近年、生成AIをはじめとしたテクノロジーの進化が進むなかで、「AI導入が職場にもたらす影響」への関心が世界的に高まっています。こうしたなか、厚生労働省所管の調査研究機関が、OECD(経済協力開発機構)の知見もふまえつつ、日本でのAI・自動化技術の活用状況に関する大規模調査を実施しました。本記事では、全国の雇用者2.2万人を対象に収集された最新のデータから、職場のAI活用の実態と、今後の働き方のヒントを紹介します。
職場のAI、利用率は約1割未満?
ChatGPTをはじめとする生成AIの話題が連日メディアをにぎわせるなか、実際には日本の職場でどれほどAIが活用されているのでしょうか。全国の雇用者2.2万人を対象にした労働政策研究・研修機構による調査では、勤め先企業で「AIが使われている」と回答した労働者は2,833人(12.9%)にとどまりました。さらに、「自身がAIを使っている」と答えた人は1,854人(8.4%)という結果でした。
AIが社会的に注目されているわりには、仕事上での実際の活用はまだ一部にとどまっているといえそうです。働き方改革や業務効率化が叫ばれるなかで、AIはその切り札として期待されていますが、現実にはまだ「AIを活用している人」が1割に満たないというのが現状です。このギャップの背景には、AI導入そのものの遅れだけでなく、現場への十分な浸透・教育が進んでいないといった要因があると考えられます。
AIがもたらす「仕事の質」の変化
AIは業務の効率化だけでなく、仕事の「質」にも影響を与えているようです。今回の調査では、AIを実際に利用している1,854人に対して、AIの利用前後で仕事の質がどう変化したかを尋ねたところ、「仕事のパフォーマンス」については「かなり改善した」「少し改善した」と回答した割合が合計で60.6%。「少し悪化した」「かなり悪化した」(合計で11.4%)を大きく上回る結果となりました(図)。

ほか、「上司や管理者による従業員へのマネジメントの公平性」「メンタルヘルスとウェルビーイング(生活満足度や幸福度等)」「職場における安全性と身体の健康」といった項目においても、「かなり改善した」「少し改善した」と回答した割合は、「少し悪化した」「かなり悪化した」を上回り、AIの活用によるポジティブな変化が確認されています。このことからAIは、「仕事の質」を高める可能性を秘めていることがうかがえます。
また、働き方そのものにも変化が現れています。たとえば、AI利用前後で「月間の総残業時間」は「減少した」という回答が「増加した」を上回りました。さらに、「年次有給休暇の取得日数」「平均的な賃金総額(税金と社会保険料を差引く前の額面)」「職場で上司・同僚・部下と話す機会」「仕事で新しい事を学ぶ機会」といった項目でも「増加した」との回答が多く、AIが仕事のパフォーマンスだけでなく、職場環境や働きがいの向上にも貢献しつつあることがわかります。
AI活用の効果を最大化するカギは「人への投資」
職場におけるAI利用が仕事の質を改善する効果を最大化するためには、企業側・従業員側の協働が不可欠です。しかし、職場で新しい技術が使用されるときに、雇用主が労働者または労働者代表と話し合いを行っているかを尋ねたところ、回答した労働者2.2万人のうち、「行っている(行った)」と答えたのは全体でわずか15.6%にとどまりました。AI が実際に自身の職場で使われたケース(2,042人)で見ると、「行っている(行った)」という割合は32.0%と全体の数値よりは多いものの、約7割の職場ではAI導入にあたって雇用主と従業員との対話がなされていないという実態が浮かび上がります。
その一方で、AI利用者に対して「AIについてもっと学びたいと思っているか」を尋ねたところ、60.6%が「同意する」と回答しており、AIを利用しながら働くための学び・学び直しのニーズがうかがえます。しかし現実には、企業によるサポートは追いついておらず、AI使用企業に勤める労働者2,833人に対して「企業はあなたがAIを利用しながら働くことが出来るように、訓練提供や資金援助をしてきたか」と質問したところ、「はい」と回答したのは25.3%。全有効回答労働者数ベースではわずか3.3%という結果でした。
AIのような新しい技術を活用するには、「個人の学び」と「企業の人的投資」を両輪で進めることが大切です。すなわち、人に投資する企業こそがAIを本当に活かせる、ともいえるでしょう。
AI時代に問われるのは「人が安心して使える土台づくり」
AIの可能性を広く活かすには、環境の整備も必要です。AIによるポジティブな効果を享受し、ネガティブな影響を抑制するために、企業や政府に求められる取り組みを尋ねたところ、最も多かったのは「AI技術を利用する際の安全性の向上(個人情報の不適切な利用、虚偽・偏向情報の拡散、著作権侵害などのリスクへの対応など)」で、34.5%となりました。
次いで「AI技術自体の信頼性と透明性の向上」や、「仕事のパフォーマンスの向上と賃金の引上げにつながる技術開発」という回答も3割超と多く、ほかには「労働者の働き方と働く環境の改善につながる技術開発」や、「AI時代に求められるスキルや能力の明確化」、「従業員が仕事でAIを使うために学ぶことへの支援の強化」などといった回答も多く見られました。AIをめぐる課題は「技術力」だけでなく、「人と環境」の整備に及んでいることがわかります。
技術の進化とともに、働き手の不安や期待も多様化しています。企業や行政には、こうした「働く側」の声を丁寧に汲み取りながら、AI時代の土台となる信頼・学び・支援の体制を整えていくことが求められています。
労働政策研究・研修機構「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果
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