「1つの会社で定年まで働くのは当たり前」。このような価値観はもはや、従業員に共感されにくくなっているのではないでしょうか。終身雇用や年功序列といった日本型雇用に変化が生じ、人材の流動化が進んでいます。新卒採用の界隈では転職を視野に入れた「ファーストキャリア」なる言葉がよく使われ、人事の現場では従業員の離職を防ぐ「リテンション(維持・保持)マネジメント」という用語も飛び交います。
「大転職時代」とも言うべき今は、採用する側にとって難しい対応が求められているのです。
大転職時代で「転職等希望者数」は増加の一途
総務省の労働力調査(※1)によると、現在の仕事を辞めて他の仕事に変わりたい、または別の仕事もしたいと希望する「転職等希望者数」は増加の一途です。2018年の平均は男女計で834万人でしたが、2022年では968万人となりました。転職という実際の行動に移す前段階として、潜在的に転職願望を持っている人が増えていると言えます。
マイナビによる調査(※2)によると、新卒入社する会社で何年働きたいかという問いに対して「特に決めていない・わからない」は31.7%、「1~3年ぐらい」と「4~6年ぐらい」の合計は20.3%。「定年まで」が22.1%でした。学生たちは短期間での転職を最初から想定してはいないものの、転職の可能性を排除していないことが分かります。
1位は? 給料だけではない多彩な離職理由
従業員は、なぜ転職したくなるのか。転職へのハードルが低くなっているとすれば、離職につながる背景を把握することは、人材定着や採用に役立つはずです。国の統計から具体的な理由を見てみましょう。
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」(※3)では、自己都合による離職の理由別割合が紹介されています。1位は「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」(28.2%)、2位は「満足のいく仕事内容でなかったから」(26.0%)、3位は「賃金が低かったから」(23.8%)、4位は「会社の将来に不安を感じたから」(23.3%)、5位は「人間関係がうまくいかなかったから」(23.0%)でした。必ずしも賃金だけが理由ではないことが読み取れます。
離職リスクを減らし、転職先に選んでもらうために
従業員が転職を考える背景は、実にさまざまです。ライフステージの変化やキャリアアップなど、避けられないものやポジティブな要因もあるでしょう。一方で、自社へのネガティブな感情が引き金になることは避けたいところです。では離職を抑えたり、転職先に選んでもらったりする上で、何に留意すべきでしょうか。
ここ数年は賃上げがトレンドとなり、人材獲得競争にも影響を及ぼしています。つなぎ止めのため賃上げをせざるを得ないケースも少なくありません。ただ、厚労省の調査結果を踏まえれば、経費のかさむ賃金アップが万能薬というわけではなさそうです。
従業員との丁寧なコミュニケーションが第一歩
手近な対策として、従業員との丁寧なコミュニケーションが挙げられます。足元のこまりごとやニーズをつかみ、職場環境への不満に発展するのを避けたいところです。
労働条件をより良いものにするためには、人事評価や働き方といった制度の見直しも有効です。平等な評価基準を定め、従業員に周知することでモチベーションの維持向上につながります。特定の部署や担当者に負荷が偏っていないか、労働時間を的確に把握・管理しているか、休暇取得は十分かもチェックしましょう。こうした休暇制度や、年齢・役職ごとの働き方のモデルケースといった情報は対外的にも重要で、転職サイトなどで発信すれば、転職先として選んでもらう上で効果的です。
また、従業員に長く活躍してもらうには、自社への愛着や満足度を高めてもらうことが欠かせません。リスキリング(学び直し)や研修といった機会を設け、従業員の成長意欲に応えましょう。自社の目指す姿や将来ビジョンを明確にし、キャリアパスをイメージしてもらえるようにしたいですね。
(※1)総務省統計局「労働力調査(詳細集計) 2022年(令和4年)平均結果」中、統計表の第4表を参照
(※2)マイナビ 「2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(11月)(2022年12月14日発表)
(※3)厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(2021年11月8日発表) 中、表16を参照
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