EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 シニアマネージャー 恩田 克大 さま
中堅監査法人にて監査業務に従事した後、2014年にEY新日本有限責任監査法人へ入所。FAAS(Financial Accounting Advisory Service:財務会計アドバイザリーサービス)事業部の一員として、国際会計基準(IFRS)導入支援をはじめとするさまざまな財務会計アドバイザリーサービスに従事。2018年より約2年間、EYシカゴへ出向。帰任後はグローバル企業に対するサービス、特に決算早期化や内部統制(US-SOX)の分野でプロジェクトを牽引している。公認会計士。
経理業務の中でも重要な決算業務は、負担が大きいと感じる方も多いかもしれません。決算を早期化することで、業務負担の軽減と、経営への好影響も見込まれます。EY新日本有限責任監査法人の公認会計士、恩田克大氏に詳しくお伺いしました。
決算早期化を取り巻く状況
決算早期化に取り組む理由は企業の経営環境によって大きく変わりますが、「投資家に迅速に情報提供をしたい」「現行の日程よりさらに早く財務情報を把握したい」という経営陣の要請がきっかけで検討されることが多いです。
決算を適時かつ適切に行うことは、経営陣にとってリアルタイムな経営判断がしやすくなるだけでなく、経理部門にとっても、年度末近辺に集中していた決算業務を平準化できるというメリットがあります。
決算早期化の実現には、財務数値に関わる業務、すなわち経理部門だけではない営業・調達を含む組織全体の業務を総ざらいし、ムダを減らすことが欠かせません。ひいては組織全体の業務効率化に繋がるわけです。
これらの目的で、決算の早期化に取り組みたいというご要望が増加しています。
決算早期化実現のフロー
決算早期化を行うことは、1つの事業課題を解決することと同義です。次の流れで考えてみましょう。
1. 決算早期化を実行する目的や期限を決める
最初に決算早期化を行う目的を明確にします。経営状況を適時に把握すること、経理業務効率化によるコスト削減を図ることなど、企業によって目的は異なります。
同時に、早期化達成までの期限、達成後の決算スケジュールなど数値的な目標も決めましょう。
2. 現状の財務数値にまつわるプロセスを洗い出す
経理部門での最終的な締め作業だけではなく、物品の仕入れなど財務数値に影響を与える上流のプロセスから見直しましょう。財務数値に関わる業務を細かく洗い出し、できれば業務ごとの繋がりをフローチャートなどで見える化します。そうすることで、決算早期化を妨げるボトルネックがどこにあるかを分析し、対応すべきポイントを絞り込むことができます。
ボトルネックとなる事象の例としては、以下が挙げられます。
- 紙の書類が膨大で手作業が多い
- ヒューマンエラーを防ぐためのチェック作業が必要以上に多い
- グループ会社や部門間の連携がスムーズでない
- 作業の属人化により特定の従業員に負荷が偏っている
- マニュアルがないことで引き継ぎができない
3. 対応方法を考案する
ボトルネックである事象によって対応方法を考えましょう。
「デジタル化」「人」「プロセス」の3つの観点から複合的に対応方法を考え、重要な事象に絞って有効な策を打っていくことが肝要です。デジタル化であればシステム改修・再構築による自動化範囲の拡大、人については経理人材の育成(手順書・マニュアル作成、教育研修)や外部リソースの活用。そしてプロセスなら、業務オペレーションの見直しによる不要な業務の削減などが考えられます。
対応方法を考案する際の視点 – デジタル化
まずは紙の書類をデジタル化するところから始めることも多いでしょう。会計システムの入れ替えによる効率化を図るケースもあるかと思います。デジタル化は最も効果が高く、ヒューマンエラーも限りなくゼロに近くできる方法として有効です。
ただ、特に中小企業では従業員の中にそもそもパソコン業務が不得意な人が多いという企業も少なくありません。訓練の時間を設けたり、マニュアルを作成したりする必要もあるでしょう。またシステムの入れ替え等を行う場合は、関係部門との連携をとった上で、想定した結果が出るかのシステムテスト期間も必要なため、年単位での取り組みになる場合もあります。
実際に弊法人がご支援させていただいた上場企業の事例では、プロセスの見直し、システム導入などを通して当初目標の日数の決算早期化を達成しましたが、これには約3年という時間がかかっています。
このように、デジタル化は非常に有用な施策である反面、時間とコストがかかりますので、それを許容できる企業体力が必要です。
決算早期化をスムーズに実現するために
決算早期化は、「単に締め切りを早める」だけでは実現できません。それでは担当者に負荷がかかり人的ミスを誘発するだけでなく、従業員のワークライフバランスを悪化させ、従業員エンゲージメントの低下に繋がってしまいます。「〇日決算を早める」という目標は、あくまでも、ムダを減らし業務を効率化させた結果として付いてくるものであるべきです。
早期決算と業務の効率化は切っても切り離せないものと考え、その上で「何を目的として早期化するか」を明確にしてから取り組むことを推奨しています。
また、「決算を早めたい」「経理業務を効率化したい」という声は、CFOや経理部門から出てくる要望ではあるものの、他の部署はその必要性を感じにくく、協力を得ることに苦労するという声も少なくありません。
しかしながら、決算早期化・効率化は財務数値に関わる全ての業務に影響を与えるものであり、経営陣や経理部門のみならず組織全体に広くメリットをもたらします。そのメリットを従業員の皆さまにご理解いただくとともに、決算早期化の必要性を経営者の強いメッセージとして発信し、全社的な意識醸成に努めることが重要です。