チャットGPTが旧来の仕事のあり方を揺さぶり、気候変動が地球規模のリスクとして立ちはだかり、多様な生き方や働き方が急速に浸透しています。右肩上がりの時代は遠い過去のもの。今は、不確実で予測がつきにくい「VUCA」の時代だと言われます。耳にする機会の増えた言葉ですが、抽象的でいまいち掴みどころがないかもしれません。そこで今回は、自社の変革に向けて実践できることを紹介します。
4つの言葉の頭文字から取った「VUCA」
そもそもVUCAとは、①Volatility(変動性) ②Uncertainty(不確実性) ③Complexity(複雑性) ④Ambiguity(曖昧性)という4つのワードの頭文字に由来しています。
①のVolatilityは端的に言うと、変化の激しさです。AIやビッグデータの普及などにより「第四次産業革命」とも呼ばれるほど社会・産業構造が変化し、仕事の内容や労働市場も流動的になっています。
②のUncertaintyの代表格は、気候変動や感染症などのリスクです。ウクライナ侵攻のように、紛争の勃発や国際情勢の多極化といった地政学リスクも無視できません。
③のComplexityは、社会・企業の課題や働き手の価値観などが多様化する中で、ステークホルダー、ソリューションなどが複雑に絡み合い、パターン化するのが難しい状況のことを指します。
④のAmbiguityは、①~③の結果とも言えますが、正解(解決策)が見えにくい現状を指しています。
自社の変革に向け、見直すべきポイント
この「VUCAの時代」をしなやかに生き抜くため、具体的に自社をどう変革させていけば良いのでしょうか。ここからは、「意思決定のあり方」「組織とカルチャー」「経営戦略としての人材戦略」を取り上げます。
迅速で柔軟な意思決定を
新型コロナウイルスの流行によって社会が大きく変わり、これまでの業務スタイルや常識が通用しなくなったケースが多々ありました。ウクライナ侵攻でも、世界的な物価高やサプライチェーンへの打撃などを受け、戦略の見直しを迫られる企業は少なくありません。このような危機に際しては、どれだけ練った戦略であっても計画通りに進めることは難しくなります。そのような「想定外」に備えるためにも、意思決定を迅速化・柔軟化することが大切です。
例えば、新しいフレームワークが注目されています。かねて業務改善のための「PDCA」の重要性が叫ばれてきましたが、近年では素早い意思決定を可能にする「OODAループ」が取りざたされています。これはObserve(観察)、Orient(状況把握)、Decide(決める)、Act(行動)の頭文字を取ったものです。PDCAは「P」から始まる一方向でのアクションですが、OODAはループであるため、例えば「D」から「O」に戻るなど、自社の置かれた状況に即して自由度が高い特徴があります。結果が予測できないとしても、瞬時に行動して振り返ることができれば競争力は高まります。
多様な組織と失敗を許容するカルチャー
経済産業省の資料(※1)によると、従来は事業環境の予見可能性が高く、安定性が重視されてきました。そのため新卒一括採用に代表される日本固有の雇用システムで構成された組織では同質性が高く、同じメンバーによるクローズドな組織が形成される傾向でした。ただ激しい変化に対応するにはそれを脱却し、外部の力も取り入れながら多様な組織にすることが求められます。
多様なメンバーをマネジメントする上では、先行き不透明な中にあって羅針盤となる、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を経営トップが明確化し、共有することが欠かせません。また迅速に手を打っていくためにチャレンジを歓迎し、失敗を許容するような社内カルチャーも醸成したいところです。
人材戦略をトップが関与する「経営戦略」に
変化に強い人材の育成は、一朝一夕にはいきません。人事部門への丸投げも禁物です。人材戦略を、企業価値の向上に直結する息の長い「経営戦略」として位置付け、トップが関与することが大切です。
具体的には、個人が自律的にキャリア構築していくことが組織の競争力強化につながると認識し、「学び直し」(リスキリング)を促すことが効果的です。1人1人に合わせた成長機会を提供することで専門性とスキルが向上し、自社への貢献意欲を高めたいところです。
人材は自社の変革や企業価値の源泉です。人材に伴う支出をコストでなく投資と捉える「人的資本経営」も意識し、事業の基盤を強固なものにしていきましょう。
(※1)経済産業省「人材競争力強化のための9つの提言」(2019年3月)
課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。