菊嶋勇晴
ケネディクス株式会社 広報・サステナビリティ推進部長
1997年慶應義塾大学卒業後NTTに入社。NTT東日本にて公衆無線LAN商用化プロジェクトに参画後、2006年ケネディクスグループに入社しJ-REITの資産運用業務に従事。2014年ヘルスケア専業J-REITの立ち上げに参画。2018年にはビットリアルティ株式会社代表取締役に就任し、クラウドファンディングによる個人向け不動産投資商品の提供に従事。2024年より現職。
今年3月、日銀は、賃金の上昇を伴う形で物価が安定的に2%上昇する「賃金と物価の好循環」が見通せるようになったと判断し、マイナス金利政策を解除しました。デフレが終わり、今後は緩やかに物価が上がっていくとすると、不動産への投資も考えておきたい局面です。今回はさまざまな不動産投資商品について、ケネディクスの広報・サステナビリティ推進部長、菊嶋勇晴さんにお話を伺いました。
より手軽に不動産に投資できる
日銀が目標とする2%の物価上昇が続いていくなら、家賃も遅行はするものの、上がっていくことが見込まれます。そうなると、賃料上昇、さらに地価上昇へとつながっていくでしょう。
不動産に投資したいと考える場合、現物不動産を購入するほか、さまざまな不動産投資商品の購入という選択肢もあります。下の図にあるように、日本には収益不動産が約290兆円ありますが、うち約47兆円はさまざまな不動産投資商品で証券化されています。
個人や中小企業など小口の投資家の方々でも手軽に買える投資商品として、J-REIT(不動産投資信託、取引所に上場しているもの)や、近年登場した不動産ST(セキュリティ・トークン、デジタル証券とも呼ばれる)が挙げられます。これらと同じように不動産を証券化した商品としては、私募ファンドや私募REITといった商品もありますが、主に機関投資家向けです。(不動産STについては「小口投資家も購入しやすい「不動産ST」とは?」で詳しく解説しています)
一般的に不動産投資をする場合、物件取得にまとまった資金が必要ですし、購入後も物件の管理や税務処理など、さまざまなタスクが発生します。一方、J-REITや不動産STなら、そうしたタスクは運用会社など専門家が行うため、投資家の負担はありません。数十万円といった少額から投資できる点も魅力です。
個人投資家でも安心して買える
J-REITや不動産STは購入しやすいという魅力があります。これらの商品の多くは不動産信託を活用したスキームです。つまり、信託銀行の受託審査に合格した物件なのです。そのため、不動産に詳しくない一般の個人投資家でも購入しやすくなっています。
J-REITと不動産STの特徴を簡単に考えてみましょう。まず値動きについては、J-REITは取引所に上場しているという性質上、株式市場の値動きに影響を受けます。一方、不動産STは株式市場の直接的な影響は受けず、鑑定評価に基づいて取引価格が決まりますから、J-REITに比べると緩やかな値動きが期待されます。
流動性については、J-REITは株式と同じようにプロの機関投資家を交えて取引所で売買できますから、流動性は極めて高いといえます。一方、不動産STは、取引所に上場してはおらず、証券会社の店頭取引を通じて売買する形となります。いつでも好きな時に売買できるというものではなく、流動性はJ-REITのように高くはありません。したがって、不動産STは長期で保有して運用益を得ていきたい方向けといえるでしょう。ただし、昨年12月には大阪デジタルエクスチェンジがSTの売買を行うことができる私設取引システム(PTS)の運用を開始し、ST取引の利便性や透明性を高めて売買を活性化させる新しい取り組みも始まっています。
まずは少額から投資して学んでみたい
また、保有不動産について見てみると、J-REITの4割はオフィスです。次に物流施設が2割、商業施設が15%程度と続きます。一方、不動産STはホテルと住宅で7割です。
これは、その時々で、利回りが良い不動産を選んで商品を作るからです。たとえば、不動産STが初めて実施されたのは2021年です。2021年から今年にかけては、コロナ後のインバウンド需要でホテルが好調、また、東京都内の住宅価格が高騰して、賃貸需要が増えました。そのため、ホテルと住宅が多くなっているのです。
J-REITはオフィスが多いのですが、米国と違って日本のオフィス需要はさほど厳しくありません。また、2023年から2024年にかけて日経平均は大きく上昇しましたが、J-REITは価格下落が続きました。ここにきて、割安感から見直される動きが出てきています。
現物不動産投資と違い、比較的気軽に購入できるとはいうものの、やはり不動産についてある程度の知識は持っている必要があります。J-REITも不動産STも少額で購入できますから、少し調べて、良さそうだと思った商品に少ない金額で投資をしてみながら、不動産について学んでみるといいと思います。
不動産の有効活用及び法人運用の余資計算について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。