税理士法人 山田&パートナーズ パートナー 川嶋哲哉
1969年神奈川県生まれ。94年上智大学理工学部卒業、大手私鉄勤務を経た後99年山田&パートナーズ会計事務所(現 税理士法人山田&パートナーズ)入所。2001年税理士登録、05年コンサルティング事業第2部部長、08年パートナー就任。法人業務を数多く担当し、経営的観点を踏まえた事業承継に関するセミナーやコンサルティング多数。
いつが「正しい時」なのか、判断が難しい事業承継。頭を悩ませる経営者も少なくない難題ですが、どういったきっかけで進んでいくものなのでしょうか。多くの中小企業を顧客に持つ税理士法人山田&パートナーズの川嶋哲哉パートナーにお話を伺いました。
友人の影響が意外に大きい
社長自身が元気で、ずっと現役を貫いているといった場合、なかなか真剣に事業承継を考えないまま月日が過ぎていく、というケースも少なくありません。本人はもちろん、後継者と目されている子どもたちも、つい先送りしがちなのかもしれません。
しかし、先送りはできても、避けては通れない道です。では、どういったきっかけで事業承継が具体的に動いていくのでしょうか? 私の経験では「友人の影響」は比較的大きいと感じます。例えば、社長の友人経営者が子どもに事業を譲ったとき。「自分もそろそろ…」となる方は少なくありません。あるいは、同級生が大病を患ったとき。「自分だって、いつまでも元気なわけではないだろうな」と考え始めるのです。
このような外部の変化は大きな後押しにはなるのですが、こればかりはいつ訪れるかわからないものです。社長本人は事業承継をまだ真剣に考えていないけれど、後継者はかなり意識しているといった場合、後継者が社長を説得するという方法もあります。
後継者がまずは勉強してみてもいい
私の経験でも、後継者である息子さんが事業承継について、あちこちの勉強会でしっかり知識を仕入れて、お父さんである社長に「そろそろ事業承継しよう」と持ちかけて成功したというケースはあります。例えば、りそなグループでも企業オーナー向けに様々なセミナーやマネジメントスクール等を開催されていますね。このような勉強会で事業承継についてしっかり学び、お父さんに情報提供するのです。
こうしたケースでは、そもそも後継者自身が自社の仕事を十分に覚え、かつ事業承継についてもしっかり勉強しているといった、とても優秀な方が多いと思います。
事業承継というと株式の承継などに目が向きがちですが、「社長の座を譲れるほどに後継者がしっかりと育っていること」もとても重要です。その意味では、後継者が入社後早くて5年、通常は10年程度経っていて、取締役になっているくらいの時期が望ましいと思います。仕事を覚えるだけでなく、従業員たちとの信頼関係を十分に育んで名実ともに「後継者」と認めてもらうには、やはりこのくらいの年月は必要なのだと感じます。
30歳くらいで入社したとして、30代後半から40代前半あたりでしょうか。実際、事業承継がうまく行ったケースは、概ねこのくらいの年代に収まっていることが多いです。
事業承継には時間がかかる
事業承継は思い立ってすぐにできるものではありません。3〜5年は必要だと思いますし、後継者がまだ育ちきっていないケースですと、経営者教育から充実させていかなければならず、さらに時間がかかります。やはり、早い段階から将来の事業承継に向けて、特に後継者育成についてはじっくりと取り組んでいただくのが理想です。
上の図は、中小企業庁の事業承継計画表の記入例です。株式の移転や贈与といった実務的なことだけでなく、後継者育成についても、このようにしっかりとロードマップを考えて臨むのが王道です。
一昔前のように「家業は子どもが継ぐもの」といった暗黙の了解は消えつつあり、いざ子どもたちの中から後継者を探そうと思っても、事業について何も知らず、興味も持ってくれていない、という悩ましいケースも散見されます。
子どもの自由を尊重するのももちろん大切ですが、学生の頃から事業の手伝いを少しはさせてみるなど、最低限、馴染みあるものにしておく努力は必要なのかもしれません。こうした少しの工夫で将来、「事業を継いでもいいかな」と子どもが考えてくれる可能性が出てくると思います。
スムーズな事業承継を実現したければ、準備は早く始めるに越したことはありません。特に後継者育成は事業承継の重要な要素の一つです。すでに事業承継に成功した会社であっても、いずれくる3代目への承継に向けて、お子さん方と会社の接点を作ったり、会社を継ぐ可能性についてフランクに話し合える関係性を構築するなどの工夫はしておくことをおすすめしたいと思います。
事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。