東京商工リサーチの調査(※1)によると、全国の社長の年齢分布では70代が最多となっており、平均年齢は62.49歳です。数年以内に多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えると予想され、この記事を読む方の中には会社を引き継いだばかりの二代目社長も少なくないでしょう。若い自分が社長となり、今後を見据えた時に「会社を長く存続させるには社内の若返りも必要。そのためには心身がフレッシュな若い人を採用すればいい」という単純な発想を持つことは避けたいものです。事業や組織を含めた若返り術を考えていきましょう。
1.事業や商品の見直し
まず手をつけたいのは自社事業や商品の見直しです。先代社長の時代には安定していた事業も将来を見据えると先細りである可能性もあります。商品ごとの売上・シェア・利益率などを徹底的に分析したり、二代目社長のフレッシュな発想力で自社事業を見つめ直してみましょう。その過程で業務プロセスの効率の悪さに気づき、生産性の向上などに寄与するかもしれません。新事業と旧事業を並行させたり、思い切って新事業に切り替えてみるなど、トップダウンのスピード感は中小企業の強み。大企業には難しい柔軟性や機動力を活かして社長自ら新規事業を推進していきましょう。
両親だけの会社から若者を雇用してものづくり企業へ(※2)〜三代目社長の取り組み事例〜
精密電子部品塗装などを行う企業として先々代社長が立ち上げたS社。最盛期に60人程度の従業員を雇用する規模でしたが、取引先大手工場の海外移転により仕事が激減。現社長は両親だけになってしまった会社を引き継ぎました。現社長は会社を継ぐ前に製品設計や製造現場の業務に携わっていた経験から、設計・試作・製造の一体性を重視。アイデアを素早く試作する環境を作りたいという思いを持つようになりました。現社長は一人で少しずつ事業を始めるつもりでしたが、自身の思いを様々な人に語り続けたところ、同様の課題を持っていた企業などから相談が殺到。設備や従業員を充実させて事業を始めると、急な試作依頼に対応してくれる企業として全国の大手・中小企業の駆け込み寺的な存在となるに至りました。同社の従業員には、ものづくりやデザインに興味を持つ地元の若者が多く集まっています。
2.経営手法を再考する
次に組織体制について考えてみます。先代社長が1人で切り盛りしていた会社も多いでしょう。トップダウンのスピード感や牽引力で創業期を乗り切るワンマン社長は多いもの。時には強引な場面もあったかもしれませんが、一代で会社を築き上げた先代社長のことを尊敬している従業員も多いのではないでしょうか。しかし、二代目社長が同じようにワンマン経営の手法を取ることがよいとは限りません。また、長期間同じ組織体制のままだと、組織は硬直化し、成長を鈍化させます。世代交代を機に従業員の意見を聞き、ワンマン経営からチーム経営へと経営手法の転換を検討するとよいでしょう。チーム経営は権限を分散させ、リスクも分散します。事業・商品に即した組織体制の再構築や配置換えなども併せて行うことで新しい風が吹き、社内の風通しが良くなることへとつながります。ずっと変わらぬ人間関係は心地いい反面、停滞期とも呼べるのです。進級を機に成長する子どものように、組織変更で従業員のモチベーションが上がり、新たな創造を生み出すでしょう。
3.人事制度や財務の見直し
創業以来、人事制度、福利厚生の見直しを行っていないという企業も多いかもしれません。等級や評価、給与制度といった人事制度や福利厚生は従業員のモチベーションに大きく影響を与えます。まずは給与制度や役職手当などを時代に合わせたものにするなど、出来そうなところから改善を考えましょう。また、二代目社長の企業では、従業員の高齢化が進んでいるかもしれません。将来の退職金が財務へ与える影響を考慮して役職定年制を導入したり、短時間勤務を導入するなどの選択肢もありますが、慎重な判断が必要でしょう。また、創業社長が不動産を持っている場合など会社資産と個人資産が不明確な場合などには明確にしたり、将来の事業に必要のない滞留在庫や遊休資産を処分、現金化することで新事業や若手従業員採用の原資にもなり得ます。銀行や投資家と良好な関係を構築していくためにも財務の見直しは必須です。
創業社長には会社を起こす際に苦労があったかもしれませんが、二代目社長は創業時と異なる悩みを多々抱えていることでしょう。改革を進めていく上では孤独になることがあるかもしれません。引継ぎ当初は先代社長に相談したり、社長仲間や会計士など、相談できる相手を見つけることも気にかけてみてください。
※1 東京商工リサーチ 全国の社長年齢調査
※2 中小企業白書(2013年版)より
課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。