「ECサイトをトラブルなく開設・運営するための法律知識」では、民法や消費者契約法に基づき、「利用規約」の重要性などを紹介しました。
続く今回は、ECサイトの運営でも特に問題になりやすい
- 個人情報の管理
- 著作権や商標権等の知的財産権の保護
- メールマガジンの送信
について、要点を分かりやすく説明していきます。
1 個人情報の管理
ECサイトの運営において、ユーザーから収集する個人情報を適切に管理することは極めて重要です。万一、個人情報が漏洩してしまうと、ユーザーの信頼を失うばかりか、損害賠償責任などの法的な問題も生じます。
法律上、個人を識別できる情報であれば、メールアドレスだけでも個人情報となりますので、
- 個人情報にアクセスできる社員を限定する
- セキュリティ対策ソフトを導入する
などの措置が必要です。
情報漏洩の原因としては、ウイルス感染や社員の誤操作・誤送信などが多いので、社員へのセキュリティ教育(不審なメールを開かない、リンクをクリックしない、ファイルをダウンロードしないなど)を通じて、リスクを低減していきましょう。
2 著作権や商標権等の知的財産権の保護
通常、ウェブサイトのデザインやそこで使われている画像、ロゴなどには著作権や商標権が発生しています。ネット上にあるとはいえ、ECサイトを作成する際に他社のデザインを模倣したり、無断で画像や文章などを使ったりすることはできません。
よくみられるのは「著作権フリーの素材は完全に自由に使える」という誤解です。著作権フリーといっても著作権が消滅しているわけではなく、
単に著作権者が不特定多数の人に広く使用許諾をしているだけ
です。利用規約を確認してみると、
- 商用利用を全く認めないケース
- 商用利用には事前許諾が必要なケース
- 素材を使う場合に著作者名やサイト名の明記が必要なケース
などの利用条件を定めている場合が多いはずです。以上のように、著作権フリーの素材であっても著作権侵害となることがある点に注意しましょう。
なお、詳細は省略しますが、文章の場合は「引用」が認められるケースもあります。ただし、この場合、引用した箇所が分かるようにする、引用元を明記する、全体として引用した内容が「従」の位置付けである(「主」ではない)といった条件を満たす必要があります。
3 メールマガジンの送信
メールマガジン(以下「メルマガ」)はECサイトの利用を促すための一般的な方法ですが、ここでも注意点があります。例えば、自社商品のセール情報を伝えるような、広告や宣伝のためのメルマガは、特定電子メール法や特定商取引法による規制を受けます。具体的には以下の通りです。
- オプトイン規制:メールアドレスを取得する際、ECサイトの運営者からメルマガを送信することについて同意を取得する
- 記録保存義務:同意を取得したことを記録として保存する
- 表示義務:メルマガを配信する際、定められた内容を記載する
- オプトアウト規制:メルマガを希望しない旨の連絡を受けたら、配信を停止する
厳密には特定電子メール法と特定商取引法とは、規制の目的や内容、対象などが異なりますが、この記事では規制の概略を分かりやすく知っていただくために、あえて分けずに説明します。それでは、詳しく確認していきましょう。
1)オプトイン規制
メルマガを配信する場合、ユーザーから個人情報を取得する(ユーザー登録してもらう場合を含む)際に、その旨の同意を得なければなりません。ECサイト上で同意を得るための代表的な方法は以下の通りです。
1.チェックボックスを設置して同意を得る
例)☐ 当社からのサービスやセミナーの案内メールの送付に同意します。
ECサイトにユーザー登録をしてもらう際、チェックボックスを設置するのはよくある実装です。この場合、デフォルト(初期設定)でチェックボックスにチェックを入れておくこと自体に問題はありません。ただし、チェックを外さなければ同意したことになる旨を記載し、かつ、容易に認識できるようにフォントサイズを大きくしたり、フォントカラーを変えたりして視認性を高めることが望ましいです。
2.チェックボックスを設置しないで同意を得る
例)下記の「ユーザー登録のボタン」をクリックすると、自動的に当社からのメールマガジン(サービス案内など)にも登録されます。
チェックボックスを設置しない場合、上記のような文言で同意を得ます。この場合も、フォントカラーを変えたりして、同意取得に関する文章の視認性を高めることが望ましいです。
2)記録保存義務
特定電子メール法や特定商取引法では、前述したオプトイン規制でユーザーから同意を得たことの記録を保存することが求められています。
まず、保存内容としては、
- 同意を得た時期と方法など
- 同意を得た際の書面、メール、ウェブサイトの画面(フォームなど)
となります。また、保存期間(特定商取引法で定められている期間)は、
メルマガを送信した日から3年間
となります。
実務上、社内の担当部署や連絡窓口となる部署を決めておき、当該部署で保存方法等を検討するような運用が多いと思われます。
3)表示義務
メルマガには以下の情報を表示しなければなりません。
- 配信者の氏名または名称。ただし、サービスを提供しているウェブサイト名やサービス名などでは、「配信者の氏名または名称」を表示したことにならない
- メルマガの受信拒否ができる旨
- 受信拒否の通知をするための配信者のメールアドレスまたはURL
- 配信者の住所、苦情・問い合わせなどを受け付けることのできる電話番号、電子メールアドレス、URL
一般的には、メルマガの最後に次のような表示をします。受信者(ユーザー)が分かりやすいように、できる限り、本文の最初または最後に記載することが望ましいです。なお、住所、TEL、E-MailをURLのリンク先に記載し、URLだけを記載する方法で問題ありません。
株式会社○○
問い合わせ先
住所:東京都〜〜〜
TEL:00-0000-0000
E-Mail:aa@aa.jp
URL:https://
4)オプトアウト規制
オプトアウトの方法には次のようなものがあります。
- メルマガへの返信:配信停止を希望する場合は、その旨を本メールにご返信ください
- URLから配信停止:配信停止は「こちら(配信停止設定ができるURL)」から
- メールで通知:配信停止を希望する場合は、aa@aa.jpまでご連絡ください
4 その他~特定商取引法の改正について
このほか、改正特定商取引法の施行に伴って、2022年6月1日からECサイトで購入の申込みをする「最終確認画面」において、ユーザーが「注文確定」の直前に以下の各契約事項を簡単に最終確認できる表示が義務付けられました。最終確認画面とは、
ユーザーがサイトの画面内に設けられている申込ボタンなどをクリックすることで、契約の申込みが完了することになる画面
です。要するに、商品の購入ボタンをクリックすると現れる画面です。
1.分量
商品の数量、役務の提供回数などのほか、定期購入契約の場合は各回の分量も表示します。
2.販売価格・対価
複数商品を購入するユーザーに対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は2回目以降の代金も表示します。
3.支払の時期・方法
定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示します。
4.引渡・提供時期
定期購入契約の場合は次回分の発送時期などについても表示します。解約手続との関係があるためです。
5.申込みの撤回、解除に関すること
返品や解約の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件などについて、顧客が見つけやすい位置に表示します。
6.申込期限(期限のある場合)
季節商品のほか、販売期間を決めて期間限定販売を行う場合は、その申込期限を明示します。
以上
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。
提供
松下翔(まつした しょう)弁護士(第一東京弁護士会所属)。リアークト法律事務所代表。弁護士登録以降、社内弁護士や企業法務系法律事務所でコーポレート全般、M&A・組織内再編、スタートアップ支援・芸能関係の業務に多く携わる。一つの問題を解決するにあたって、その問題に内在する原因を的確に抽出、分析し、何故その問題が生じたのかという点を突き詰め、根本的な解決策を提供できるよう心掛けている。
外部から法律顧問として関与する従来の弁護士のスタイルとは異なり、内部に深く入り込み、社内の一員として法務組織を構築していくという独自のサービスを提供し、好評を得ている。
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