親から子へ、事業承継で失敗する典型例とは

光田 卓司
船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部 マネージング・ディレクター
横浜国立大学を卒業後、船井総研に入社。大学時代にベンチャーを立ち上げるなど多岐にわたるビジネスを経験。入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者として多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者を務める。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去に経営支援を行ってきた企業は200を超える。


できれば子どもに事業を引き継ぎたいと考える中堅・中小企業のオーナー社長は少なくないでしょう。今回は親から子への事業承継について典型的な失敗例と、その原因について、船井総合研究所の光田卓司氏にお話を伺いました。

親子で会話、できていますか?

中小企業の事業承継では、親から子へ引き継ぐ、いわゆる「親族内承継」を希望するオーナーが多いと思います。子への承継で失敗する典型例は、(1)子どもが会社を継ぎたいと思っていない、(2)子どもの経営者としての能力が十分でない、という2パターンです。

戦後復興からバブル経済に至るまでの経済成長を経験している団塊の世代は、親の会社を継ぐのは当たり前と考えていた方が多かったでしょうし、継いだ後も成果を出しやすかった世代と言えます。一方、今の30〜40代は「日本経済の状況は良好ではない。今後はどうなるのだろう?」という不安を常に抱えて生きてきました。「日本の経済成長に絶対の信頼を置けない状況で、負債のある会社を継いでやっていけるだろうか」という不安の声を、2代目世代からよく聞きます。一方で、やはり親(社長)は「できれば子どもに承継したい」と考えている方もいます。

さらに問題なのは、こうした本音を親子で共有できていないことです。社長であるお父さんは「息子に継がせたいけれど、本当は継ぎたくないのではないか。しかし、面と向かって話し合って継ぎたくないと言われたらショックだな…」などと考えて対話を避けている。一方、息子さんも「継ぎたくないけれど、会社には入れられてしまった、どうしよう」と思っている。私の顧客企業でも、こうしたケースをたくさん見てきました。

一般の親子以上に、経営者ファミリーは会話が少ないケースもよく見られます。「家に帰ってまで仕事の話はしたくない」「話すと喧嘩になる」という悩みを抱えていたりします。

頼れる「番頭さん」が不在

(2)の「子どもの経営者としての能力が十分でない」というのも典型例です。下の図を見ても、この悩みを抱えている中小企業が多いことがわかります。

後継者決定企業における、事業承継の際に問題になりそうなこと

もちろん、スーパーマンのように一人で何でもできる必要はありません。頼れるナンバー2、俗にいう「番頭さん」と一緒に経営できれば良いのですが、お父さんの番頭さんとは、良い関係を築けないケースも少なくありません。うまく行っているケースでも、お父さん世代の番頭さんは高齢でしょうから、いつまでも頼るわけにはいきません。

このポイントは非常に重要です。子どもの経営者としての能力を育てるとともに、子ども世代のナンバー2を育成していく必要があるのです。

外部の力も借りて承継準備を

我々が中小企業を支援する際、2代目教育では「師と友づくり」を重視しています。先ほどもお話ししたように、「親子で話すとすぐに喧嘩になる」「息子が言うことを聞かない」という悩みはよく見られます。そうした場合は、同業者で頼れる経営者など、外部に師匠を持って、しっかり教えてもらえば良いのです。若いうちにほかの会社に就職させて修行期間を設けるというのも良い選択だと思います。

また、親子で直接対話をするのが難しければ、我々のようなコンサルタントや銀行など、外部の頼れる人に間に入ってもらうのも手です。私も昔からお付き合いがある会社の場合、息子さんが小さい頃から知っていて「親父には話せないけれど実は…」と、心の内を明かしてくれることがあります。お父さんの本音もお聞きしていますから、より良い着地点を見いだせることもあります。

親子で会話がないまま、ある日突然、社長の病気などで承継の必要が生じてしまい、「息子は継ぎたくないと言うし、どうしよう」と頭を抱えるケースもあります。どうにか子どもに継いでもらうにしても、第三者承継、つまりM&Aするにしても、慌ててやるのでは満足いく結果は得られません。

まずは親子の意思疎通から始めて、3〜5年程度かけてじっくりと承継準備をしていっていただきたいと思います。そして、コンサルタントや銀行など、外部の力を適切に借りることも検討していただけたらと思います。

事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年10月25日時点の内容となります。
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