中小企業が考えるべきCRE戦略の要点

石渡朋徳
公認会計士、不動産鑑定士。不動産鑑定事務所、監査法人、投資会社を経て、現在は東京共同会計事務所フィナンシャル・ソリューション部に在籍。主にREITの一般事務受託業務やSPC管理業務に従事している。このほか不動産会社の社外役員や公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の専門委員等も兼任しており、会計と不動産のまたがる領域に知見を有している。主な著書に『不動産取引の会計・税務 Q&A』(共著、中央経済社、2008)、『CRE戦略 企業不動産を活かす経営』(共著、日本経済新聞出版、2009)ほか。


中小企業にとって最も大きな資産ともいえる不動産。本業の事業計画はもちろん大切ですが、不動産の管理・運営についても日頃から戦略的に考えておく必要があります。公認会計士と不動産鑑定士の資格を持つ東京共同会計事務所の石渡朋徳さんに話を伺いました。

1:環境の変化で方向転換を迫られることもある

不動産業が本業ではなくても、余剰不動産でマンション経営をしているといった中小企業は少なくありません。この場合、本業ではないため、不動産についての知識が乏しく、問題が起きた場合に対応が後手に回ってしまうケースが散見されます。

建物の老朽化に伴う突発的な修繕リスクはもちろんのこと、周辺環境の変化によって打撃を受けるリスクもあります。例えば、市区町村の合併による役所の移転によって人の流れが変わり、エリア全体の不動産の価値が落ちることもありますし、大学の移転によって学生向け賃貸需要が激減するということもあります。

不動産を持つ以上、こうしたリスクに常にさらされることとなるため、不動産業が本業ではないからといって保有する不動産を放っておくことは危険です。

2:保有不動産について取るべき対策

CRE戦略を考えるにあたって、まず取り組むべきは、保有する不動産に関する関連書類等を一元管理する体制を構築し、不動産を把握することです。耐震基準を満たしているかどうかといった自社物件の状況を精査することはもちろん、隣地との境界線が曖昧なままで放置されていないかなどについても、調べておくと良いでしょう。また、不動産実務に詳しい専門家の力を借りて精査することもお勧めします。

そのうえで、運用にかかるコストや、修繕、設備更新が中長期的にどの程度必要になるか、ライフサイクルコストについても分析し、その収益性や遵法性を把握しておくと良いでしょう(ポジショニング分析)。

CRE戦略の実践(売買や事業承継、M&A等)に関する相談先は、不動産実務に詳しい専門家や顧問税理士、金融機関(メインバンク)などが挙げられます。このような相談先を活用し、普段からしっかりと自社不動産についての情報を管理しておくことで、何かあったときに、すぐに行動することができます。

3:M&Aと不動産

前述のように自社不動産についての情報を管理、精査したうえで、(1)継続保有・使用、(2)取り壊し・再建築、(3)売却、(4)セール・アンド・リースバックといった選択肢のどれが自社の成長にとって最適かを模索していきます。

これら4つに加えて、最近はM&Aも注目されています。歴史の古い会社で不動産の簿価が非常に低い場合、税金等を差し引いても、会社ごと売却した方が手元に資金が多く残るケースもあります。

また、不動産だけ別会社にして切り離すという手法をとることもあり得ます。こうすることで、不動産を売却しやすくなることもあります。さらに、近年は経営者の子などが会社を継がず、従業員から後継者を探すケースも多いと思います。この場合、不動産を切り離して会社の資産を軽くしておくことで、後継者の負担を軽くすることができます。

国土交通省が設置した「合理的なCRE戦略の推進に関する研究会」から「CRE戦略実践のためのガイドライン」が公表されてから14年が経ちます。当時、CRE戦略の重要性に気付き、自社不動産の情報を洗い出した会社も多いでしょう。しかし、その後は何もしていないというケースも散見されます。不動産の状況は変化し続けるため、定期的に専門家の手を借りつつ、情報を整理しておくことが大切です。

参考文献:
「CRE戦略実践のためのガイドライン 2010年改訂版」(合理的なCRE戦略の推進に関する研究会)

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年7月26日時点の内容となります。
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