物言う株主との付き合い方

「物言う株主」(アクティビスト)が近年、日本企業へ働きかけを強めています。
2023年6月の株主総会では90社に対して344件の株主提案があり、受けた社数と提案数ともに過去最多を記録しました(※1)。この数字は、日本企業とアクティビストの関係性における転換点を示しています。
アクティビストの提案は、従来の強圧的なアプローチから建設的な対話を求める方向へシフトしており、他の投資家や株主から賛同を得るケースも増えています。このようなアクティビストの動向に、企業はどのように対応すべきでしょうか。

対立関係から対話重視へ

アクティビストは、投資先企業の経営陣に対して経営戦略や株主還元の強化を積極的に提案し、企業価値を高めることで最終的に利益を得ようとする株主です。2000年代に活動が本格化し、強圧的な手法や敵対的TOB(株式公開買い付け)を通じた企業経営への介入が見られました。過去に経営陣と激しく対立した事件の影響もあり、ネガティブなイメージが先行していました。

しかし、近年は企業との対話を重視し、長期的な価値向上に焦点を当てるアクティビストが増えています。2023年6月の株主総会では、株主提案のうち4社7議案が可決されました(※1)提案内容が企業価値向上や経営改善に役立ち、株主と企業双方にメリットがあると、多くの株主から認識されたわけです。また、投資家との対話を促すガバナンスコード(企業統治指針)の導入など、制度面での変化も企業とアクティビストとの健全な関係構築に寄与しています。

経営方針を再考し企業価値向上

株主提案を受けた企業の中には、提案の採否にかかわらず、内容を真摯に検討して経営方針の見直しに生かしたケースがあります。割安な株価を背景に自社株買いを投資ファンドから提案された企業では、投資家への説明機会を増やしたり、資本コストを意識した経営方針を公開したりしています。提案を機に投資家の懸念や期待に応えようと事業ごとの収益を「見える化」し、企業価値を一段と高める取り組みを進めている企業もあります。

地域社会との関係強化

最近はESG(環境、社会、ガバナンス)に関する株主提案が増えてきました。アクティビストに限らず、ESGの取り組みが遅れている企業の会社提案には賛成しないとの姿勢を示す機関投資家もあり、株主の関心の高さを裏付けます。

ESGに関しては国内外の環境問題など大きな枠組みで論じられるものばかりではありません。企業が拠点を置く地域における環境保護対策、労働条件の改善、透明で責任ある企業統治などへの取り組みは、地域経済への貢献や地域コミュニティへのポジティブな影響を強化することにつながります。特に地方企業にとってESGに関する提案内容は、地域社会と長期的で良好な関係を構築するための重要なファクターです。提案への前向きな姿勢が地域社会の発展に貢献し、自社のリスクマネジメントにおいても有益な効果をもたらします。

企業の成長を後押しする声と考えて

物言う株主を、経営陣と敵対する存在ではなく、企業の成長と発展を促す機会を提供するパートナーと捉えることを提案します。アクティビストが企業に成長戦略を提案し、企業がそれに応えられれば、企業価値の向上につながります。もちろん、すべての提案を無条件で受け入れる必要はありませんが、アクティビストの提案や知見を検討し、今後の経営方針に生かすことは可能です。
物言う株主の意見は、持続的な企業価値の向上に取り組む企業本来の姿を目指す契機となり得るのです。

(※1)日本経済新聞「株主提案、最多の344件」(2023年12月27日配信)

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年5月24日時点の内容となります。
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