」というお話はとても腑に落ちますね。

「自社の仕事のおもしろさ」の見直しとアピールが人財確保のカギ

岩舘
近年、「人的資本」という言葉をよく耳にしますが、昨今の人口減少や人手不足も相まって、中堅・中小企業にとって「人財の確保」は避けられない課題となっています。この課題に向き合う際に、企業は何を重視すべきだとお考えですか。

瀬尾
企業規模の大小を問わず「自社の仕事のおもしろさ」のようなものを、明確に打ち出し伝えていく必要があるのではないかと考えています。
もちろん、伝統的な事業の柱や収益基盤であるがゆえに、やらなければならない仕事があるのも事実です。ただ、それのみでは働き手にとっては賃金のみが拠り所となってしまいます。
人財採用においては本来、賃金の多寡のみならず、どのような仕事をするのか、それはおもしろいのかという基準がさらに重要視されるべきだと考えます。それが人財の確保や定着をもたらし、ひいては企業の競争力向上にもつながっていくのではないでしょうか。

岩舘
瀬尾常務が先ほどおっしゃられた「自社の仕事のおもしろさ」とは、言葉を変えれば「やりがいを感じられる仕事」とも言えるのではないでしょうか。

瀬尾
そうですね。仕事でもっとも大事なのは「おもしろさ」とか「やりがい」です。もちろん生活のためでもあるのですが、「この仕事のおもしろさは何か」「この仕事にどんなやりがいがあるのか」というところを打ち出していくべきですね。

岩舘
そのとおりですね。実は、弊社では2023年度に『金融+で、未来をプラスに。』というパーパスを策定し、さらに全従業員に「マイパーパス」を考えてもらう取り組みを実施しています。
マイパーパスとは、「りそなグループの一員として、社会の中でどのように貢献したいのか」を表す行動目標のようなものです。
「お客さまや社会に、金融という枠組みを超えて貢献する」という弊社のパーパスに個々の価値観や信念を重ね合わせ、そこにおもしろさややりがいを感じてもらう。新規に採用する人財に加えて、今いる従業員に対しても、こうした取り組みを行っていくことが弊社の未来にとって非常に重要だとあらためて感じています。
本日はありがとうございました。


IHI 瀬尾さん写真

株式会社IHI
取締役 常務執行役員

瀬尾 明洋


石川島播磨重工業式会社(現 IHI)に入社後、人事労務業務を経験し、一橋大学商学研究科修士課程を修了。その後経営企画部門を経て、新事業推進に携わり設立した海外現地法人JVの社長を務める。
その後、経営企画部長として中期経営計画の策定に携わり、更に 2023年に「グループ経営方針2023 」及び「人財戦略」を策定。
現在は、ESG担当役員としてESG経営の推進に取り組む。

りそな 岩舘さん写真

りそな銀行
常務執行役員

岩舘 伸樹


あさひ銀行(現りそな銀行)に入社。
人材サービス部グループリーダーとして人員配置等の人事運用に従事したのち、荻窪支店長、東京営業第二部長を務める。その後、経営管理部長(りそなホールディングスグループ戦略部長 兼務)を経て、2024年にりそなグループ初の「グループCSuO」に就任。
「リテールのお客さまのSXに最も貢献する企業」を目指し、りそなグループのサステナビリティ推進に取り組む。

SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年6月20日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
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