1 天気はビジネスに活用できる?
気象庁によると、昨年(2023年)は最高気温35度以上が22日もあり、年平均気温が観測史上1位という記録的猛暑の年でした。今年も猛暑が心配されています。また、11月の夏日や各地で発生するゲリラ豪雨など、特にここ1、2年は天気を心配することが多くなってきました。
天気は私たちの生活や仕事に深く関わっていて、さまざまな消費行動、多くの産業に影響します。既に気象データを需要予測やマーケティングなどビジネスに活用している事例は出てきており、2021年2月に発表された「産業界における気象データの利活用状況に関する調査報告書」では、実際に気象データを次のように活用しているという回答がありました。
- 台風などの気象情報を週間で確認し、物流ルートや物品の供給や社員の通勤等の危機管理に活用している
- 季節商品に関して、過去の気象データ(温度等)と販売数量を照らし合わせて、本年の販売見込を立て、製造部署に生産数量を依頼している
- 衣料品の展開等で、向こう1週間、1カ月単位で、平均気温の推移を見ながら展開時期を見極める等で活用している
- 気温の予想をもとに、複雑な鋳型の造型予定をたてている
気象データの活用以外に、「急に雨が降ったとき傘をレンタルできる」などのように、天気そのものに関連した商品やサービスも登場してきています。こうした天気に関連するビジネス(天気ビジネス)へのニーズは、異常気象などが続く中、今後も高まっていく可能性があります。
さらに言うと、天気は生活に密接しているので、気象データを活用した新商品や新サービスを考えるとき、自分事に感じてアイデアが出やすいかもしれません。気象データに応じて、その日のコーディネートをお勧めするモバイルサービスなどは、とても身近な感じがします。
そこで今回は、新規事業を検討したい経営者向けに、ヒントになりそうな天気ビジネスの事例や、天気ビジネスを自社商品の改善などに活かしている事例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
2 天気ビジネスを「提供する」「活用する」事例
1)メインどころは気象データの活用
今のところ、天気ビジネスのメインは「気象データの活用」です。スーパーやアパレルで気象データから需要予測を立てるなどは分かりやすい事例でしょう。一説には、気象データの活用サービスなどは400億〜500億円の市場規模があるともいわれています。
日本気象協会では、こうした気象データのビジネス活用を推進しようと、ビジネス向けの天気予報アプリ「biz tenki by 日本気象協会」を提供しています。例えば、気象予測と前年を比較して、小売業の現場で商品発注量をコントロールし、売上増とロス削減につなげるといった活用方法などを推奨しています。
■「biz tenki by 日本気象協会」■
https://weather-jwa.jp/service/biz_tenki
●「biz tenki by 日本気象協会」のイメージ例

(出所:日本気象協会「Weather X」)
気象庁「気象ビジネス推進コンソーシアム」や日本気象協会「Weather X」のウェブサイトでは、気象データをビジネスに活用している事例もいくつか紹介されているので、参考になるでしょう。
■気象ビジネス推進コンソーシアム「データ活用事例(事例インタビュー、気象データ利用ガイド、利活用事例集)」■
https://www.wxbc.jp/exampleandinterview/
■Weather X「導入事例」■
https://weather-jwa.jp/case
また、気象データ×ビジネス活用を推進する人材として注目されているのが、「気象データアナリスト」です。気象庁によると、気象データアナリストとは、気象データとデータ分析の知識を両方持っており、気象データ×ビジネスデータを分析・活用できる人材です。
気象庁は気象データアナリスト育成講座の認定も行っていますので、今後、天気ビジネスを実現する場合は、経営者自ら気象データアナリスト育成講座を受けてみる、もしくは社員に講座を受けてもらってもいいかもしれません。
■気象庁「気象データアナリスト育成講座」の認定制度について■
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shinsei/wda/index.html
●気象庁「気象データアナリストとは」

(出所:気象庁「『気象データアナリスト育成講座』の認定制度について」)
こうした気象データの活用や、天気予報、天気の変化を取り入れた商品などは、新規事業のヒントになるかもしれません。以下でいくつか事例をご紹介します。
2)新たな商品を自社で製造・販売する事例
1.AIを搭載した洗濯機
大手電気機器メーカーでは、AIを搭載した洗濯機を製造・販売しています。この洗濯機は、電源を入れると、住んでいる地域の天気予報に合わせた最適な洗濯方法を提案してくれます。例えば、午後から雨予報なのであれば、乾燥機能の利用をお勧めしてくれます。
また、AIが天気予報に応じて計算した1週間分の洗濯指数(洗濯物の乾きやすさを指数化したもの)を、スマホで確認することもできます。そのため、洗濯指数をチェックしながら1週間の洗濯の予定が立てられます。
2.近隣住民に浸水を知らせるシステム
各種センサーなどを受託製造するメーカーでは、冠水しやすい道路や住宅近くの水路に設置できる、浸水を知らせるセンサーを製造・販売しています。浸水が発生すると、近隣住民などにLINEで通知がいく仕組みです。このLINEメッセージに添付されるURLを開くと、浸水している地点が一目で分かるようになっています。このセンサーは、自治体向けに販売されているということです。
3.スピーディーに膨らむ土のう
合成樹脂繊維を用いた商品の開発・販売や産業機械を製造・販売する会社では、大雨や洪水時に必要となる土のうが、水に浸してもみ込むだけで完成する「ウォーターバスター」を製造・販売しています。大雨や洪水時に使用する一般的な土のうは土を補充して使用しますが、ウォーターバスターは水に浸すだけで土のうになるため、土のない都心部などでも簡単に災害対策が可能です。
3)新たなサービスを自社で開発・提供する事例
1.気候変動からリスクを分析するサービス
民間の気象情報会社では、気候変動が企業や自治体に与える影響を分析するサービスを提供しています。気候変動により企業が被るリスクや財務影響の分析などが可能です。気候変動による浸水リスクや操業停止リスクなどを拠点ごとに分析し、企業のBCP(事業継続計画)作成に貢献しています。また、企業のみならず自治体でも利用できるサービスです。
2.建設現場専用の気象対策システム
気象コンテンツを提供する会社では、建設現場専用の気象対策システムを運営しています。ピンポイントで建設現場の豪雨予測や最大風速予測などを出すことができ、大雨や強風の予測が作業中止基準を超えると、アラートメールが現場監督や現場作業員に自動で送信されます。
管理画面には工事現場名が入っているため、現場監督はスマホ画面を撮っておくことで、作業を中止したという記録を残すことが可能です。
3.天気に合わせたコーディネートが分かるアプリ
メディア事業や広告事業などを行っている会社では、その日の天気や気温に合ったファッションが分かるアプリを運営しています。「フェミニン系」「カジュアル系」「オフィス系」「モード系」の4種類から洋服のタイプを選べば、その日に合ったコーディネートを紹介してくれます。気に入ったアイテムがあれば、すぐに購入することも可能で、女性に人気のアプリとなっているようです。
4)自社商品やサービスの改善などに気象データを活かしている事例
1.需要予測サービスによるスーパーの加工量調整
スーパーを運営する会社では、日本気象協会が提供する商品需要予測サービスを利用して、総菜や刺身の加工量の調整をしています。天気予報によって商品の需要を予測することで無駄な加工を避けられ、廃棄食材の削減が可能です。
2.気象データを活かしたスマート農業
九条ねぎの栽培に特化した農業法人では、民間の気象情報会社によるIoTセンサーを畑に設置して、九条ねぎの栽培管理を行っています。
このIoTセンサーは、1分ごとの風速や風向、雨量、気温、湿度などを観測できるため、「畑の風速が○メートルを超えたら畑の様子を確認しにいく」「畑の気温が○度以下になったら葉面散布をする」などのように活用しています。
3.気象データを活かしたキャンプ場運営
キャンプ場を運営する会社でも、民間の気象情報会社によるIoTセンサーをキャンプ場に設置しています。キャンプ場は、たき火の火の粉が風に舞ってテントに穴を開けたり、周囲の草に燃え移ったりするリスクがあるため、IoTセンサーで計測した風速や風向を基準にして利用者に注意喚起をしたり、キャンプ場を閉鎖する決断をしたりしています。IoTセンサーの利用により、感覚的ではなく数値に基づいた客観的な判断が可能です。
4.訪れる人の安全確保に気象情報を使っている公園
公園の中には、雷・気象情報システムを導入して、来園者の安全確保を行っているところがあります。園内から一定圏内で落雷があった場合はシステムが警報音を発信し、同時に来園者に注意喚起を促す園内放送が流れる仕組みです。また、さらに近い範囲で落雷があった場合は、野外の施設使用を中止することとなっていて、来園者の安全確保に努めています。
以上、天気ビジネスの事例などをいくつかご紹介しました。こうした天気ビジネスのアイデアの根本は、新しい商品やサービス、あるいは既存の自社の強みを新規ビジネスに活かすヒントになるかもしれません。社員とも共有してみるとよいでしょう。
以上
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。
提供
日本情報マート
