これからの宇宙ビジネス

宇宙ビジネスの市場規模が急拡大しています。かつて宇宙は国主導の研究開発が中心でしたが、いまや多くの民間企業が宇宙事業に参入。特に中小企業やスタートアップが宇宙に目を向けるケースが目立っています。今回は宇宙ビジネスの現状と将来性、日本の立ち位置について掘り下げていきましょう。

国から民間へー宇宙開発の主役交代

宇宙産業はロケットや人工衛星の開発・運用を国が主導し、大手宇宙関連企業が手がける「オールドスペース」が主流でした。しかし近年は民間主導の「ニュースペース」が世界の潮流となりつつあります。代表格はイーロン・マスク氏率いるスペースX。2022年に61回のロケット打ち上げを成功させ、自社の通信衛星「スターリンク」や他国の人工衛星を宇宙へ送り込んだほか、国際宇宙ステーションへの物資輸送を担いました。
人工衛星と衛星データを活用した産業も、すでに生活に不可欠なサービスとなっている気象データや位置情報提供にとどまらず、一次産業や災害対策にまで及んでいます。宇宙を利用する主体が広がれば、当然マーケットも拡大。アメリカの金融大手モルガン・スタンレーは、2040年の宇宙ビジネス全体の市場規模が100兆円以上に成長すると予測しています。

日本企業の強みは小型衛星とデータ活用

日本には以前から、宇宙関連技術に長けた企業が数多く存在します。2020年、小惑星の砂を地球に送り届けた小惑星探査機「はやぶさ2」は、大手メーカーから町工場まで100社以上の民間企業が参加しました。近年は一段と小型化した衛星開発で日本は強みを発揮しており、従来の10分の1のサイズに収まる衛星や、重さわずか数キログラムの手のひらサイズ型も誕生しました。
これらの小型衛星を複数打ち上げて運用する仕組みが「衛星コンステレーション」。まるで星座(コンステレーション)を形作るかのように宇宙空間に配置された衛星を一体運用し、データ収集のエリアや頻度を増やすビジネスが盛んです。

例えば北海道東部、帯広市を中心とした十勝地方では、農業協同組合連合会が衛星データを活用して広大な農地の状態を「見える化」。各農家がスマートフォンやタブレットで作物の生育状況、土壌状況を把握でき、収穫作業の効率化や高品質な作物生産に役立てています。(※1)
またRidge-i(東京都)は、もともと工場で製品画像から品質をチェックするAIシステムを主力にしていました。その後、衛星画像をAIで補正して鮮明にすることで、自然災害の発生エリア検出に貢献しています。(※2)

このほか、宇宙ビジネスに不可欠な機器製造には国内の中小企業が数多く参入しています。バルブやポンプなど流体制御機器メーカーの高砂電気工業(名古屋市)は、2010年ごろから宇宙分野の研究開発を開始。衛星の姿勢制御や軌道修正を行うエンジン用バルブの製造を手がけるようになりました。鯖江精機(福井・越前町)は1000分の1ミリ単位で産業用機械を調整する技術を生かし、小型衛星の筐体の金属板を製造しています。(※3)

日本の立ち位置と今後の動向

急速な市場拡大を受け、日本政府も宇宙ビジネスへの取り組みを加速しています。2023年6月に閣議決定した宇宙基本計画では、宇宙関連の国内市場規模について、2030年代早期に現在の2倍となる8兆円へ拡大させる目標を掲げました。実際、3,500億円前後で推移してきた宇宙関連予算は2021年度に4,000億円、2022年度には5,000億円を超えるなど増加傾向です。さらに宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年間で1兆円規模の「宇宙戦略基金」を設置し、民間企業や大学などの宇宙開発を支援する方針も決めました(2023年11月2日閣議決定)。

一方、日本はロケットの開発で海外企業と比べ後れをとっています。2023年3月の打ち上げ失敗以降、9月に成功するまで自前の宇宙輸送手段を確保できない状態が続きました。しかし、明るいニュースもあります。2024年2月、新たな主力ロケット「H3」2号機の打ち上げに成功。国際競争の場にようやく立つことができました。今後は官民挙げて競争力を高めていけるかが、日本の宇宙ビジネス躍進の鍵を握るといえそうです。

柔軟な発想と想像力が参入を促す

宇宙ビジネスは技術革新と市場の拡大により、新たなビジネスチャンスが次々と生まれています。これまで見てきたように衛星データを活用する点で物流や建設・不動産、インフラ、一次産業などで活用が進んでいますが、柔軟な発想や想像力を駆使すれば業種や企業の規模を問わず参入できる可能性が広がりそうです。

「宇宙開発や宇宙産業とは無縁」と思わず、「この問題の解決に衛星は使えないか」「このデータと衛星のデータを組み合わせたら面白いのでは」と、自社のビジネスに宇宙を掛け合わせることができないか、注目してみていはいかがでしょうか。

(※1)経済産業省北海道経済産業局「ロケット・人工衛星の製造および衛星データ利用サービス23事例」(2023年2月21日)
(※2)内閣府「衛星データをビジネスに利用したグッドプラクティス事例集第2版」(2020年3月)
(※3)日本公庫総研レポート№2021−2「コンステレーションビジネスで広がる中小企業の宇宙産業への参入機会」(2021年8月)

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年6月14日時点の内容となります。
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