手形・小切手電子化のメリットを知っておこう

古賀元浩

古賀 元浩
一般社団法人全国銀行協会 事務・決済システム部 次長

2007年東京銀行協会(現全国銀行協会)入社。2023年4月から現職。手形・小切手機能の全面的な電子化に関する企画・推進業務のほか、全銀EDIシステム(ZEDI)の利活用促進、CBDC、オープンAPI、キャッシュレス等の決済サービスの高度化に関する業務を担当。


手形・小切手の電子化は、利用する企業にも多大なメリットをもたらします。その具体的な内容について、全銀協の古賀元浩・事務・決済システム部次長にお話を伺いました。

多岐にわたる電子化のメリット

長年、慣れ親しんだ手形・小切手をやめることに抵抗を覚える方も少なくないと思いますが、人手不足や物価高が深刻化する中、手形・小切手の電子化は企業の業務効率化や生産性向上、コスト削減に大きな効果が見込めるものです。

手形電子化への対応として、「でんさいネット」が取り扱う電子記録債権(でんさい)への切り替えが代表的です。詳しくは、こちらのページをご参照ください。また、小切手については、IB(インターネット・バンキング)での振込で電子化できます。

紙ベースですと現物の管理が必要なほか、手書きしてゴム印を押し、印紙を貼り付けて郵送するなどの事務作業も発生します。ある企業では、毎月400枚もの手形を振り出していましたが、電子化を進めていったところ、月間20時間もの経理業務削減につながったといいます。

また、郵送代や印紙代の削減も可能になります。ある企業は印紙代を9割削減でき、その金額は実に年間3,000万円に上りました。これは大企業の例ですが、手形を扱う数が多い企業ですと、かなりのコスト削減効果が見込めるのです。

具体的に手形の電子化に伴う業務プロセスを比較してみると、以下のような図になり、業務プロセスが大幅に効率化されることが一目瞭然です。また、全銀協がリサーチ会社に委託した調査では、手形を電子化することで、産業界全体で176億円のコスト削減効果があることが明らかになっています。

手形の電子化に伴い、業務プロセスが大幅に効率化

なお、「でんさいネット」では、ウェブ上で、紙の手形からでんさいに切り替えた場合に、どの程度のコスト削減効果が得られるのかを診断できるページもご用意していますので、ご活用ください。

さらに、紙ベースですと紛失や盗難のリスクがあるほか、災害時に焼失するなどのリスクもあります。電子化されれば当然、こうしたリスクはゼロになります。場所を選ばずに利用可能ですから、リモートワークもできるようになります。働き方改革にも大きく寄与するシステムなのです。

でんさいの効果については、導入した企業からの声を集めたこちらのページも参考にしてみてください。

上記では手形の電子化についてのみ説明させていただきましたが、紙の小切手のIBによる電子化でも同様の効果が得られます。

電子化を進めるにあたっての課題は?

全銀協では昨年、手形・小切手の全面的な電子化にあたって、リサーチ会社に委託し、利用者の意向調査を実施しました。すると、手形は振出側の8割、受取側の9割が「やめたい」と回答しました。小切手は、振出側の6割、受取側の8割が「やめたい」と答えています。

手形・小切手を「やめたい」利用者が多い

ここで注目すべきは、「やめたいが、やめられない」と回答する方がかなり多いことです。コストや事務作業の手間を考えるとやめたいが、受取側や振出側が手形・小切手の利用を継続したいと希望している場合、自社の都合だけで電子化するわけにはいかない、という実態を示しています。

では「やめたくない」という方は、何が理由なのでしょうか? さまざまな理由があると思いますが、経理事務を変更することに抵抗があるという回答のほか、そもそもIT化に抵抗がある、新規にパソコンを購入する費用をかけたくない、などの事情もあるようです。

この点については、IBの契約が不要で、現在、お使いのスマートフォンやタブレットを通じてでんさいを利用できる「でんさいライト」が今年中にリリースされる予定となっています。ただし、通常のでんさいとは仕様が異なる部分などがあり、「でんさいライト」の利用を検討する際にはでんさいライトの特設ページ等でご確認をお願いいたします。

また、さまざまな誤解もあるようです。たとえば手形の受け取りをやめたくない理由に「裏書譲渡ができるから」というものがありますが、実際には電子記録債権も譲渡が可能です。また、小切手の場合、「振込等と比べて手間がかからない」「多額の現金の取り扱いが不要」という利点を挙げる方がいらっしゃいますが、実際には振込よりも小切手の方が業務プロセスは多いですし、多額の現金の取り扱いは、振込であってもする必要がありません。

ただ、全取引先が電子化に一気に合意してくれない場合、当面は紙と電子化両方を並行して扱う必要があります。この作業の複線化を敬遠する声もあるのですが、いずれ電子化は避けては通れませんし、今後想定される紙の手形・小切手の利便性の低下から、未対応のままだと事業・商取引の継続に悪影響が出てくる可能性もあります(「手形・小切手電子化への対応、進めていますか?」記事参照)必要に迫られた時に慌てて導入するよりは、早期に電子化を進めておいた方が、混乱が少なくて済むでしょう。

資金繰り改善の効果も

実は電子化には資金繰りを改善させる効果もあります。5日、10日、月末などに締めて一括振込を行う企業が多いですが、手形は支払い期日の翌営業日以降でなければ資金として利用できません。一方、でんさいは支払い期日に入金が完了しますので、入金になった時点から資金として利用できます。実際、「でんさいに切り替えてから資金繰りの計画が立てやすくなった」との声が上がっています。

このように、電子化には多くのメリットがあります。電子的決済手段に切り替える作業と、業務を覚えるまでには多少の手間も必要ですが、すでに多くの企業が電子化を進めており、今後も、電子化を進める企業はますます増えていくことが予想されます。取引先から「電子化したい」と声がかかる機会も多くなると思いますから、今のうちに、余裕を持って切り替えていただくことをおすすめしたいと思います。

決済業務効率化について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年9月6日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
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