国連のSDGs採択以降、大手企業は社会要請の変化を敏感に対応し、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の実現と推進を目指した取り組みを加速させています。SDGsにも掲げられている「気候変動」への対策としてカーボン・ニュートラルを推進している企業は多く、特に製造業を中心に「ライフ・サイクル・アセスメント(注)」の一環で取引先も含めたCO2排出量把握・削減の取り組みが盛んになってきています。SDGs分野は未開拓な市場でもあり、ビジネスチャンスにつながる新たな顧客との出会いも広がっていることから、中小企業でも今後影響が出てくる可能性があります。
とはいえ、今すぐ大規模なコストを掛けて取り組みを始めるのも難しいのではないでしょうか。
今から始められる現実的な対応とは何か、考えてみたいと思います。
(注)ライフ・サイクル・アセスメント
商品やサービスのライフサイクル全体(原料調達から生産・流通さらに廃棄・リサイクルまで)又はその特定段階における環境負荷を定量的に算定する手法
カーボン・ニュートラルへの備え
ライフ・サイクル・アセスメントの観点からカーボン・ニュートラルを目指す動きが始まっています。
例として、2021年6月初旬、トヨタ自動車は取引先の主要部品メーカーに対し、2021年の二酸化炭素(CO2)排出量を前年比3%減らすよう求めたと、新聞等の媒体で報道されました。
また、ソニー、パナソニックなどの大手企業もカーボン・ニュートラルに向けた取り組みを推進しています。
小規模な事業者であってもいち早くこれに対応し、他社との差別化や先行利益というビジネスチャンスに繋げたい反面、投資コストはなるべく抑えたいというのが本音。
ではどのように備えるとよいでしょうか。
GHG(温室効果ガス)排出量の把握
もし取引先がカーボン・ニュートラルへ向けて取り組むため、GHG(温室効果ガス)排出削減を求めてきた場合、まずは自社の現状把握が不可欠です。自社のGHG排出量を認識した上で今後の目標を設定し、以降は数値としての成果を公開する必要があります。
たとえば、BtoB企業である三菱マテリアルは当初の予定から5年前倒し、2030年度までにGHG排出量を47%削減(2013年度比)、2045年度までに実質ゼロにする目標
であることを公表しました(※1)。
施策の検討にも、実際の取り組みをする際にも、どの程度の効果が見込めるか、どの程度の成果があったのかを数値で示すため、事前準備として現状の数値を把握して、自社で排出しているGHGの構成比やどこの部門で多く排出しているか、などは知っておかなければなりません。
そのためにはGHG排出量を計算できる人材を社内で育成する、あるいは計算を依頼できる外部企業を見つける、計算に必要な基礎的なデータは何かを知っておくといったことが必要です。
リスクもある反面、ビジネスチャンスに
カーボン・ニュートラル対応のためには新たな生産形態の模索や省エネ設備・再生可能エネルギーの導入などが必要となり、実施のために投資するコストは少なくありません。
しかし、対応することで、前述した取引先選定などでも、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性が広がります。
先行している大手企業からは新たな取引先と出会うことができたという声も聞かれます。これは小規模事業者にとっても同様、ビジネスチャンスに繋がるのではないでしょうか。 2008年という早い段階から「低炭素社会」を重点課題としていたイオンでは、2018年に「脱炭素化」の発表をした際には大きな反響が見られ、今まで接点がなかった企業から声をかけられるようになったそうです。
一般消費者の消費傾向はエシカル消費に傾きつつあり、BtoB企業だけでなくBtoC企業も、SDGs対応の自社商品・サービスの展開では競争力を確保できます。
また、先進事例となるとメディアで取り上げられる機会も増えるため、対外的なプレゼンスが向上します。これらは結果的に競合他社との差別化につながります。
今、始めることの利点
コストがかかることは避けがたい事実ですが、リスクはチャンスと表裏一体。経営者自らがサステナビリティ経営へ本気で取り組むことは、投資家・取引先・従業員から選ばれる一つの要素になりつつあります。
SDGsは2030年までに達成すべき目標であることに加え、カーボン・ニュートラルについても義務ではなく戦略として利用できるのが今ではないでしょうか。
自社への浸透や取引先・投資家への対外的な発信に向けた準備期間を考慮しても、早めの対策・計画が必要になってきます。
カーボン・ニュートラル対応の有無が、いつ、どの程度の影響を及ぼすかは現時点では不明です。しかし、取引先の選定に、取り組みを実施している会社を優先する企業が増えていく可能性を考えると、なにもしないことは経営リスクに他なりません。反対に、今から準備をしておけば、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性が広がります。
対応を考えていても実施する方策や、かかるコストが不透明でおこまりということもあるかもしれません。そのようなときは、取引先金融機関などに、まず相談してみてはいかがでしょうか。
りそな銀行でもSX実現に向けてのご相談が可能です。カーボン・ニュートラルやSDGsへの対応をサポートするメニューなどをご用意しております。
(※1)三菱マテリアルプレスリリース「温室効果ガス排出量削減目標の見直しについて」(2021年11月26日)
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。