企業型DCはいらない?老後資金の優しい渡し方

老後資金の効率的な貯蓄方法として人気が高まっている企業型確定拠出年金(企業型DC)。企業が従業員の年金口座に掛金を拠出し、従業員自らが運用して退職金や老後資金として受け取れる仕組みです。

しかしインターネット上には「制度導入に多額のコストがかかる」「従業員に対する教育が大変」など、企業の負担増を理由に制度のデメリットを強調する意見も見られます。給付額が運用次第で変動するため「元本割れするかも」「将来いくらもらえるか分からない」など、従業員にとっても不安を感じるケースがあるようです。

今回は、企業型DCのデメリットを確認し、不安要素を軽減させる方法について説明します。内容をしっかり理解し、企業として導入すべきか否か、一緒に考えてみましょう。

「従業員にデメリット」は本当か

まず、従業員が感じる不安に対し企業はどのように払拭できるでしょうか。

①将来の給付額が分からない

企業型DCは従業員の運用次第で給付額が変わるため、将来受け取る額は加入時点では分かりません。一見デメリットに思えます。しかし、「運用成果が良ければ給付額が増える」と従業員の理解を促せば、メリットを感じてもらえるでしょう。

②元本割れリスクがある

資産運用に慣れていない従業員の中には、「資産運用=元本割れリスク」のイメージを持つ人もいるでしょう。企業型DCで選べる商品には元本保証型があります。これを選べば利率は低いものの元本割れする心配がないことを説明し、理解を求めます。例えば働き盛りのうちは利回りが高い元本変動型の商品を軸に資産を増やし、給付金を減らさないことを重視する年齢になれば、元本保証型の商品に入れ替える方法を提示するのが良いでしょう。

③60歳まで引き出せない

急にお金が必要になっても引き出せないのはデメリットです。しかし、引き出せる時期が決まっているからこそ、確実に老後資金を貯められる点はメリット=老後資産の優しい渡し方だと言えるでしょう。

これらの不安は、企業型DCの活用方法や資産運用に関する知識が従業員に正しく伝わっていないことに起因します。継続的な投資教育を実施することで不安の解消につなげると共に、従業員が金融リテラシーを身につければ業務遂行やキャリア構築にプラスとなるでしょう。定着率向上も見込め、人材戦略の観点からも効果的です。

企業側のデメリットは?

ここからは企業側のデメリットをどう捉えるべきか、確認します。

①運営コストがかかる

運営管理を委ねる機関に手数料を支払う必要があるなど、制度を運営するコストが新たに発生します。
追加コストというとデメリットと捉えがちですが、年金制度にかかわらず新たな制度を導入する際には必要経費がかかります。従業員から見れば「会社が自分のためにお金を拠出してくれる」うれしい制度であり、福利厚生として価値が大きいものです。企業のイメージアップや従業員の満足度の向上を考えれば、経費以上のメリットにつなげることができるでしょう。

②従業員への継続的な教育が必要

資産運用は従業員の自己責任ですが、企業は投資に関する基礎的な教育を実施することが努力義務とされています。投資についての勉強会を開催し、ポートフォリオの作り方や分散投資の考え方について、従業員が学べる機会を提供する責任が生じます。
しかし、こうした機会は従業員の金融リテラシーを向上させ、運用に関する不安を解消します。企業の負担を軽減するため、多くの運営管理機関が投資教育に関するサポートを行っています。

③事務負担の増加

制度導入時の社内規定の整備や従業員への周知が必要です。また制度運営時の掛金管理など事務負担も数多く発生します。
これらの事務については、運営管理機関がサポートしているケースがあるので、調べてみると良いでしょう。

実際はメリット多く、導入企業は増加傾向

厚生労働省によると、企業型DCの実施事業所数は2023年3月末で4万7,138社、加入者数は約805万人で、右肩上がりの傾向が続いています。制度を導入する企業が多いのは、利点が多いことにほかなりません。企業型DCのメリットをいくつか挙げてみます。

  • 退職金支払いの平準化。掛金の形で事前に平準化してキャッシュの拠出を行うため、退職者が多い年度でもキャッシュの流出が集中しない。
  • 退職給付会計の対象外のため、退職給付債務が発生しない。
  • 資産運用の責任を企業が負わない。
  • 従業員は運用益が非課税となるほか、受け取り時に各種控除の対象となるなど、税制優遇措置を受けられる。
  • マッチング拠出制度を導入すれば、従業員自身が掛金を上乗せして運用でき、その掛金も所得控除の対象。老後資金に関し、従業員により万全な準備を促すことができる。

正しい知識を備えデメリット解消

企業型DCは導入メリットが多く、デメリットと言われる内容も、実は裏を返せばメリットになることがお分かりいただけたでしょうか。老後資金の形成を後押しすることで福利厚生に寄与する企業型DCは、企業にとっても従業員にとってもメリットの多い制度です。まだ導入していない企業は、金融機関など専門家のサポートを受けて導入を検討してみてはいかがでしょうか。

企業年金、賃上げの方法について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年8月30日時点の内容となります。
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