多忙なビジネスパーソンにとって、いきなり襲ってくる頭痛はやっかいなもの。仕事のパフォーマンスは下がり、やれることは、デスクにつっぷしたり、手元の頭痛薬を服用したり――特に痛みが激しく長く続く「片頭痛」には、思わず「なんとかして!」と叫びたくなるのではないでしょうか。片頭痛の原因や対処法について、テレーズ脳神経・頭痛クリニック理事長の望月由武人先生にお話を伺いました。

望月由武人(もちづき ゆぶひと)
医学博士
日本脳神経外科学会 専門医
日本脳卒中学会 専門医
医療社団法人 陽花会 テレーズ脳神経・頭痛クリニック 理事長
2017年よりテレーズ脳神経・頭痛クリニック開院。「頭痛治療で最も重要なことは正しい診断である」をモットーに問診をより重視し、頭痛の分類を行っている。特に頭痛の発生の原因となる認知や行動の改善に注目し、頭痛の根本的な治療を行うことを目標としている。また定期的なデータ分析を行い、治療法のupdateを行っている。テレーズ脳神経・頭痛クリニック院長。昭和大学医学部卒業後、大学院にて医学博士を取得。専門は脳神経外科手術。2003年よりNTT東日本関東病院にて研鑽を積む。2007 年、東京都保健医療公社 荏原病院に赴任、脳神経外科・脳卒中センター医長として約11年間、多数の機能的手術、脳腫瘍の手術など多岐にわたる手術を行う。2017年にクリニックを開設。
頭痛の正体を見抜くカギは「問診」
頭痛専門のクリニックを開設してこれまで多くの患者さんを診察してきましたが、私が最も大切にしてきたことは、それぞれの症状(痛み方、痛みの程度、痛む部位など)に加え、どれくらい前から、どの程度の頻度で、どんなシチュエーションで起きているか――
そうした点についてできる限り詳細にお聞きする「問診」の部分です。従来、頭痛の治療は原因がはっきりしないことが多く、対処の方法も個々のお医者さんによってまちまちなのが実情です。患者さんの側からすれば、処方された薬が効かず、つらい状態が改善せず通院を中止してしまったというケースも少なくありませんでした。
私が「問診」に重点を置くのは、見えにくい頭痛の原因を少しでも可視化し、蓄積したデータを分析・検討し、それによって症状ごとの頭痛の鑑別と適切な治療を実現するため、というねらいがあります。
そうした問診データに基づいていえること――それは、「頭痛が起きる場合には必ず原因がある」という事実です。診断が正しければ治療薬の効果は実感でき、もしなぜ頭痛が起きているのかという原因について患者さん自身が正しく理解できれば、頭痛自体を改善させることが期待できるのです。
片頭痛の最大の特徴は、「緊張が解けたときに出る」
まずは、片頭痛の症状を説明しましょう。一般的には、頭の片側または両側がズキンズキンと脈打つように痛みます。ひとたび起きると頭痛の程度はかなりきつく、頭痛が重度となると吐き気を伴うこともあり、数時間から数日続きます。以前は市販の鎮痛薬が効いていたのに、最近効かなくなったという場合は、薬の効果がなくなったのではなく、片頭痛の程度が悪化したと考えてください。
多くの患者さんを診察していただき問診のデータを蓄積した結果、どのようなときに片頭痛だと確信できるのかがわかってきました。決め手は、どういったシチュエーションで起きるのかという点にあります。片頭痛が起こりやすいシチュエーションとは、たとえば、仕事や家事などが一区切りついたような場面で起こるといったように、〝緊張のピークが過ぎてリラックスするタイミング〟です。いわば「リラックス頭痛」と呼ぶべき症状ですね。リラックスのイメージがわかないときは緊張していないときに頭痛が始まれば片頭痛です。
ただし、日常のなかでリラックスするタイミングのすべてに片頭痛が起こるわけではありません。重要なのは、必ず疲れているときしか起きないという部分です。緊張が続き、「疲れている期間」に「リラックスする」と起きる――この疲れというのは脳の疲れのことで、今日疲れたなと感じるときは、体ではなく脳が疲れている状況だと理解するといいと思います。
ビジネスパーソンであれば、午前の仕事が終わって緊張が解けたランチの後や帰宅途中や帰宅後、また週末前夜や休日に起きやすいことがわかると思います。ほかにも重要なプレゼンで連日残業し、本番への不安で夜も十分に眠れない、それを当日やり終えてホッとした……そんなときが要注意です。
そして最も重要なことは日中に蓄積した脳の疲れは、睡眠にも影響し、脳の疲れが消化されることを阻害します。睡眠の質が悪い場合は、片頭痛の起きる可能性は高くなると考えられます。意外と思われるかもしれませんが、当院の問診データの解析では、片頭痛が天候や気温、日差し、食事が原因となることは、ほぼないということがわかっています。

片頭痛と緊張型頭痛、発症メカニズムの違いとは?
このように、片頭痛は「緊張→リラックス」のタイミングで起こるもので、逆にいえば緊張が続いているさなかに症状が出ることはありません。つまり起きている間に緊張度の高い状態が収まらなければ、睡眠中に緊張が解け、早朝にひどい頭痛で目覚めるようになるでしょう。もしあなたの疲労が蓄積している状況で日々の生活を頑張っている場合、リラックスしたときに、どのようにして片頭痛は起きるのでしょうか。
脳の中でCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が大量に分泌され、脳の毛細血管に付着することで血管が拡張して起こるというのが、片頭痛の発生のメカニズムです。つまり片頭痛に鎮痛剤が効くと感じるのは非常に軽症のときだけで、通常は拡張した血管をもとに戻す薬(トリプタン)の内服が必須です。片頭痛の最新治療ではこのCGRPが血管に付着しないようブロックすることで血管が拡張しないようにする注射薬が登場し、多くの片頭痛患者さんが救われるようになりました。
ただ残念ながら、片頭痛の頓服薬である拡張した血管をもとに戻す薬が適切に処方されることは15%弱と非常に少なく、さらに頭痛頻度を下げる予防治療も4%程度の患者さんしか受けておらず、多くの片頭痛の患者さんが効果的な治療を受けているとは言い難い状況です。
また日中に緊張状態が持続すると頭や頚部、肩の筋肉にも凝りが生まれ、睡眠の深さがないと筋肉もリラックスすることができないため、「緊張型頭痛」が起きる可能性が高くなります。緊張型頭痛の症状は、締め付けられるような頭痛で、緊張度の高いときに頭痛がスタートすることが特徴的です。頭痛の頻度がとても多い場合は、この頭痛が混ざっていることがほとんどで、これまで頭痛持ちでなかった人でも、頭痛が続く場合はこの頭痛を疑います。天候や気温で頭痛が生まれることはなく、もし天候などが原因と思われるなら隠れていた緊張型頭痛が悪化しているだけと考えられるのです。
緊張型頭痛の治療は、通常の鎮痛薬を使用しますが、頭痛が長期間続き、症状が強い場合は単発の鎮痛薬の内服では改善しないことが多いため、医師の観察のもと、ある程度継続して内服することが必要になることがあります。
緊張や不安の持続とストレスが「体=脳の疲れ」をもたらす
片頭痛と緊張型頭痛は、前者が脳毛細血管の拡張から起こる頭痛で「緊張→リラックス」のタイミングで起き、後者は緊張の持続による筋肉の凝りから起こる頭痛で「緊張の高いとき」にスタートします。このように見ていくと、片頭痛と緊張型頭痛は、日中の心理的な負荷が続き、その結果、睡眠の質が悪くなることで、脳疲労や筋緊張が蓄積して起きる点で根本原因は同様であるため、ひとりの患者さんが両方の頭痛を持っていることも少なくありません。またどちらの頭痛も睡眠の質が特に重要なカギになることは覚えておいてください。
もし脳の疲れをできるだけ減らすことができれば頭痛は起きないわけです。正しい頭痛の診断がなされ、治療を受けた結果、頭痛頻度が減少した時点で、より頭痛の本体にアプローチしていきます。自分の脳の疲れが何によって起きるのかを患者さんと話し合っていきます。当院の患者さんは、長年頭痛に悩まされ、困り果てて、私のクリニックにたどり着かれます。周囲を気遣い、子育て、家事や仕事も丁寧で努力を惜しまない優秀な方がほとんどです。自分を「完璧主義の性格なので……」と自己分析する方も多いのですが、それに対しては主治医として「それは性格ではなく、人生のどこかでそのようにしなければと自分で選択したということであって、考え方や行動のクセでしかありません」と丁寧にお伝えするようにしています。
自分の考え方や行動は、自分を大切にすることを忘れていないかを考え、補正を心掛けることで、頭痛の根本原因である脳の疲れやそれに伴う緊張の持続は減るはずです。日々、自分の心で感じることから目をそらさず、正しく悩み、迷い、頑張ることが、「頭痛持ち」脱却の第一歩なのです。
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