企業の海外進出が加速するなかで、「グローバルガバナンス」という言葉を耳にする機会が増えています。これは単なる「監視」や「統制」の仕組みにとどまらず、経営の透明性・信頼性・持続性を確保するための「見えない土台」ととらえる必要があると思います。海外子会社管理に欠かせない「内部統制」の視点から、グローバルガバナンスの重要性について、グローバルにコンサルティングサービスを展開するフェアコンサルティンググループの粟村英資さんにお話を伺いました。

粟村 英資 日本国公認会計士
監査法人での法定監査業務、上場準備企業での企業財務、IPO に向けた資本政策、内部統制組織の構築、アジアの子会社の経営管理などの実務経験を経て、フェアコンサルティング・グループに参画。現在は、中国法人にて、国内外の企業の内部管理体制構築支援業務及び中国進出支援業務を主に担当。企業の抱える内部管理上の問題点の解決と中国進出企業への丁寧な進出支援業務に定評がある。
グローバルガバナンスとはなにか
グローバルガバナンスの議論が本格化した背景には、2001年10月に発覚した米国のエンロン事件があります。これは米国のエネルギー大手エンロン社が、特定目的会社(SPC)を使った簿外取引により決算上の利益を水増しして計上していたことがわかり、経営破綻に追い込まれた、というもの。この世界に衝撃を与えた巨額の不正会計事件は、ひとことで言うと、企業のガバナンス、つまり企業が健全に経営されるよう監督・評価する仕組みの欠如によって起こったものでした。
この事件をきっかけに制定されたのがSOX法(サーベンス・オクスリー法)です。この法律は、決算書が単なる最終的な数字の積み上げではなく、そこに至る業務フロー全体の正当性が問われるという思想を示しました。
内部統制報告制度の導入
SOX法が求めたのは、数字の「裏側」にある業務プロセスのチェック体制です。たとえば、売上や経費の処理において、適切な承認手続きやチェック機能が機能しているか──このような業務統制が、企業の健全性を担保する重要な柱とされるようになったのです。
この流れは日本にも波及し、いわゆるJ-SOX(日本版SOX法)として内部統制報告制度が導入されました。これにより、日本企業も「決算の正確性=業務フロー全体の適正性」という考え方を組織文化として取り入れていくことになります。
現在では多くの企業で、財務諸表の信頼性を担保するための内部統制整備が定着していますが、これは単に制度対応というよりも、企業の持続的成長と社会的信頼を支える仕組みとして不可欠なものとなっています。
ガバナンスの焦点は海外子会社へ
こうした流れとは少し違いますが、日本企業のガバナンス改革は、取締役会の機能強化にも及びました。かつては監査役が経営監視を担っていましたが、現在は「監査等委員会設置会社」など、社外取締役が多数を占める取締役会によるチェック体制が主流となりつつあります。
この改革は、社外の視点を取り入れた経営判断の質向上を目的としており、「適切な経営をしているか」「経営者が私的利益を追求していないか」「内部統制が機能しているか」という3つの観点でのチェックを制度的に担保するものです。つまり、経営者が適切な経営をしているか、という観点でのガバナンスが重視されるようになったのです。
さて、話を本題に戻しましょう。こうした国内ガバナンスの整備が進む一方で、企業が海外売上比率を高めるプロセスにおいて、自然と「海外子会社」に対する統制の重要性が増していきました。国内市場が成熟し、あるいはシュリンクする環境にあって、業種を問わず企業は海外進出を積極的に進めています。
従来は「国内で内部統制が効いていればOK」という認識で済まされてきたかもしれませんが、グローバル経営ではそうはいきません。海外でも同様に、業務フローが健全か、リスク管理がなされているか、経営者が適切に行動しているか──それらを可視化・確認する仕組みが求められます。
下図は海外子会社で発覚した不効率な運用や不適切な会計処理の一例です。海外の場合、物理的な距離はもちろん、言語や文化の違いも大きく、不正などが見つかりにくいという難しさがあります。

特に近年では「海外にも監査体制を整備すること」が投資家やステークホルダーからの当然の期待となっており、これに応えるかどうかが企業評価に直結する時代となっています。
このことについて一見、手間が増え、コストがかかることから経営の足かせになる、というイメージを持たれるかもしれません。しかし、そうではないのです。ガバナンスとは、経営を制約する仕組みではなく、むしろ持続可能で信頼される組織をつくるための「支え」と言えます。エンロンが、ガバナンスの欠如によって経営破綻したことを思い出してください。また国内と違い、物理的な距離があり、文化が異なる海外においては、見えないリスクが多いものです。
グローバル化が進む今、ガバナンスの焦点は国内から海外子会社へと広がりつつあると言えます。
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海外市場への進出について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

