事業承継を考えているオーナーに、ぜひ知っていただきたい「サーチファンド」という選択肢。具体的な承継事例もご紹介しつつ、どのようなメリットがあるのか考えてみましょう。サーチファンドに出資を行うサーチファンド・ジャパン代表で、日本で初めての経営者候補(サーチャー)としても知られる伊藤公健さんにお話を伺いました。

伊藤公健 株式会社サーチファンド・ジャパン 代表取締役
マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ベインキャピタルにてPE投資および投資先の支援業務に携わる。その後、日本初のサーチファンドを設立し事業承継を実行。2020年に、サーチファンドに対する投資会社、サーチファンド・ジャパンを設立し代表就任。個人が主導する事業承継/M&Aへの投資実績多数。東京大学大学院工学系研究科修了、福井県出身。
サーチャーとプロ経営者の違い
多くのサーチャーは、仕事を辞めてサーチ活動に専念します。つまり、本気のサーチャーはキャリアと人生をかけて取り組みたい会社を探しているのです。そして、資金の出し手の中心はファンドであることが多いものの、サーチャー自身のお金も投資するケースもあります。
よく「プロ経営者とはどう違うのか?」と聞かれますが、プロ経営者は雇われている存在ですから報酬などの条件が重要となります。その点、サーチャーは一種の起業家であり、事業承継実現後は社長兼オーナーのようなものです。自ら投資の意思決定をし、投資後の戦略を描き、言い訳のできない環境で事業承継を行うため、その会社に対する意気込みや覚悟が違うといえます。
日本のサーチャーの経歴を見てみると、商社やコンサルタント出身者が多いです(図参照)。M&Aから経営までを手がけますから、多様なビジネス経験を積んだ人材が取り組みやすいといえます。

サーチファンドによる承継に向いている会社とは
事業承継においては、同業の会社へと譲渡するケースも多いですが、これはメリット、デメリット両方があります。同業でビジネスを理解しているため経営しやすいというのはメリットなのですが、譲受側企業の色がつくことにより、譲渡側企業の独自性が失われてしまう可能性があり、これはデメリットだと思います。
自社の独自性を維持する形で事業承継したいと望むなら、ニュートラルな存在であるファンドによる承継は一つの選択肢です。そして、サーチファンドであれば、自社の良い点を伸ばしていける経営者かどうか、直接その候補者とじっくり話し合って確認することができます。
最初の面談から実際のM&A成立まで、平均で半年をかけて5〜10回ほど面談をします。ただ、可能であればオーナーとの面談だけでなく、幹部とサーチャーをこの過程で引き合わせる方が、より納得度の高い承継が実現します。ただ、従業員に事業承継を目指していることを知られたくないとお考えのオーナーも多いので、引き合わせの仕方やタイミングを工夫しながら実施させていただいています。
たとえば、体育会系で上位下達の社風の会社なのに、「みんなの意見をじっくり聞きたい」という傾向の強い人物が後継者になれば、社員たちから「新社長は頼りない」と思われてしまうかもしれません。こうしたミスマッチを防ぐためにも、入念な面談やお互いのスタイルの理解は欠かせません。
経営者としての覚悟の程度も、しっかり確認しましょう。特に中小企業の経営では、難しい経営戦略などよりも、「何があっても逃げずにやり切る覚悟」が重要です。また、会社を大きく伸ばすためには、知識の多さよりも「ゼロからイチを創造する力」を持っていることも大切な要素です。
事例から見る成功の秘訣
ここで事例をご紹介しましょう。ゲームセンターなどの景品卸を手がける会社のM&Aを行ったサーチャーは、副社長として入社して1年弱の引き継ぎ期間の後に社長に就任しました。まだ28歳と若く、しかも業界については知識を持っていない状況だった彼は「自分が価値を出せるところはどこか?」と考え抜いた結果、DXを主導することにしました。社長として指示を出すのではなく、自らが率先して手を動かし、汗をかく姿を従業員に示したことで、従業員からも認められ、自分の居場所をつくっていきました。
売り上げを伸ばすことにも成功し、業界大手にM&Aされる形でサーチファンドのイグジットにも成功した事例です。
このように、やはりサーチャー個人の能力や資質が非常に重要なのですが、バックにいる投資家についてもしっかりと見ていくべきです。米国で主流のトラディショナル型サーチファンド(複数の投資家が資金を出す)の場合、構造上、株主の支援の姿勢も少数株主であることが前提となるということは知っておきましょう。他方で、株主が複数いることで多様なアドバイスを受けられるというメリットもあるかもしれません。
一方、日本で主流のアクセラレーター型の場合は、単一の投資家が資金を出すほか、M&Aの実務や、その後の経営についてもさまざまな支援を提供します。サーチファンドによる承継を考える際には、サーチャーとの面談だけでなく、投資家のコミット度合いもしっかり見極めるべきです。たとえば、面談に投資家が同席するかどうかは、投資家の姿勢が見える一つの指標になるかもしれません。
「ファンドによる承継は考えていなかったけれど、サーチファンドならいいかもしれない」。実際に会って説明すると、そうおっしゃるオーナーは少なくありません。もしサーチファンドに興味を持ったなら、とにかく一度、サーチャーと面談をしてみることをお勧めします。面談には特にコストもかかりませんし、会ってみてわかることも多いはずです。
事業承継及びM&Aの活用方法について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。


