マンション需要は衰えを見せません。国土交通省によると、コロナ禍で新規着工件数が鈍ったとはいえ、分譲マンションは年10万戸ペースで増え続けています。一方、老朽化の心配があるマンションも急速に増えてきています。築40年を超すマンションの数は2022年に125.7万戸でしたが、20年後の2042年には445万戸に達すると推計。その半数以上は築50年越えの物件です(※)。
老朽化を防ぐために大規模な修繕、設備更新は不可欠です。なかでも1981年以前の旧耐震基準で建てられたマンションは早急な耐震化が求められます。テナントや居住者の生命・財産に関わるため避けては通れないものの、対策は簡単ではありません。費用を考えると踏み切れないオーナーもいることでしょう。処分をするにも、老朽化により物件価値が低下すれば売却も簡単ではありません。また、処分については、社長が創業時から保有する物件のため思い入れがあり、売却の提案に首を縦に振らないケースもあるかもしれません。
そこで注目されているのが、物件を建替えることなく新築同様に「再生」するリファイニング建築。環境に優しく低コストで、耐震化や、外観・内装を刷新できる手法として、大手不動産会社が取り組みに力を入れています。具体的な方法やメリットについて説明します。
リフォーム、リノベーションとの違い
改修工事や修繕で耳にするリフォームやリノベーションと、リファイニングはどう違うのでしょうか。
リフォームは古くなった部分を建築当初と同程度の性能に戻すことが目的です。外壁の塗り替えや内装の模様替えなどを指します。マンションで退去後に行う原状回復もリフォームに含まれます。
リノベーションは全面改修などで建築当初以上の付加価値を生み出す工事を指します。例えば住居の間取りを変更する、倉庫を飲食店に用途変更する、などもリノベーションの一種です。
一方、リファイニングは建築家の青木茂氏により提唱された再生建築の手法で、既存物件の躯体の80%以上を再利用し、耐震化と建物の長寿命化を図るものです。具体的には、はりなど構造部分を残しつつ、壁や柱を追加して強度を高めます。また、コンクリートはアルカリ性から中性化が進むことで強度が落ちることが知られていますが、コンクリートの中性化進行度合いを検査し、コンクリートの耐用年数を推定することが可能です。その上で、必要に応じた部材や構造の追加により耐震性能を現行の耐震基準に適合するレベルまで引き上げます。
リファイニング建築のメリット・デメリット
リファイニングは建物の再利用により、建替えに比べ3割程度コストを下げられるのが大きなメリットです。解体もしないので工期が短期間で済むほか、建築廃材の発生も抑制。脱炭素化につながり、持続可能な社会実現を目指すSDGsの取り組みにも寄与できます。
また、築50年も経っていれば、用途地域の変更等に伴う日影規制・容積率の制限の変更等によって、建築時にはなかった規制・制限が設けられていることも。その場合、建て替えると現状より延床面積が削減され、賃貸マンションや店舗物件なら賃料収入に影響します。しかしリファイニング建築の場合、建築基準法上は建築当時の容積率は引き続き確保できるので、従来の延床面積を確保できます。
耐震補強が済めば建築確認申請により新築同等の遵法性を備えられます。現代のニーズに合わせた断熱工事や遮音工事を行い、間取りや内装、外観を一新することで、賃貸マンションなら新築に近い賃料設定が可能になるでしょう。
良いことばかりに思えるリファイニングですが、注意すべき点もあります。
実際にリファイニングされた建物は東京都心や地方都市の中心部に建てられた事例が目立ちます。建替えよりコストが抑えられるとはいえ、立地に恵まれていなければ十分な事業性を確保できないとの見方もできます。築年が相当数経過していて入居者の多くが高齢者となっているマンションの場合、リファイニング中の仮住まいの手配などが大きなハードルとなる事も考えられます。
建物の耐震性アップと高寿命化を、最小限のコストと環境に優しい取り組みで進めるリファイニング建築は、老朽化物件を再生する手段のひとつとして検討に値します。40~50年後に再度リファイニングを行えば、建物の寿命は100年にも及ぶことになります。持続可能な社会実現のためにも必要な取り組みと言えるでしょう。
現代の建物は使用目的や経済合理性はもちろん、環境面やSDGsへの意識まで考慮されたものであることが求められています。一方で、老朽化した不動産は日々保有リスクが高まります。リスクが顕在化する前にりそな銀行にご相談ください。
不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。