令和3年度の経済産業省の調査(※1)によると、経営者がもっとも重視する経営課題は「人材」のようです。ところが少子高齢化や人口減で人手不足は深刻化する一方。非正規社員に頼らざるを得ない中、人材定着を図るために「同一労働同一賃金」を始めとする待遇差の改善が求められています。
同一労働同一賃金は働き方改革の一環として、2021年に関連法(改正パートタイム・有期雇用労働法、※2)が全面施行されました。正社員と非正規社員(パート、有期労働者ら)間の不合理な待遇差を解消。多様で柔軟な働き方を選択できるようにしたものです。総務省「労働力調査」(※3)によると、役員を除く雇用者のうち非正規雇用者の割合は36%程度を占め、待遇改善は待ったなしの状態でした。
今回は、働き方の多様化と人材定着を促すための同一労働同一賃金の考え方や、福利厚生面の見直しについて説明します。
「同一労働同一賃金」を正しく理解
同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしている従業員には、原則として同じ待遇を保障しなければならない」という考え方です。職務内容が正社員とすべて同じパートに対しては、基本給や賞与、手当を正社員同様に支給しなければいけません。ただし、能力や経験の違いによる待遇差はある程度許容されます。また、職務内容が違う場合は違いの内容に応じた合理的な待遇にすることがルールです。同じ電車通勤なのに、正社員のみ通勤手当が支給され、パートに支給されない場合、合理的とは言えないので認められません。
福利厚生の見直しが求められる理由
待遇差改善は賃金だけではなく、休暇や福利厚生面も含まれます。特に非正規社員にも退職金や企業年金制度が適用されれば、柔軟な働き方を継続しつつ将来への安心感も生まれます。従業員のモチベーションも上がり、労使の信頼関係も強まるでしょう。しかし、厚生労働省の調査(※4)によると、待遇の見直しを行った企業は28.5%にすぎません。内容も給与(45.1%)や有給の休暇制度(35・3%)にとどまり、退職金制度と答えた企業はわずか3.1%です。つまり、非正規社員にも正社員同様の退職金・企業年金制度があることは、ライバル企業と差別化を図る材料となるのです。
導入進む企業型DC
福利厚生の充実を目指し、近年多くの企業で導入が進んでいるのが企業型確定拠出年金(企業型DC)です。企業が掛金を拠出(積立)し、従業員が運用することで、将来運用資産を年金や一時金として受け取る制度です。税制面での優遇措置が充実していることに加え、積み立てた資産は転職をしても転職先の企業型DCやiDeCo(個人型DC)へ持ち運ぶことができるため、多様な働き方や新しい雇用形態にマッチした資産形成といえます。
企業型DC制度の加入者は、規約に定めない限り、その企業の従業員であり、厚生年金の被保険者全員が対象となります。厚生年金の被保険者であれば、非正規社員も加入対象になりえます。一方、加入対象者を限定することもできますが、合理的で客観的な基準を規約に定める必要があります。雇用形態だけを理由にして加入対象者から外すことはできません。
企業にとっては過度な負担なく導入できる制度といえます。確かに掛金の負担は生じますが、全額を損金に参入でき、法人税上のメリットも見込めます。また、金額も正社員と非正規社員で一律にする必要はありません。役職別やポイント制など、柔軟に設定が可能です。
専門家とともに新たな視点で制度構築
少子高齢化が進む中、多様な働き方に対応する労働環境の構築は、企業が成長と持続性を確保するため避けて通れない課題です。とはいえ、従来の制度を抜本的に見直し、同一労働同一賃金や福利厚生への対応を進める作業は簡単ではありません。
この場合、専門的知識を持った第三者に相談することで、新たな視点から制度構築を検討できます。待遇差是正の選択肢として、また、より多くの従業員が安心して働ける職場を作る制度として、企業年金の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
(※1)経済産業省「令和3年度中小企業実態調査」
帝国データバンク「令和3年度中小企業実態調査委託費中小企業の経営力及び組織に関する調査研究報告書」 より、「4.従業員の能力開発に対する経営者の意識―経営者が重視する経営課題」
(※2)厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」
(※3)総務省「労働力調査 2023年5月分結果の概要」
(※4)厚生労働省「令和3年 雇用の構造に関する実態調査 事業所調査6.パートタイム・有期雇用労働法の施行後の状況」
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