近代の日本の歴史に燦然と輝く偉人たち。本記事では、彼ら・彼女らが語った、今を生きる人たちに伝えたい「本当に大切なこと」を紹介します。
一流の結果を残す人は日々、どんな心構えで人生や仕事に臨んでいるのでしょうか。仕事の方法論やノウハウを真似することよりもさらに重要で、かつ難しいのは、その「生き方」から学ぶことです。この記事では、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭監修、致知出版社)より、3人の各分野でのトップランナーたちの言葉を集めました。
(以下、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭監修、致知出版社)より抜粋です。肩書きはそれぞれインタビュー当時のもの)
命とは君たちが持っている時間である――日野原重明(聖路加国際病院理事長)
僕はいま人生において最も大切だと思うことを、次の世代の人に伝えていく活動を続けているんです。僕の話を聞いた若い人たちが何かを感じ取ってくれて、僕たちの頭を乗り越えて前進してくれたらいいなと。
その一つとして僕は二年前から二週間に一回は小学校に出向いて、十歳の子どもを相手に四十五分間の授業をやっています。
僕が一貫してテーマとしているのは命の尊さです。難しい問題だからなかなか分からないけれどもね。でも「自分が生きていると思っている人は手を挙げてごらん」と言ったら、全員が挙げるんです。
「では命はどこにあるの」って質問すると、心臓に手を当てて「ここにあります」と答える子がいます。僕は聴診器を渡して隣同士で心臓の音を聞いてもらって、このように話を続けるんです。
「心臓は確かに大切な臓器だけれども、これは頭や手足に血液を送るポンプであり、命ではない。命とは感じるもので、目には見えないんだ。
君たちね。目には見えないけれども大切なものを考えてごらん。空気見えるの? 酸素は? 風が見えるの? でもその空気があるから僕たちは生きている。このように本当に大切なものは目には見えないんだよ」と。
それから僕が言うのは、
「命はなぜ目に見えないか。それは命とは君たちが持っている時間だからなんだよ。死んでしまったら自分で使える時間もなくなってしまう。どうか一度しかない自分の時間、命をどのように使うかしっかり考えながら生きていってほしい。さらに言えば、その命を今度は自分以外の何かのために使うことを学んでほしい」
ということです。
僕の授業を聞いた小学生からある時、手紙が届きましてね。そこには、
「寿命という大きな空間の中に、自分の瞬間瞬間をどう入れるかが私たちの仕事ですね」
と書かれていた。十歳の子どもというのは、もう大人なんですよ。あらゆることをピーンと感じる感性を持っているんです。
与うるは受くるより幸いなり――コシノジュンコ(デザイナー)
うちの家族は教会に通っていますが、母が最期に遺した言葉は『聖書』の「与うるは受くるより幸いなり」でした。
母は心筋梗塞で入院して、その後、脳梗塞にもなって言葉が喋れなくなり、二〇〇六年に九十三歳で亡くなりましたが、病気になる一か月ほど前に雑誌のインタビューを受けていたの。発売日は聞いていたので、買いに行って頁を開いてみたら、タイトルは「娘への遺言」。「与うるは受くるより幸いなり」の言葉を「皆にしてあげたほうが、もらうよりよっぽどええで」とすごい関西弁で語っていたんです。それも掲載された写真の母はニコニコ笑っていました。
だから、人に何かをしてあげることは、遠く回って、結局は自分のためになる。自分のためにやるのではなく、人のためにやると最終的には自分に返ってくるよ、ということを母は最期に私に伝えたかったのだと思います。
私の好きな言葉に「かきくけこ」というのがありますが、
「か」は「感謝」
「き」は「希望」
「く」は「くよくよするな」
「け」は「健康」
最後の「こ」は「行動」
この五つって、仕事でも人生でも重要じゃないかと思いますね。
運を無駄遣いする人、味方につける人――谷川浩司(日本将棋連盟棋士九段)
私は、一人ひとりが持っている運の量っていうのは平等だと思うんです。そして、運が悪い人というのは、つまらないところで使っているんじゃないかと思うんです。
将棋の棋士を見ていると、例えばトップクラスの棋士がやっぱり一番将棋に対する愛情、敬意を持って接していますね。対局前の一礼にしても、羽生善治さんをはじめとするトップの人ほど深々と礼をするんです。その姿勢は相手が先輩でも後輩でも変わらない。そして対局後に「負けました」と言うのは一番辛いですけれども、それもやっぱり強い人ほどハッキリ言うんですね。
将棋も囲碁も先を読みますが、どんなに頑張ってもどこか読み切れない部分があります。そういう最後の最後、一番大事なところで運が残っているかどうかというのが非常に大事だと思うんです。
ですからどんな対局であっても、与えられた条件で最善を尽くして運を味方につけることが大事です。
対局の持ち時間を残して勝負をあっさり諦めるような人は、やっぱり成績も振るわないし、最後の最後の大事な場面で勝ちを逃すことが多いような気がします。
よく天才とか才能とかいう言葉を使うんですけれども、それは決して一瞬の閃きではなくて、毎日の積み重ねが自然にできることがやっぱり才能だと思いますね。
どんなに酷い負け方をしても、翌朝には盤の前に自然と座れることが大事で、やけ酒を飲んで次の日を無駄にしてしまうような人は、やっぱりだんだん差をつけられていくんでしょうね。
命、感謝、運…。どれも人生に重要なものですが、「こうすれば良い」というような簡単な方法論を見つけにくいものです。仕事をする中で、何かうまくいかない、歯車が噛み合わない、というような局面では、具体的な業務の見直しとともに、こうした「重要ではあるけれど捉えにくいもの」について、静かに考えてみる時間を持ってはいかがでしょうか。
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