拠点展開で問われるトップのコミット

中小企業が拠点展開をする場合、最も重要なポイントは人材です。どれだけ市場調査を綿密に行なって、成功確率が高いと踏んで拠点を開設しても、人材の能力が不足していれば、その拠点を軌道に乗せることは非常に難しいのです。船井総合研究所執行役員の片山和也さんにお話を伺いました。


株式会社船井総合研究所 執行役員 DX支援本部 副本部長 片山 和也(かたやま かずや)
マーケティングオートメーション及びセールステック導入の専門家。上場企業から中堅・中小企業まで幅広く導入支援の実績を持つ。 また、日経クロステックでの連載を手掛けるなど、テクノロジー面とマーケティング面の両面に精通していることが大きな強み。 主な著書に「技術のある会社がなぜか儲からない本当の理由」(KADOKAWA)、「なぜこの会社には1カ月で700件の引き合いがあったのか?」(KADOKAWA)、「必ず売れる!生産財営業の法則100」(同文舘出版)、「はじめて部下を持ったら読む!営業マネジャーの教科書」(ダイヤモンド社)、「部下を育てるリーダーが必ず身につけている 部下を叱る技術」(同文舘出版)、「ぐるっと!生産管理」(すばる舎リンケージ)、「世界が驚く日本の微細加工技術」(日経BP)他、著作は優に10冊を超える。経済産業省登録 中小企業診断士。

拠点のトップは誰がなるべきか?

企業が業績を伸ばそうとする段階で、拠点展開は欠かせません(下図参照)。そして、特に中小企業が拠点を新設する場合、「誰が拠点のトップになるか」が非常に重要です。中小企業の拠点展開、気をつけるべきポイントは?」でもお話ししたように、東京の下町の町工場が、茨城や群馬に生産拠点を展開し売り上げを伸ばしているケースがいくつもあるのですが、これらのケースのもう一つの特徴は、社長が拠点トップに就任したことです。

企業規模を拡大するに当たって、重要と考える投資戦略

拠点開設の検討段階から軌道に乗るまでは、社長自らが陣頭指揮を取っていただきたいと考えています。社長が難しい場合でも、社長に準じ社長と同じような思考をもつ人材が手掛けるべきです。たとえば、社員に拠点開設の調査を任せるとします。その社員が内心「自分は拠点に転勤になりたくない。引っ越しはしたくない」と考えていたなら、拠点展開にネガティブな情報ばかりを上げてくる可能性があります。トップと同じ熱量で拠点展開に臨める人材である必要があるのです。

事前調査で見込み客がしっかりいることがわかっていて、満を持して拠点を作ったつもりでも、新しい拠点がいきなり軌道に乗る、というような甘い話にはなりません。

黒字化は早くて2年かかる

拠点を新設して黒字化するまでは、最低でも2年はかかるものです。新設直後は、思いもしなかったような問題がたくさん出てきます。こうした問題を一つ一つ、粘り強く解決した先に黒字化があるのです。

たとえば、販社が営業拠点を出したとします。顧客候補のメーカーに営業に行きますが、すでに他の企業が紐付きで取引をしていて、食い込む余地がない。こうした問題がたくさん起きてくるのですが、それを解決できるか否かは、拠点トップの能力によるところが大きいのです。「他社が紐付きですから、うちは無理です」というような、できない理由を報告してくるような人材では、その拠点が軌道に乗るのは非常に難しいと言わざるを得ません。

2年経っても黒字化できない場合、理由はさまざまですが、まずはここまで述べたように、拠点トップの能力不足。社長が自ら出ていっているケースでは、延々と黒字化しないということはあまりないのです。もっとも、いわゆるKKD(勘、経験、度胸)に頼りすぎてしまい、しっかりとデータで市場調査をせずに出て行ったというケースは例外です。

一般的には、2〜3年で黒字化しなければ撤退を検討するということになりますが、その拠点が戦略的に重要だと判断するなら、さらに粘るケースもあると思います。ただ、今までの延長線上で粘っても勝算は低いので、拠点トップを交代する、商圏を広げるなどの努力は欠かせません。そもそも拠点新設の際には最小限のコストで出しているはずですから、コスト削減で黒字化はあまり期待できないケースが多いでしょう。

転機は当初の想定を超えたところにあるものです。たとえば、ある会社の赤字続きの営業拠点は、結局その拠点から車で2時間も離れた場所で顧客を見つけることができ、大きな収益を上げることに成功しました。今では、全社で一番の稼ぎ頭の営業所になっています。

行き詰まりを打破するために

拠点展開がどうしてもうまくいかなくて袋小路に入ったときには、外に出ていって情報や助けを求めることも必要になります。われわれのところにも、拠点展開について中小企業経営者からたくさんの相談が寄せられますが、経営者が能動的かどうか。ここが非常に重要なポイントだと思っています。

たとえば、展示会やセミナーが有料であっても、しっかりお金を払って情報を取りにいく姿勢があるかどうか。無料なら行ってみるけれど、有料なら行かない。そう考える方も少なくないのではないでしょうか。しかし、私の20年以上のコンサルタント経験から言えるのは、有料でも情報を集めに行く、という能動性のある社長が成果を上げやすいということです。

良質な本を買って勉強するなり、展示会やセミナーに有料で参加するなり、何かしら行動パターンを変えなければ、新たな視点は見つかりません。手軽だからといって、YouTubeなどの無料動画で情報を探すのではなく、ぜひ情報源を精査していただきたいと思います。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年9月19日時点の内容となります。
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