早めに取り組みたい、医療法人の事業承継

医療法人の事業承継は、一般事業法人以上に難しい面を持ち、後継者不在率も高い傾向があります。しかし、そのまま放置していては、理事長が亡くなったときに親族はもちろん、病院で働くスタッフや患者たちも困る事態になりかねません。そこで、税理士法人日本経営の代表社員税理士である大坪洋一さんにお話を伺いました。


税理士法人日本経営 大坪 洋一(代表社員税理士)
税理士。1972年高知県生まれ。2006年11月税理士法人日本経営に入社。企業経営者やドクター、資産家の相続・承継に関する業務に豊富な経験を持つ。依頼者に寄り添いながら、最善の提案を行う。

一般事業法人よりも難しい、医療法人の事業承継

一般事業法人であっても、後継者不在に悩むケースは少なくありませんが、医療法人ではさらに後継者探しの難易度は高い印象です。原則として医師免許を保有していないと医療法人の理事長になれないため、後継者探しが大変なのです。日本医師会が2020年に発表したアンケート調査では、「後継者候補がおり、承継について意思確認済である」と答えたのは、わずか24.1%。「後継者候補はいるが、意思確認していない」「現段階で後継者候補はいない」と答えた医療法人が合わせて75.9%という結果でした。(下図参照)

後継者の有無と意思確認の状況

たとえ子どもが医師であっても、必ずしも跡を継いでもらえるわけではありません。「都市部で最先端の医療の研鑽を積みたい」と望み、親の経営する地方のクリニックに戻ることに難色を示すという話をよく耳にします。医療法人の経営者の方々と日々、お話をしていると、この段階で「仕方ない」と諦めて状況をそのままにしているケースが少なくないと感じます。

理事長が亡くなってから困るケースも

つい先日も、後継者不在のまま、理事長が亡くなった病院から相談を受けました。この理事長は妻子がなく、両親と兄弟姉妹もすでに他界。相続人は20人もの甥と姪たちです。しかも、甥や姪は医療関係者ではなく、そもそも親戚付き合いもほとんどない、という状況でした。

出資持分を相続した甥や姪たちから払い戻し請求をされれば、医療法人の運営に支障をきたす程のキャッシュアウトが必要となります。そうならないよう、相続人の一人ひとりに丁寧な説明をし、誠意を見せ、医療法人存続のために持分放棄にご理解頂くなどといった、大変な苦労をしなければならないため、やはり生前にしっかり事業承継を考えておく必要があります。

「後継者不在のみならず、利益も上がっていない」というケースは、なおさら早めの対策が必要になります。運転資金が乏しくなり、理事長も高齢……というような事態に追い込まれれば、廃業もやむなしということになってしまいます。早い段階で経営改善対策を講じたり、他の医療機関に統合をお願いすることも考える必要があります。また、理事長が高齢でなければ、病院を手放して、他の医療機関で勤務医として働くこともできます。

誰に相談すれば良いか?

医療法人の事業承継は、一般事業法人とは異なった知識が必要ですから、しっかりとした知識を持った専門家選びが欠かせません。たとえば、認定医療法人制度がありますが、この制度について理事長はもちろん、顧問税理士など専門家もあまり詳しくない、というケースも散見されます(「『認定医療法人制度』を検討してみませんか」記事参照)。

病気やけがの治療においてセカンドオピニオン、サードオピニオンを受けることは今や常識となりましたが、医療法人の事業承継も同じように、複数の税理士や会計士に相談して、ベストの選択をしたいものです。

「顧問税理士以外に専門家を知らない」という場合には、取引銀行に相談してみてはいかがでしょうか。多くの銀行には事業承継の専門部署があるので、医療法人に詳しい担当者もいます。いきなり知らない税理士の門をたたくのはハードルが高いものです。取引銀行にしっかり相談に乗ってもらい、医療法人に詳しい税理士を紹介してもらう方が安心です。銀行から提案をもらう際には、顧問税理士に同席してもらうのも良いでしょう。

事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年1月24日時点の内容となります。
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