一般社団法人日本テレワーク協会 事務局長 村田瑞枝
1991年日本電信電話株式会社入社。人事部人材開発室を経て、マルチメディアビジネス開発部に所属。以降、26年間WEB戦略策定及び実施サポート、システム構築、デジタルマーケティングなどインターネット関連業務に携わる。中小企業診断士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。ファイナンシャルプランナー(CFP)、ロングステイアドバイザー。2020年4月より現職。
一般社団法人日本テレワーク協会 主任研究員 片山祐美
1987年日本電信電話株式会社入社。山口県下関市出身。NTTデータにて36年勤務、うち出向10年。NTTデータでは、ソフト設計・開発、パッケージ営業支援、マーケティング&コミュニケーション、イベント企画、グループ会社支援などに携わる。PRプランナー。2021年7月より現職。
コロナ禍で一気に進んだテレワークですが、エンジニア職や営業職などと比べると、経理などバックオフィス系職種は当初、「テレワークに向いていない」と後ろ向きな声も多く聞かれました。経理部のリモート化を進めるコツはどこにあるのか? 日本テレワーク協会事務局長の村田瑞枝氏と、主任研究員の片山祐美氏に話を伺いました。
コロナ禍で浮き彫りになった経理の非効率性
2021年頃まで、私たちがテレワークに関するセミナーなどを開催した際、参加者からよく言われたのは「経理ではテレワークはできないんです」といったものでした。理由は明確で、とにかく請求書や領収書などの「紙」が多いから。2020年に行われたアンケート調査でも、紙の多さと、押印作業が必要だから、などが理由の上位に来ていました。
しかし、これをもって「経理はテレワークに向かない」と考えるのは少し違うと思います。たとえば介護職など、物理的にテレワークできない業種もありますが、経理の場合は、デジタル化を進めて紙文化から脱却すれば、容易にテレワークを導入できるからです。
DXを進めればテレワークはおのずと可能に
テレワークをする・しない以前に、デジタル化が進んでいないということは、非効率な業務フローがそのまま放置されているという点で問題です。また、2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法や、2023年10月にスタートしたインボイス制度に対応するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を急ぐべきだといわれています。
したがって、私たちのところにご相談にこられる企業の方々には、「テレワークの話はひとまず置いておいて、まずはデジタル化を進めましょう」とお伝えしています。経理のDXで恩恵を受けるのは、何も経理部だけではありません。たとえば、ある企業では営業員が6枚写しの伝票を持ち歩いていましたが、デジタル化したことで、隙間時間にPCなどから入力できるようになりました。以前は日中の営業活動のあと、会社に戻って伝票処理をしなければなりませんでしたが、帰社の必要がなくなったわけです。
こうした経理部のDXのおかげで、全社的に生産性が上がって売り上げが増え、残業時間は減るという良い循環が起きたと喜んでいる企業はたくさんあります。
デジタル化してクラウドで外からでもシステムに入ることができるようになれば、むしろ経理はテレワークに向いている、と言えます。日常業務はすべて自宅PCから行えますし、外出の必要がある作業は通帳記帳くらいでしょうか。しかしこれも、ファイルをダウンロードできる時代ですから、絶対に必要な作業ではありません。
個々人のITリテラシーに応じた対応を
かつては、ITシステムの導入には高額の開発費用がかかる、という時代もありましたが、今やクラウドサービスがたくさん登場していますから、中小企業でも導入できる程度の費用で済みます。また、法改正などにはすべてクラウドサービス側が対応してくれますから、ユーザー企業は安心して使い続けられます。
導入の際には、自社の業務フローをまずは洗い出し、「どのように効率化したいか」を考えてみることが重要です。最近のクラウドサービスはユーザーサポートも充実していますから、ベンダー側の知恵も借りながら進めていくこともできます。
したがって、システム面で大きな壁にぶち当たるというケースはさほど多くないと思います。むしろ問題になるのは、従業員たちのITリテラシーです。若い世代の従業員は比較的すんなり受け入れられる印象ですが、やはり年齢が上がるほど、戸惑いの声も増えるようです。
人生100年時代といわれ、健康な間は働き続けたいという方も多いはず。そのためには、デジタルツールをある程度使いこなせるようになることは避けては通れません。自分で試行錯誤して使えるようになることも大切ですが、同時に「若い人に頭を下げて教えてもらう」という柔軟な姿勢も重要です。こうしたことを伝えながら、粘り強くサポートしていく必要があります。
年々、DXの重要性は増すばかりです。また、アフターコロナとなって外出規制はなくなりましたが、働き方の多様性は増すばかり。テレワークを推進することで離職率が低下したり、採用がうまくいくなどの効果もあります。DXとテレワークは密接に結びついていますから、まずはDXを進めることを念頭に置いて考えていくと良いのではないかと思います。
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