パク・スックチャ
株式会社アパショナータ 代表取締役
日本生まれ、韓国籍。
米国ペンシルバニア大学経済学部BA(学士)、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。
米国系運輸企業に入社。同社にて太平洋地区での人事および人材開発に従事する。その後、ワークライフバランスとダイバーシティを推進するコンサルタントとして独立。米国とアジアに精通したグローバルな経験を活かし、グローバル化と複雑化する多様性への適切な対応に向け、ダイバーシティ&インクルージョンへの風土改革及び教育研修に携わる。
企業にメリットをもたらす手法で進める在宅勤務(テレワーク)導入コンサルティングで成功実績を出し、企業での在宅勤務も専門とする。
近年ではアンコンシャス・バイアス及びジェンダーバイアスに関する組織での意識と行動変革にも力を注ぐ。
著書:
『アンコンシャス・バイアス—無意識の偏見— とは何か』(ICE新書)
『アジアで稼ぐ「アジア人材」になれ!』(朝日新聞出版)
『会社人間が会社をつぶす-ワーク・ライフ・バランスの提案』(朝日選書)
いざ女性活躍といっても、どこから取り組めば良いのか分からないという声もあるでしょう。そこで、ダイバーシティなどに詳しい、アパショナータ代表のパク・スックチャ氏に話を伺い、取り組みの手順や、注意すべきポイントなどについて、教えていただきました。
まず会社の現状を把握しよう
女性活躍にどう取り組むかを考える前に、まずは自社の現状を把握する必要があります。政府が女性活躍推進法に基づいて用意している、「中小企業のための女性活躍『行動計画』策定プログラム」などを利用してみてはいかがでしょうか?
これは、男女の採用者数や平均勤続年数などを入力することで、自社の女性活躍についての問題点を明らかにし、それに沿った目標案を提案してくれるプログラムです。ひとくちに女性活躍といっても、採用から勤続年数、労働時間、管理職比率、離職率など見るべきポイントはたくさんありますから、こうしたツールを使うと便利です。
「アンコンシャス・バイアス」に注意する
今では「女は仕事ができない」などと口にする男性経営者はずいぶん減ったと思いますが、ジェンダー・ギャップ調査の結果からも明らかなように、男女の不平等は厳然として存在しています。なぜかというと、意識的な偏見は減ってきても、無意識的な偏見「アンコンシャス・バイアス」がまだまだ幅を利かせているからです。
米国で行われた印象的な調査があります。1970年代、音楽学校の卒業生の4割超は女性でしたが、オーケストラのプロ楽団員のほとんどが男性。そこで、採用試験の際に受験者と審査員の間についたてを置いて、姿が見えない中で演奏してもらうオーディションをしてみたのです。すると、女性の合格者数が大きく増えました。
日本では数年前、東京医科大学など10の大学の医学部で、意識的に女性受験者を不合格にしていることが発覚して大騒動に発展しましたが、この米国のケースでは、審査員たちは意識的に「女性を合格させたくない」と考えていたわけではありませんでした。ただ、「女性より男性の演奏の方が優れている」という無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が、これほど入団試験の合否に影響していたのです。
アンコンシャス・バイアスの厄介なところは、無意識であるが故に気付きにくく、従って改善しにくいという点です。このオーケストラのケースのように「男性の方が有能だ」という思い込みは典型的な例ですが、「子どものいる女性社員は、早く家に帰りたいだろう」という配慮もアンコンシャス・バイアスです。一見親切に見えますが、バリバリ働いてキャリアアップしたい女性もいます。また、男性に対しても「男は出世したいに決まっている」と考えて、次々に負荷の重い仕事を与えていませんか? 仕事はほどほどにして、家族を大事にしたいと考える男性にとっては、このバイアスは大きな苦痛となり得ます。
女性が働きやすい職場は、男性も喜ぶ職場
アンコンシャス・バイアスを減らしていく有効なアプローチの1つは、推測しないで「本人に聞いてみること」。人間はバックグラウンドも考え方もさまざまなのに、性別や国籍、人種などで一律のレッテルを貼るから、間違いが起こるのです。それを防ぐためには、コミュニケーションを取って、本人の意思を確認することが重要となります。
また、基準をしっかり定めることも大切です。採用を例にとると、「何を聞くか」「どう評価するか」を事前に決めておき、相手が男性だろうが女性だろうが、同じ基準を使うのです。性別のほかにも、出身地、学校、趣味等が同じだったりすると、つい親近感を持ってしまうなど、無意識的なバイアスはそこらじゅうに潜んでいます。しかし、それらは仕事のパフォーマンスには何の関係もありません。「女性活躍」とは女性をえこひいきせよということではなく、フェアネス(公平であること)を求めているのです。
フェアな職場は、女性が活躍できる職場ですし、同時に男性にとっても働きやすい職場といえます。そして、純粋にパフォーマンスで社員を採用したり評価したりする風土が会社に根付けば、業績にもいい影響が出ないはずはありません。
女性活躍を単なるお題目、ないしは綺麗事と考えて軽く見るのはもったいない。人手不足の解消や業績向上に直結する、非常に重視すべき取り組みなのです。
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。