事業承継に10年かかる?〜今からできる会社の磨き上げ〜

中小企業の経営者の引退年齢は、60代後半から70代が中心です。大切に育ててきた会社を次の世代へ良い状態で引き継ぐために、早い段階から事業承継の準備を整えることが推奨されています。そこで注目したいのが、「会社の磨き上げ(経営改善)」です。

なぜ早い時期から事業承継の準備をすべき?

2024年版中小企業白書(※1)によると、中小企業の後継者不在率は減少傾向にありますが、2023年時点でも54.5%と半数近くの企業で後継者が不在となっています。また、「事業承継ガイドライン」(※2)には後継者がいないことで廃業する企業も29.0%あると記載があり、後継者不足の状況が見て取れます。
後継者がいたとしても、承継準備に「3年以上かかった」と回答する企業の割合は50%を超えており、最長で10年以上という企業も11.2%ありました。

後継者不足が問題となっている社会情勢の中で、M&AやMBO(従業員承継)などが増加しています。後継者やM&Aの相手企業は、「引き継ぐに値する企業であるかどうか」を厳しく見るもの。現オーナーは、引き継いでくれる相手が魅力を感じられるような、より良い会社に磨き上げておくことが必要です。磨き上げに10年の期間を設けることも長すぎるとは言えないでしょう。
中小企業庁が発行している「事業承継マニュアル」には、事業承継のステップが紹介されていますので、参考にしてください。

支援機関へ相談し、経営課題の見える化を早めに行うことが余裕のある事業承継のカギ。会社の磨き上げ(経営改善)はもちろん、市場動向に照らして最適なタイミングで承継ができたり、後継者の手腕や適性をじっくり見極める時間が取れるといったメリットもあります。

「引き継ぐに値する魅力」のある企業とは

では、後継者にとって「魅力的な会社」とはどのような状態か考えます。

  • 他社に負けない強みがある
  • 時代や社会情勢に合った効率的な組織体制が確立している
  • 経営者の右腕となる人物がいる
  • 従業員から経営層への信頼が厚い
  • 経営資源が充実している  など

こうした魅力を生み出すには、本業の磨き上げで競争力を伸ばす「対外的対処」と、組織の磨き上げでガバナンスを向上させる「内部的対処」を両輪に進めていく必要があります。
先述の「事業承継ガイドライン」によると、「磨き上げ」の対象は、業績改善やコスト削減以外にも多岐に渡ります。例えば商品・サービスやブランドイメージの向上、優良顧客の開拓、ステークホルダーとの良好な関係づくり、人材確保、知的財産権やノウハウ、各種体制などがそれにあたります。こうしたいわゆる「知的資産」が、あなたの会社の強みとなるケースも少なくありません。

社内外の双方に向けた対処をすることで、オーナー自身の不安解消はもちろん、後継者や、M&Aの相手企業も魅力を感じられるようになるわけです。これらを実現できれば、「引き継ぐべき魅力」を持った企業になれる可能性が高まるでしょう。

会社の磨き上げの方法

ここからは、具体的な磨き上げの方法をご説明します。

1. 商品力を伸ばし新規市場・顧客を獲得

自社の強みを作り、弱みを改善することが必要です。例えば、自社のシェアが高い商品を拡充する、技術力を生かした製品の精度向上や納期短縮などが挙げられます。

2. 人的資源の強化

1を実現するためには、増員や専門的な知識・技術を持った人材の採用が必要なケースも。コストはかかりますが、長期的に見て経営に良い影響をもたらすと考えましょう。

3. 組織体制の見直しで役割を明確化

後継者が円滑に事業運営できるよう、経営体制を総点検しましょう。職制や権限を明確にしたり、各種規定やマニュアルを整備し、業務が効率良く進む体制を作ることで、従業員のモチベーション向上につながります。

4. 権限委譲によるリスク分散

特定の人物が権限を持ち続けることは、さまざまな危険をはらんでいます。適切に分散させれば、オーナー以外の経営層はもちろん、従業員の自主性も高まり、柔軟に対応できる組織へ成長できるはずです。

5. 経営資源の有効活用

有休不動産などの経営資源の対処もしておきましょう。市場価値が高ければ売却を、自社での利用価値が高ければ新事業に投入したり、BCP(事業継続計画)に活用したりといった有効活用ができます。経営はできる限りスリム化し、後を任せる人たちの負担を軽減しておくことが重要です。
BCPについては次の記事もご覧ください。

BCP対策できていますか?策定のポイント
企業不動産をBCP対策に活用しよう

先述の「事業承継マニュアル」や、「事業承継ガイドライン」にも詳細が記載されています。磨き上げの事例もありますので参考にしてください。


ここまでご紹介したとおり、次の世代へより良い状態で会社を引き継ぐには、十分な資金と期間が必要です。専門的な知識が求められることも多いため、経営状況を把握している金融機関や事業承継の専門機関などに相談し、早期に進めていきましょう。

(※1)中小企業庁「2024年版 中小企業白書」
(※2)中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(2022年3月改訂)

事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年9月20日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
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