年金制度改正に備える!企業年金導入企業の実務チェックリスト

2025年度の年金法改正により、企業型確定拠出年金(企業型DC)に関する制度が大きく見直されます。なかでも「拠出限度額の引き上げ」や「情報提供義務の強化(運用の見える化)」は、企業の制度設計・運営に直結する変更点として注目されています。これまでDC制度を導入しているものの見直しの機会を持てていなかった企業にとっては、制度改善と従業員満足の向上を両立させる好機です。

本稿では、制度改正のポイントと企業がいま準備すべきことを分かりやすく整理します。

企業型DC制度はどう変わるのか?

2025年度の税制改正大綱では、企業型DCとiDeCoの制度改革が明記され、特に「拠出限度額の引き上げ」が大きな話題となりました。背景には、公的年金に加えた私的年金制度の活用促進があり、自助努力による資産形成を後押しする国の方針が表れています。

企業型DCに関しては、掛金額の上限が引き上げられるとともに、マッチング拠出の上限規制が緩和(※)され、企業・従業員双方の拠出柔軟性が高まることとなります。従来、制度設計上の制約で拠出上限に達していた企業でも、今回の改正を機に見直しを図る余地が広がりました。(※1)
制度変更により、企業側は拠出設計の自由度が増し、従業員にとっては税制優遇を享受しながらの資産形成の選択肢が広がるというメリットがあります。

  • 「マッチング拠出」とは、会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出する仕組みです。現在は加入者本人の掛金は会社が拠出する掛金を上回ることができませんが、制改正後は加入者が会社拠出分を上回る額を拠出できるようになります。

「比較できる」環境へ──情報提供義務の強化にも注目

今回の改正では、「DC運用商品の見える化」強化も重要なポイントです。
今後、事業主ごとの運用商品のラインナップなどが他社と比較できるような「見える化(情報開示)」が図られます。自社のDC制度の運用商品ラインナップが他社と比べて劣っていないか、時代遅れになっていないか、加入者がチェックできるようになります。

制度開始以来、運用商品の見直しを行っていない企業も少なくありません。しかし、時代とともに金融商品は進化し、信託報酬やパフォーマンスも変動しています。古いラインナップを維持することは、加入者にとって不利となる可能性もあります。
今後は、加入者の理解と納得を得られる商品選定と情報開示が、制度運営上の重要な要件となるでしょう。

今すぐ検討したい、3つの実務対応ポイント

今回の制度改正を受け、企業が早期に検討すべき対応は以下の3点です。

(1)拠出限度額の見直し

これまで掛金上限に達していた企業にとっては、さらに多くの拠出をすることが可能となります。とりわけDB(確定給付年金)との併用企業では、これまで限度額に達していたケースが多く、改正後の上限に合わせた制度設計の見直しが必要です。職階や勤続年数などに応じて設定している掛金額を見直すなど、企業型DC制度の再構築は、人事制度全体の改定にもつながり得るため、将来の人材戦略を見据えた取り組みが求められます。

(2)マッチング拠出の導入・活用促進

これまでマッチング拠出を導入していなかった企業も、従業員の利便性や満足度向上を目的に検討を始めるべき時期です。改正により従業員の拠出可能額が拡大すれば、従業員が自主的に老後資金形成を強化できる制度として、導入効果は一層高まります。また、すでにマッチング拠出を導入している企業でも、従業員掛金の選択肢が広がり、制度の魅力がアップするこの機会をとらえて、従業員に活用促進を促しましょう。

(3)運用商品の見直し

古いラインナップを維持している場合、低パフォーマンスや割高な信託報酬の商品が含まれている可能性があります。商品の再選定は、単にパフォーマンス改善だけでなく、投資教育の実施を通じた従業員の制度活用促進や納得感醸成・ロイヤリティの向上にもつながります。制度導入以降運用商品の見直しを置かなっていない企業などは、運用商品の見直しと説明の機会を設けるべきでしょう。

これらの情報については、りそな銀行が毎月発行している「企業年金ノート」もぜひ参考にしてください。
企業年金ノート・レポート

対応には「人事×経営」の連携が不可欠

企業型DC制度の再設計は人事部門だけで完結するものではなく、経営陣との連携が不可欠です。法改正による制度対応は、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、企業ブランディングや人材定着といった中長期的な企業価値向上にも有効と考えられます。

福利厚生の充実を打ち出すことで「選ばれる会社」への道が開け、採用力の強化や従業員エンゲージメントの向上といった副次的な効果も期待されます。そのためにも、法改正の内容を正確に把握し、部門間での早期共有と対応ロードマップの策定を行うことが重要です。

このように、今回の年金法改正は対応が求められる一方で、制度を活用し、企業の魅力を高めるチャンスでもあります。拠出限度額の見直しやマッチング拠出の導入、商品ラインナップの刷新など、早期の対応が企業の競争力につながるでしょう。
法改正を機に、自社の年金制度を「今の時代に合ったかたち」にアップデートしていきましょう。

(※1) 厚生労働省「令和7年度税制改正に関する参考資料」

人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年8月29日時点の内容となります。
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