深刻化するカスハラに対し、企業はどこまで対策できているか?——1万社調査から読み解く現状と課題

SNSの普及とともに、カスタマーハラスメントが深刻化しています。カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、「顧客や取引先などからのクレーム・言動のうち社会通念上不相当なものであり、その手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義され、厚生労働省は有識者検討会を通じ、企業に従業員保護を義務付ける法整備の方針を示しています。こうした国の動きを受けて、自治体でも対応が進みつつあり、東京都では2025年4月1日に全国で初めてとなるカスタマー・ハラスメント防止条例が施行されました。本記事では、企業への意識調査をもとに、カスハラ被害の現状と今後の対策について解説します。

業界・企業規模で異なるカスハラの実態

2024年6月、帝国データバンクは全国2万7,159社を対象にカスハラについての調査を実施しました。有効回答は1万1,068社(回答率40.8%)で、直近1年でカスハラや不当要求を受けたことが「ある」と答えた企業は全体のうち15.7%、一方で「ない」と答えた企業は65.4%となりました。被害を受けていない企業が受けた企業を4倍上回るという結果になりましたが、企業規模別でみると、カスハラを受けたことが「ある」と回答した大企業は21.0%、中小企業では14.8%、小規模企業で14.4%と、規模が大きいほど被害率が高い傾向が見られます。

企業規模別に見た、直近1年以内のカスハラなどの被害有無

業界別では、小売、金融、不動産、サービスが相対的に高く、製造、運輸・倉庫、卸売は平均を下回りました。現場からは「自分のわがままを押し通そうとし、思い通りの結果にならないと罵倒する年配の方が多い」「近年はネットに書くと脅されるほか、一方的に事実無根の悪評を書き込まれ、対応に苦慮している」などの声が上がった一方で、カスハラなどを受けたことが「ない」「分からない」と答えた企業のなかには、「どこまでの発言・行為がカスハラに該当するのか不明なため、判断しづらい」といった声が寄せられました。そのほか、「BtoBの事業会社であり、表立ったカスハラ経験がなく、遭遇する機会もない」といったように、事業形態によってはカスハラを受けない企業も一定数存在し、企業や業種によってカスハラの体感が大きく異なることがわかります。

カスハラ対策、具体的な取り組み内容は?

同調査において、カスハラに対する企業の取り組みの対応の有無を調べたところ、「取り組みあり」と答えた企業が50.1%、「特に取り組んでいない」が47.4%と、ほぼ二分される結果となりました。実際の取り組みで最も多いのは、電話に録音機能をつけるなどの「顧客対応の記録」で、2割を超えています。そのほか「カスハラを容認しない企業方針の策定」が12.3%、「カスハラ発生時のサポート体制の構築」が9.6%、「被害者への相談・通報窓口の設置」「警察や警備会社、行政との連携」がともに8.2%と続く結果となりました。業界別では、直近1年以内にカスハラ被害が多い業界は取り組みも多く、被害が少ない業界では取り組みが少ない傾向がみられました。

これらの結果からは、企業によって対策レベルに大きな開きがある現状が浮かび上がります。しかし、「まだ起きていないから」「BtoBだから大丈夫」といったように油断していると、カスハラ対応の遅れを招く恐れがあります。
特に、カスハラはBtoC業界に限った問題と思われがちですが、BtoBの現場でも、取引先からの過度な要求や精神的圧力が従業員のストレスや退職リスクにつながるケースは少なくありません。あらゆる業種・業態の企業にとって、カスハラ対策の重要性はますます高まっているのです。

毅然とした対応が、企業と従業員の信頼を守る

調査では、「顧問弁護士と迅速な連絡・相談する体制を整えている」「カスハラをしてきた企業との取り引きを停止している」など、毅然とした対応をとる企業の声も目立ちました。こうした対応は、単に“強気な姿勢”というだけでなく、従業員を守るという明確な意思表示であり、社内外への重要なメッセージになるといえます。

カスハラへの対応で企業に求められるのは、「黙認しない」「線引きをする」「初動を誤らない」ことです。あいまいな対応や事なかれ主義は、かえって事態を悪化させ、従業員の信頼を損ねかねません。

特に近年は、SNSや口コミサイトによる風評拡散のリスクもあり、企業の対応姿勢が「見られている」時代です。カスハラに対する毅然とした対応は、従業員の心理的安全性を守ると同時に、取引先や社会との信頼関係を維持するうえでも欠かせないといえるでしょう。企業として「カスハラを許さない姿勢」を示すことが求められています。

不当なクレームやネット上の誹謗中傷といった新たなリスクにも備えるために、従業員を守る体制を整えることは、働きやすい環境づくりだけでなく、商取引における信頼維持の観点からも不可欠です。カスハラは、被害が「ある」か「ない」かで判断するのではなく、「いつ起きてもおかしくない」という前提で備えるべきリスクといえるでしょう。

株式会社帝国データバンク「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」(2024年7月23日発表)

課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年10月31日時点の内容となります。
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