光田 卓司
船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部 マネージング・ディレクター
横浜国立大学を卒業後、船井総研に入社。大学時代にベンチャーを立ち上げるなど多岐にわたるビジネスを経験。入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者として多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者を務める。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去に経営支援を行ってきた企業は200を超える。
子どもへの承継(親族内承継)が難しい場合、経営陣による承継(MBO)もしくは第三者による承継(M&A)を模索することになります。その場合の注意点や失敗しがちなポイントはどのあたりにあるでしょうか? 船井総合研究所の光田卓司氏にお話を伺いました。
子どもが継がない場合の2つの選択肢
多くの中堅・中小企業のオーナー社長は、まずは子どもへの事業承継を模索するものですが、さまざまな理由でそれがかなわない場合は、2つの選択肢があります。経営陣によるMBOと、第三者に承継するM&Aです。
MBOの場合、社長が「この人なら」と思える経営陣に会社を託すわけですから、承継後の経営は比較的スムーズにいくケースが多いと思います。他の従業員も一目置くような人材であれば、社内の雰囲気も悪くなることはないでしょう。
ただし、優良な企業の株式を取得しようとする場合、MBOに必要な資金も高額であり、資金調達における課題を解消する必要があります。
M&Aでの注意点は?
M&Aについては、失敗事例は数多くあります。金額面での条件は良かったものの、買収先企業との相性が悪くて従業員が多数辞めるなど社内が混乱するケースや、「表明保証」に関するトラブルが典型例です。
表明保証とは、「契約締結時や譲渡日において、一定の事項が真実かつ正確であると表明し、その内容を保証する」ものです。M&A後に新たな問題が発覚した場合は、表明保証違反となり、損害賠償請求などが発生します。会社を5億円で売却したものの、後日、ビジネスで不祥事が発覚して、3億円の賠償金を請求された、というようなケースです。
売却時に都合の悪いことも隠さずに申告することは大切ですし、契約書は弁護士に依頼して文言をしっかり精査するべきです。もちろんそれなりの対価を支払わねばなりませんが、ここで出し惜しみをして、後で大損害が発生するというようなことは避けるべきです。
また最近、売り手企業の現預金だけ吸い上げる詐欺まがいのM&Aがニュースになるなど、買い手企業に問題があるケースもあります。M&A仲介会社にも問題があるとの指摘もあります。仲介会社が早く案件をまとめようと急ぐがあまりに、買い手企業に対する調査が甘いということもあり得ます。M&Aを検討する際は信頼のおける仲介会社を選ぶことも重要です。
このような事態に陥らないためにも、専門家や金融機関など、外部に相談しながら進めていくことも検討していただければと思います。
どの選択肢も選べないケースとは
親族内承継、MBO、M&Aのいずれも選択できないケースもあります。それは、会社の財務内容が良くないケースです。利益を出せず、借入金が積み上がっている会社を子どもが継ぎたくないと思うのは当然です。無理をして引き継いでも、失敗する可能性が高いでしょう。
財務内容が芳しくない場合、MBOやM&Aもなかなか難しいでしょう。キャッシュフローを改善し、手元に残った現金はしっかりと投資をして利益を伸ばす戦略を立てることが先決です。
どの事業承継の道を選ぶにしても、財務がしっかりしていて利益が出ていることが大切です。経営状況がますます悪化して火の車というような状況にまでなってしまうと、そこから改善させることが難しくなりますから、早めに対策を考えるべきです。
(事業承継の早期対策については、「事業承継に10年かかる?〜今からできる会社の磨き上げ〜」で詳しく説明してます。)
事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。