なぜ今? 社内にも社会にも効く「パーパス経営」

オフィスに「経営理念」や「社是」を掲げている会社は多いでしょうが、「パーパス」はいかがでしょうか? 「目的」や「狙い」といった意味のある言葉ですが、企業経営では「存在意義」と訳されます。これを基軸に据えた「パーパス経営」を策定する企業が、近年増えています。対外的なメッセージにも、社内の一体感を高める上でも注目されています。

ソニーは2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを発表。りそなホールディングスでは2023年に「金融+で、未来をプラスに。」を打ち出しました。パーパス経営は欧米の企業で広がり、やがて日本でも脚光を浴びるようになったとされています。

企業が宣言するものとしてはビジョン(目指す姿)やミッション(果たすべき使命)、バリュー(価値観・行動指針)なども最近よく耳にします。それらに対してパーパスは、自社の根っこにある内発的な動機を「なぜ?」と掘り下げることで言語化したもので、社会とのつながりが強く意識された言葉と言えます。

VUCA、Z世代、SDGs……。注目される背景に何が?

パーパス経営が注目される背景には、社会や購買行動、働く人の価値観といったさまざまなものの変化があります。

消費者も従業員も理解・共感する「コト」を

複雑で先の読めない「VUCA」時代と呼ばれる今。自社の存在意義を問い直して明文化することは、不確実な中でも前に進む力になります。危機に陥っても方向性がブレにくくなったり、戦略を誤ったとしても軌道修正しやすくなったりするでしょう。ブランド戦略や販売戦略といった外向けの施策としても、従業員に安心して働いてもらうインナー施策としても、重要な視点です。

購買行動も変わりつつあります。世の中にモノやサービスがあふれ、品質や機能だけで購入するのではなく、それが生まれた背景や作り手の思いなどに共感して購入する「コト消費」が広がっています。環境や労働者の人権、地域といった社会の課題解決に配慮した「エシカル消費」も関心を集めています。特に中小企業側にとって価格やスペックでは差別化が難しくなるコモディティ化(均質化)は難題であり、消費者に理解・共感してもらえる「コト」がいっそう求められています。

利益の拡大だけでなく、社会にどう貢献するか

「コト消費」に親和性があるとされるミレニアル世代、社会課題への意識が高いとされるZ世代の存在が重要視されるようになりました。顧客としてブランド・販売戦略を立てる上でも、自社の働き手として職場への満足感を高めてもらう上でも、こうした若者の傾向に目を配ることは不可欠と言えるでしょう。

また、長くCSR(企業の社会的責任)がうたわれていましたが、近年では経済成長と環境配慮の両立を目指すSDGs(持続可能な開発目標)というワードも定着しました。売上や収益の最大化だけで企業が評価されるのではなく、社会にどう貢献するかが問われています。

意見集約や浸透をしやすい中小企業のメリット

パーパスは大企業のものを見聞きする機会が多いかもしれませんが、中小企業だからこそのメリットも見落とせません。

パーパスを策定しても実際の行動が伴っていない「パーパスウォッシュ」という言葉もありますが、一般的に組織が大きいと、意見集約や浸透のハードルが高くなるでしょう。その点、従業員数が多くない中小企業の場合は従業員がパーパスについて話し合ったり、経営者側が思いを伝えたりしやすい環境にあると言え、比較的スムーズに現場の行動様式に反映させられるかもしれません。

また、パーパスの策定・宣言にあたっては、システム導入などの大規模な投資を伴うわけではありません。資金面でのハードルが小さいのもポイントです。

企業価値や組織力の向上をゴールに据える

パーパスを策定する上でのスタートは、現状の正確な把握です。事業の課題達成状況やあるべき姿、従業員の思いなどを集約し、明文化します。そしてそれを丁寧に浸透させ、経営戦略や事業戦略、日々の業務に落とし込むという流れです。
もちろん策定して終わりではなく、自社が設定するゴールに近づいているか不断のチェックが欠かせません。販売面で製品・サービスの差別化をしやすくする、ステークホルダーからの信頼獲得や対外的なイメージアップにつなげたいという狙いもあるでしょう。従業員も経営層も目的意識を共有できれば一体感が醸成され、モチベーションが高まるはずです。
企業価値や組織力の向上を目指して、パーパス経営の実践を考えてみませんか?

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年8月2日時点の内容となります。
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