SDGsやサステナビリティへの関心が高まるにつれ、ビジネスでも人権への対応が取りざたされるようになりました。人権尊重は当然のことではありますが、サプライチェーンが複雑化し、ステークホルダーが多くなり、どの企業にも意図しない人権リスクが潜んでいると考えるべきです。透明性と社会的責任を重視する取引先の信用を失わないためにも、事前に理解して備えることが大切です。
世界の潮流を受け、日本政府も「行動計画」
企業や事業のグローバル化が進む中、負の側面もクローズアップされるようになりました。
1990年代、東南アジアの工場の児童労働などが批判され、アメリカのメーカーに対する不買運動が起きたことをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。バングラデシュでは2010年代、縫製工場の火災やビル崩落で大勢が命を落とし、労働者の安全衛生に対する世界の厳しい目が注がれました。近年では、中国・新疆ウイグル自治区で生産された綿の使用をめぐって日本企業にも影響が及びました。
「ビジネスと人権」への世界的な意識の高まりを受け、日本政府も2020年、国連人権理事会で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえた行動計画を策定しました。(※)
その行動計画によると、人権尊重責任へのコミットメントを発信した上で、人権侵害の特定・予防・軽減→実効性評価→説明・情報開示、という一連のプロセスを指す「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」の実施が求められています。人権への悪影響が認められた場合は、謝罪や補償、苦情処理メカニズム・内部通報システムの構築といった「救済メカニズム」を形にします。
身近に潜むリスク 「人権尊重」どう推進?
人権を尊重する上で基本となる考え方は、規模を問わずどの企業にも人権侵害リスクがあると認識するというものです。対応を誤れば不買運動や世界的な批判にさらされ、従業員の離職や事業継続の断念といった深刻な事態につながりかねません。また経営陣によるコミットメント(約束)が必須で、全社的な関与が求められる点も押さえましょう。
では、配慮すべき人権とはどのようなものでしょうか。
児童労働、強制労働、危険な環境下での労働、結社の自由・団体交渉権(労働組合の結成)の侵害、性別・障害・国籍・性的志向による差別、ヘイトスピーチなどによる名誉棄損、AI利用によるプライバシー毀損など、非常に広範囲に及びます。
例えばウイグル問題を巡っては強制労働が指摘され、衣料品メーカーの対応が注目されました。また、建設業界では外国人労働者の権利や安全衛生の問題がつきまとい、一般的に人権リスクが高いと言われています。建設現場が日本国内であっても、木材調達における海外での児童労働や強制労働にも注意すべきでしょう。サプライチェーン全体に目を配り、あらゆるリスクを想定する必要があります。
中小企業が「人権尊重」に取り組むメリット
それぞれの企業が人権を尊重する責任を宣言し、行動すると、多くのメリットがあると考えられます。
人権侵害への加担が疑われたら企業・ブランドのイメージ棄損は甚大で、離職の加速や人材不足に陥りかねませんが、逆に着実に対応していれば従業員のエンゲージメント向上、定着・採用への効果が見込めます。社会やステークホルダーからの信用・企業価値の向上にも寄与するでしょう。
取引への影響も無視できません。大企業が中心となり、サプライチェーン企業に対しても人権への取り組みを遵守することを求めています。各社にアンケートを実施して状況を確認したり、調達方針を策定して公表したりといった動きが進んでいます。
さらに、今後は公共調達でも入札企業に人権DDを求める動きが進みそうです。2023年4月には政府が、「公共調達における人権配慮について」という指針を発表。東京都では2024年2月に「東京都社会的責任調達指針」(素案)を意見公募手続き(パブリックコメント)にかけており、公共調達において人権DDを推奨しています。
もはや、どの企業にも他人事ではいられない人権対応。
りそなグループでは、人権方針の策定やコンプライアンス研修、従業員意識調査など、人権に関する取り組みをご支援するメニューをご用意しています。お困りの際は、りそなグループへご相談ください。
(※)法務省「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)について」
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。