消費者の動向、求職者の動向、そして取引先企業の動向……企業活動そのものに大きな影響を与えつつあるSDGs。この記事を読んでいるあなたの会社でも、経営者の一声で急に取り組むことが決まった、なんてこともあるかもしれません。しかし、実際に取り組みを計画・実施する部門長や責任者にとっては、「急に言われても……」と困ってしまうケースもあるでしょう。
SDGsの目標達成に向けて何から取り組むべきか分からないようでは、具体的な施策を検討することもままなりませんよね。
そこで今回はSDGsの取り組みに向けた「3つのポイント」をお届けいたします。
SDGsの取り組みに向けた「3つのポイント」とは
1:取り組みの検討にSDG Compassを活用する
取り組みを検討するにあたって活躍するのが、「SDG Compass」と呼ばれる、企業がSDGsに向けてどう取り組むべきかを5つのステップで示した指針です。こちらは国際的なNGOのGRI (Global Reporting Initiative)や国連グローバル・コンパクト、グローバル先進企業によって組織されるWBCSD(注1)が作成したもので、世界の多くの大企業が参照しています。
注1: World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)の略称。
最近では中小企業が参照しているケースも多く見受けられ、この指針で示されるステップに沿ってSDGsへの取り組みを始めることが国内でも主流のアプローチ方法となっています。具体的なステップは以下の通りです。
SDG Compass 5つのステップ
※SDG Compass より
ステップ1 SDGsを理解する
SDGsの17の目標やターゲットの本質を捉え、既存の自社事業をSDGsに紐づけながら理解していきます。
ステップ2 優先課題を決定する
このステップでは、バリューチェーン全体(原材料の供給拠点・調達物流から生産・事業を経て製品の製造・販売・使用・廃棄に至るまで)を俯瞰して図式化(マッピング)し、各段階に関わる企業や団体が社会的課題に対して正・負の影響を与えている点を把握します。把握した正・負の影響の中から、自社の優先課題とするものを決定します。
※SDG Compassより
ステップ3 目標を設定する
ステップ2で決定した優先課題に基づいてSDGsへの目標を設定していきます。目標の設定にあたっては、優先課題および経済・社会・環境の3側面を網羅することが望ましいとされています。また、例えば「カーボンニュートラル」など、大枠の目標を設定される場合には、進捗状況を見える化できるような具体的かつ計測可能なKPI(主要業績評価指標)を選択し、期限を区切って設定することが推奨されます。
こうして設定した目標は、社内外に公表していくことで、次のステップ「経営へ統合する」につながっていきます。
ステップ4 経営へ統合する
このステップでは、特に経営者が積極的なリーダーシップを取って目標に取り組む意義を従業員に伝え、また、目標に取り組むための社内制度等を整えていくことが必要です。従業員へSDGsを浸透させるための研修を行うことや、各部門を横断してSDGs対応にあたるチームを結成するなど、従業員一人ひとりがSDGsの取り組みを推進できる体制を作ることも効果的な手段です。課題解決の取り組みを、事業を通して会社全体で実施できるよう、ステップ3で設定した目標を経営に統合していきます。
ステップ5 報告とコミュニケーションを行う
SDGsに関する実績や目標を外部へ開示・報告するため、大手企業ではSDGsレポートやCSRレポート、サステナビリティレポートを発行したり、あるいは統合報告書を活用するのが一般的です。とはいえ、レポートの発行となるとそれなりの負担も発生するため、まずは自社のホームページで開示するのも一つの方法です。
自社の取り組み状況を適切に開示することで、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションの一助となり、協働を促進していきます。
これまで見てきたように、この5つのステップを用いると、具体的に何をしなければいけないかが整理できます。
詳細については「SDG Compass」でご確認ください。
2:取り組みの視点で大切なのは「リスク」と「機会(チャンス)」
SDG Compassに沿って検討を進めるうえで大切なのは、「自社の将来の重要な事業リスクと機会を見定める」視点を持つことです。
なぜなら、「SDGsの17個の目標」と「自社がやっている事業内容」を単純に並べただけでは、「なんとなく環境や社会に良いこと」を優先課題にしてしまいがちだからです。
こうなってしまうと、後に続く「目標の設定」や「経営への統合」につなげることが難しくなってしまいます。
経営に統合すべき「優先課題」を腹落ち感のあるものにするには、「SDGsの17の目標に向けて、大企業や取引先企業、消費者の行動やニーズが今後どう変化していくか」の仮説を立てることが有効です。これにより、自社の事業に将来どのような重要なリスクと機会が起き得るか、中長期的な視点で見定めやすくなります。
中期的な事業戦略を検討する際、将来の自社を取り巻く事業環境を予想し、どうすれば事業を衰退させず、成長させられるかを考えると思います。この点において、SDGsを「長期間かけて起こる、大きな外部環境変化」と捉えると、SDG Compassのステップは、時間軸の長い事業戦略を立て、実行していくアプローチと言えます。
では、SDGsを「大きな外部環境の変化」と捉えた場合に、どのようなリスクと機会が考えられるでしょうか。具体的なリスクと機会は企業によって異なりますので、ここでは大きな着眼点について例をあげていきます。
【リスクと機会の着眼点】
SDGsが提唱された背景のひとつに、経済が発展すればするほど、環境や社会にこれまで見えていなかった悪影響(外部不経済)が広がり、このままでは環境・社会・経済いずれも持続困難になる、という考え方があります。
このため、企業には環境や社会に、外部不経済を発生させないことが強く求められるようになりつつあります。
「環境」の外部不経済の代表例のひとつに、温室効果ガスによる気候の変化が挙げられます。これに対応するために、国は2050年を目標としてカーボンニュートラルを実現する方針が宣言しています。大手企業に対しては、事業活動を通じて排出する温室効果ガスを測定、開示すること、自社だけでなく、サプライチェーンを含む温室効果ガスを削減していくことが強く求められるようになっています。この影響は大手企業の1次サプライヤー、2次サプライヤーと徐々に広がっており、中小企業もカーボンニュートラルと無縁ではなくなりつつあります。
「社会」の外部不経済の代表例のひとつは「人権侵害」です。最近では、大手企業自身が直接関与していなくても、仕入先や下請先で人権侵害(過重労働や児童労働等)が発覚した場合、外国当局から制裁を受けたり、不買運動につながる事例もたびたび起きています。結果として、大手企業は仕入先や下請先の人権遵守の状況に神経をとがらせるようになっています。
また、日本における外国人労働者の就労環境等については、海外から厳しい目で見られており、国内で経済活動を行う中小企業も無縁ではなくなりつつあります。
こうした要素は、今後大きな事業リスクになる可能性があります。裏を返せば、環境負荷の少ない商品の開発、人権・環境に配慮した製造工程の徹底などによって、取引先や消費者から優先的に選ばれる対象となる機会(ビジネスチャンス)になり得ます。
3:共感を生む取り組みが重要
「SDG Compass」5つのステップに沿って施策を検討していくにあたり、「目標の設定」「経営への統合」に重要となってくる観点が従業員の理解・共感を得ることです。会社の理念に基づいた目標を設定できれば、従業員も目標を身近なものと思えるのではないでしょうか。実際に取り組みを行う従業員が理解・共感を深めていくことで、取り組みにも積極的になり、目標達成は近づいてくるものです。
そのため、理念(目標)は必ず言語化して、メッセージとして社内外に発信できるようにしていきましょう。社内から始まり、社外へ、そして広く世の中にメッセージを発信していくことで、従業員だけでなく取引先や一般の消費者からの共感を得ることが可能になります。
SDGsの取り組みは、方向性があいまいなまま施策を始めようとしても、うまくいかない恐れがあります。
段階を踏みながら着実にSDGsへの取り組みを進めていきましょう。りそな銀行ではSDGs実現に向けた情報発信も行っています。お気軽にご相談ください。
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。