「うつ病のある職場」でできることは?

ストレスの多い現代社会において、もはや他人事ではなくなった「うつ病」。従来とはややタイプの異なるうつ病も、若い人を中心に増加傾向にあります。職場にうつ病の人がいた場合、まわりの人はどのように接するのがよいか、また回復して職場に復帰した人が再発しないようにするにはどうしたらよいか、広岡クリニック院長の広岡清伸先生にお話を伺いました。


広岡清伸

広岡清伸
医療法人社団孝和 広岡クリニック 院長・理事長
精神科専門医、精神科専門医制度指導医、精神保健指定医
富山県高岡市出身。早稲田大学中退後に、日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院研修医、堀ノ内病院、関東労災病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。今まで診察してきた患者は1万人を超える。

“新型うつ病”とは何か?──2つのタイプと正しい理解

若者に多い、うつ病の新しいタイプとして近年よく使われている言葉が「新型うつ病」です。従来型のうつ病(大うつ病・定型うつ病)の症状が「状況を問わず気分が落ち込む」「不眠・食欲不振」「自責的」なのに対し、新型うつ病では「仕事では落ち込むが、趣味や旅行では元気になる」「過眠・過食」「他責的」が特徴とされています。

「大うつ病」と「新型うつ病」の比較

ただし、「新型うつ病」は医学的な正式病名ではなく、主にメディアや産業保健の現場で使われる俗称です。精神医学的には、従来からある「非定型うつ病」や「適応障害」の症状と重なります。新型の特徴とされる症状も、従来型のうつ病にも見られるものです。私は、新・旧というわけではなく、「情緒の安定性」という土台で、幅広く見るのがよいと考えています。

具体的には、「情緒安定型」は「精神と脳の蓄積疲労による症状」としてとらえます。生真面目、頑張りすぎる、責任感が強いといった性格の人が、過重労働などのため限界を超えて「ガス欠(蓄積疲労)」を起こし、うつ病を発症します。

一方で「情緒不安定型」は、「否定的思考や不適切な対処で生じる症状」としてとらえます。つまり、もともとの性格や成育歴による情緒的な不安定さ(対人過敏や不安)があり、職場のストレスに対して体や感情が過敏に反応している状態。それらが重くなると精神と脳が疲弊し、うつ病を発症します。

この2つは、あくまでも「どちらの傾向が強いか」で受けとめるようにしています。この分け方であれば、いわゆる「従来型」「新型」といったカテゴリー分類では外れる患者さんもカバーできるというメリットがあります。

その一言が、支援にも凶器にもなる

では、うつ病と考えられる社員が身近にいた場合、上司や同僚はどのように対応すべきでしょうか。まず大前提として、上司は医師ではないので「診断」をしてはいけません。見るべきは「普段との違い(変化)」です。そのうえで、うつ病のタイプによって「かけるべき言葉」がまったく異なります。ここで、一般的に理解されている「従来型」「新型」という言葉を用いて説明しましょう。

  • 従来型うつ病(大うつ病)
    彼らは責任感が強いため、限界を超えても「まだ頑張れます」と言う傾向があります。自分でブレーキが踏めない状態です。

この場合は、「辛いなか、よくここまで頑張ってくれたね」と、まずはその苦労を分かち合ってください。そして、「成果が出ていなくても、君の存在価値は変わらない」と伝えてください。本人が休みたがらなくても有給をとらせる、業務緩和を行うなどが有効です。
彼らはすでに自分を責めています。「数字が落ちているぞ」「もっと気合いを入れろ」「休んでいる暇はないぞ」と叱咤激励するのは、燃料切れの車のアクセルをベタ踏みするようなもの。励ましではなく「とどめの一撃」となり、最悪の場合、自殺を考える可能性もあります。

  • 新型とされるうつ病
    嫌なことがあると体調が悪くなるため、周囲からは「サボり」と誤解されがちですが、これは彼らなりの防衛本能です。壁にぶつかったとき、どう乗り越えていいかわからず、体が拒否反応(逃避)を起こしているのです。

この場合は、彼らを追い詰めている具体的なストレッサーが何なのかを、丁寧に聞き出してあげるといいでしょう。適応障害に近い側面もあるため、配置転換や業務分担の見直しだけで、劇的に回復することもあります。「怠けるな」「情けない」「逃げるな」などと、精神論で叱責するのは逆効果です。頭ごなしに人格を否定すると、彼らは心を完全に閉ざすか、あるいは攻撃的になり、関係修復が不可能になります。

どちらのタイプに対しても、共通して最悪なのは、「成果が出せない人間=無価値な人間」という扱いをすることです。必要なのは「人間としての尊厳(絶対的プライド)」を守ること。「大切な仲間」として接することが、会社ができる最大の支援です。

再発を防ぐ「心と脳の休め方」

うつ病の症状が改善し、復職をすることができても、症状が再発してしまう人がいます。再発を防ぐには、「本人の休息力」と「環境の調整」の2つが重要です。

うつになりやすい方は「休み下手」。休憩時間や休日も、頭のなかでは「あの失敗はどうしよう」「上司にどう思われているか」と、ネガティブな反芻を繰り返し、脳はずっと過活動状態で疲弊しています。

ここで、私が独自に提唱している対策で、簡単に心と脳のスイッチを切り替えられる「意識変換法」をご紹介しましょう。

まずは、「見る」ことです。関心が持てそうな物体、コーヒーカップでも絵画でもいいので、30秒〜1分ほど、ただ「見る」ようにしてください。たとえば、左にコーヒーカップ、右に拳の上に置いた親指の爪を配置し、交互に「コーヒーカップ→親指の爪→コーヒーカップ→親指の爪」のように視線を移します。こうすることで、意識が仕事や悩み以外のところに向くので、目と意識がほぐれます。

次に深呼吸です。呼吸は自律神経をコントロールできる唯一の方法ですから、ゆっくりと深呼吸を3回ほど行いましょう。そして体をほぐします。心と脳を休ませるために、肩を回したり首を伸ばしたりといった、簡単なストレッチを行います。最後に、心の中で「大丈夫」とつぶやきます。

意識変換法のやり方は自由です。たとえば、ランチ休憩に入る前、デスクで30秒間、窓の外の木々を眺める。深呼吸を3回。肩を回すストレッチを10秒。「大丈夫」と心の中で唱える。これだけで午後の仕事への切り替えがスムーズになります。余裕があれば、このサイクルを2回ほど繰り返すのも効果的です。その後、コーヒーやお茶を飲む際も、できるだけ仕事のことを考えず、飲み物の味や温度に集中すると、さらにリフレッシュできます。

こうして意識を変換することで、強制的に仕事や人間関係の悩みから脳を引き離すようにするのです。この「心と脳を休ませる技術」を身につけることが、最大の自己防衛になります。

意識変換法には、休息以上の効果があります。心と脳が休まることで、それまでの思い込みを修正できたり、他者の気持ちを理解する余裕が生まれたり、複雑に見えていた仕事を整理できるようになります。また、抱えていた苦悩を客観的にとらえ直すことで「実はたいしたことではない」と思えたり、別の角度から問題を解決する発想が生まれたりします。つまり、意識変換法は、苦悩をトラウマにせず、成長の糧に変える力も育ててくれるのです。

また、周囲の協力による環境調整も有効です。復職直後は、本人、上司、チームが「これくらいならできる、これ以上はパンクする」という業務量のラインを共有し、無理をさせないことが肝心です。人間関係や業務の適性が合わないケースであれば、部署異動で環境を変えることで、嘘のように生き生きと働けるようになることも少なくありません。

「復職者が安心して戻れる職場」の条件とは

うつ病から復職した人を迎え入れるときに大切なことは、互いの存在の尊厳を認め合うこと。つまり、復職したことを温かく歓迎してあげることが大事です。「成果」だけでなく「存在」を大切にする職場なら、人は必ず回復します。復職者を温かく受け入れることは、結果としてチーム全体の信頼関係を深め、誰にとっても働きやすい、強い組織を作ることにつながります。そのような強い組織を実現できるほど、「成果の果実」を生み出せるようになります。

馴れ合いという意味ではなく、家族のように「失敗しても帰れる場所がある」という安心感を持つ組織の構築――それこそが、現代の過酷なビジネス環境で生き残るための、最強のメンタルヘルス対策なのです。

りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年3月13日時点の内容となります。
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