ZEH普及は待ったなし!ハウスメーカーはどう対応するべきか

SUUMO池本氏

リクルート「SUUMO」編集長 池本洋一
1972年滋賀県生まれ。95年上智大学新聞学科卒業、同年リクルート入社。住宅情報誌の編集・広告に携わる。2007年、「都心に住む」編集長、08年「住宅情報タウンズ」編集長、11年「SUUMO」編集長などを歴任し、18年リクルート住まい研究所所長(兼任)、19年SUUMOリサーチセンター長(兼任)。経済産業省「ZEHロードマップフォローアップ委員会」委員、環境省「賃貸住宅における省CO2促進モデル事業」評価委員など役職多数。


住宅分野で普及が急がれるZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)。今後、ZEHはどのように拡大していくのか、また、中小ハウスメーカーはどう取り組むべきなのか。「SUUMO」編集長で、経済産業省「ZEHロードマップフォローアップ委員会」の委員でもある池本洋一氏に話を聞きました。

ZEHの普及状況は?

さまざまな産業で脱炭素への取り組みが加速する中、住宅分野ではZEHが着実に増加しています。ZEHとは、住宅の高断熱化と高効率設備によって省エネを図るとともに、太陽光発電などによってエネルギーを創ることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅のことです。

国は、2020年に「ハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHとなることを目指す」と目標を定めていました。結果を見ると、ハウスメーカーでは56.3%を達成しましたが、全体では24%止まり。国は「更なるZEHの普及が必要」とのコメントを出しました。

新築注文戸建ZEHの供給戸数推移と新築注文戸建のZEH化率の推移

ZEHの増加を阻む要因とは?

国がハウスメーカーを対象に行った調査によると、「顧客の予算」が足りないことや、「顧客の理解を引き出すことができなかった」ことなどが、ZEH導入の大きな障壁として浮かび上がっています。

予算については、ZEHを導入するとおよそ15%のコストアップになります。例えば、5〜6,000万円の価格帯なら顧客の年収も高く、コスト高は許容の範囲でしょう。しかし、3,000万円ほどの家で、顧客の年収が4〜500万円となると、顧客側の心理的ハードルも高いですし、住宅ローンの審査が下りなくて断念するケースもあります。分譲戸建大手の動向をみても、ZEH導入に舵を切る会社もあれば、そうでない会社もあります。分譲事業者としても判断の分かれるところなのです。

中小ハウスメーカーはどう対応していくべきか

しかし、だからといって様子見を決め込むべきではありません。国は2025年から新築住宅の「省エネ基準」を義務化しますし、2030年にはすべての新築物件で「ZEH相当の省エネ基準」を課す方針も打ち出されています。住宅の省エネの流れは待ったなしなのです。

前述のように、「顧客の理解を引き出すことができなかった」というのも導入において大きな課題となっていますが、そもそも今は、ウェブサイトはもちろん、YouTubeなど動画コンテンツも豊富な時代です。工務店や設計事務所の社長が発信するYouTube動画などで勉強している顧客は多く、その反響に発信者の社長も驚いています。

営業現場で「顧客のほうが詳しい」という事態にならないよう、メリットや国の動きなどをしっかり説明できる力を身につけることが重要です。

ZEHは光熱費を抑えられるとともに、補助金もつきますから、こうしたメリットについても詳しく説明できる体制を整えていくべきです。また、断熱性能が高い家に住むことが、健康に良いことも、もっとアピールされるべきポイントです。

日本では「冬は寒くて当たり前」という認識がまだまだ一般的ですが、WHO(世界保健機関)は「住まいと健康に関するガイドライン」の中で、「冬の室内の温度は18度以上に」することを強く推奨しています。実際、気温が低い日に心肺停止で搬送される人の数は大きく増えます。“寒い家”は脱炭素にもマイナスですが、住む人の健康にも大きなマイナスなのです。

2030年に「ZEH相当の省エネ基準」が義務化されるということは、それ以降はZEH未対応の住宅だと売りにくいという未来も予想されます。耐震基準は今や新耐震基準がスタンダードとなり、旧耐震基準の中古住宅は敬遠されますが、同様のことが省エネ住宅でも起こりうるということです。

「ZEHにお金をかけるくらいなら、キッチンを豪華にしたい」といった意識では、昨今の政策を踏まえると住宅の価値が下がることもあるかもしれません。最新知識を豊富に仕入れて、顧客に省エネ住宅を巡る大きな流れとメリットをしっかり説明できると良いかと思います。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年5月12日時点の内容となります。
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