日本は寄付文化が定着していない国とも言われます。法人寄付の総額は年間6,000〜7,000億円台で推移していますが、欧米と比べるとまだまだ低いようです。(※1)それでも、大企業による被災地支援やこども食堂など、企業寄付をもとにした活動も耳にするようになりました。実際にどのような取り組みが行われているのでしょうか。
寄付のあり方は、CSRからCSVへ
2000年代から「CSR=corporate social responsibility(企業の社会的責任)」の考え方が重要視されてきました。CSRはコンプライアンス(法令順守)や環境マネジメント、社会貢献活動など本業とは別の活動であることに対し、最近では本業や事業そのもので社会的価値を実現する「CSV=Creating Shared Value(共通価値の創造)」という言葉も生まれました。日本に昔からある「三方よし(売り手によし、買い手によし、世間によし)」という言葉に似た考え方です。
寄付をすると寄付分が単純にマイナスになるのではなく、寄付をすることで本業にもメリットがあるのは企業にとっても価値の高いこと。すでに大企業では、自社製品の原料の産地を育成支援するとともに原料を確保する、海外貧困層へのビジネス創出支援を通じて自社のビジネスアイデアを獲得するなど、「三方よし」のさまざまな取り組みが行われています。
中小企業のCSV活動はより地域密着型の傾向
これまで寄付活動には取り組む余裕のなかった中小企業でも、自社事業の発展に繋がるとなると対応の幅も広がるのではないでしょうか。社会問題を自社事業で解決するというCSVの考え方は、経営課題である販路の拡大、安定的な仕入先の確保、コスト削減、集客効果などと両立することが可能です。中小企業における実際の取り組み事例を見てみましょう。
事例1:企業利益で太陽光パネルを設置し、環境貢献を続けるバス会社(※2)
宮城県仙台市の「愛子観光バス株式会社」では、東日本大震災の交通麻痺時に、市民やボランティアのための臨時バスや捜索用のバスを多数運行しました。同時に電気の大切さを実感した同社は、その際の利益で太陽光パネルを購入。発電した分は売電し、カーボンオフセットのクレジットを購入するために活用しました。路線バス会社では全国初のカーボン・オフセット認証を取得したことで、バスの車内でもカーボン・オフセットの啓蒙活動を行っています。
また、排気ガスが少ない車両の導入やエコドライブを推進するなどして、近隣住民の住環境改善にも尽力しています。
※カーボン・オフセットおよびクレジットについてはこちらのページをご確認ください。
事例2:企業版ふるさと納税を利用した官民による観光施策(※3)
青森県十和田市の旅館・ホテルの運営を行う「株式会社三沢奥入瀬観光開発」では、冬季の集客に課題を感じていました。
同様に、十和田市も冬季観光の伸び悩みが課題だったため、二者で冬の観光コンテンツ作りについて意見交換を行い、多数のアイデアを発掘。同社ではアイディアを実現することが自社事業の改善に繋がると考え、親会社と共に、ふるさと納税を通した寄付を3年間に渡って実施しました。
この寄付をもとに官民一体となり冬季観光のコンテンツ整備に取り組んだ結果、観光客が大幅に増加。同社が有する宿泊施設の宿泊数が増加しただけでなく、地域経済の発展にも寄与しました。
このように、社会問題解決のために寄付をするという取り組みは私たちの身近なところで行われています。中小企業においても比較的新しい考え方であるCSVを取り入れることは、事業価値を高め、企業イメージ向上の契機にもなるでしょう。
(※1) 参考:寄付白書発行研究会、NPO法人日本ファンドレイジング協会 「寄付白書2021」
(※2) 環境省Webサイsト「カーボン・オフセット フォーラム」 取組紹介より 「環境貢献につながるローカルバス」
(※3) 内閣府 地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税 活用事例集 全国の特徴的な取組」(令和3年3月発行版)